表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
484/687

通話、或いは宝石獣

「『うーん、繋がってるかな?』」

 「ああ、聞こえてるよリリーナ嬢」

 おれは深夜の格納庫で、持ってきた飲み水の水面に映る少女に向けて頷いた。

 

 「『あれ?ゼノ君そんなところでどうしたの?珍しいね?』」

 「やっぱりさ、流石にもう見過ごせない事ばかりだから。力が足りないからって、何時までも後回しにしてられない。それが分かったから。

 何とかして、早急にこいつを」

 と、おれは格納庫に鎮座する銀色の翼竜を見上げた。エネルギーの翼膜の展開されていない巨大な鋼のプテラノドン。精霊セレナーデの翼を組み込んだ支援機、ジェネシック・リバレイターだ。

 大まかなガワは作れた。メインエンジンもアイリスが頑張ってくれた。でも、構造上合体可能ながらエンジン同士の同期が上手く行かず……実際にジェネシック・ライオレックスへの合体を果たすと直ぐに暴走してしまう欠陥機。

 「完成させなきゃいけない。これ以上、あまりアステールの苦しみから眼を背けるわけにはいかないんだ」

 だからって何が出来るんだよ?と言われると苦しいが、それでも動かない事なんて出来なくて。設計図上はそれなりに完成に近い筈で、そもそもエンジンの暴走を止めるシステムなんて書かれていない。

 未完成のサブエンジンなんかはあるので(というか、とんでもなく気軽に書かれているが、小型縮退炉ってそんなもの要求しないで欲しい。こちとらファンタジーだぞ、超科学は専門外だ。まだジェネシック・ルイナーのエンジンであるらしい雷電核の方が湖・月花迅雷みたいな雷の神器っぽいから分かるレベル)100%は無理にしても、合体して戦闘に耐えるくらいの事は出来る筈なのだ。

 

 何で暴走するのか掴めないし、ジェネシック・ティアラーと違って抑え込む事も出来ずに合体解除されてしまうから事実上使えない。

 だから何か掴めないか、翼を組み込んだエンジンを前に様々に唸る訳だが……

 

 結局何も分かってないんだよな。

 『私だって万能ではあっても全能じゃありませんよ兄さん。遺跡から大きく離れることは出来ませんし、この世界の外の法則によるそのロボットについては、当人に聞いた事しか知りません。そして、その設計図はその際には創られてなかったものですからお手上げです』

 と、この世界の神様も何とも出来ないことだしな。もうがむしゃらに探るしか手がないのだ。

 

 ま、完成させられたとしても最後の一機に関しては本気で何一つ完成の目処が立っていないので本来のジェネシック・ダイライオウに合体は出来ないけどな。せめてまともに使える合体形態が無ければアガートラーム相手に対抗すら厳しい。

 此方はアステールの魂を燃やされる前にあいつを瞬殺しなきゃいけないってのに、これじゃまだ困るが……

 

 「ま、今はおれは大丈夫。そっちは?」

 と、おれは背後を一旦振り返るLI-OHが其処には眠っている。エネルギーをまた供給し直してるため、今はうんともすんとも言わない。夜遅くだがちょこまかと猫のゴーレムが整備すべきところの点検なんかをしているのが微笑ましく、申し訳なくもなる。

 

 「『あ、そうだゼノ君!』」

 と、喜色満面、ニコニコ笑顔になるリリーナ嬢。ぴょこんとツーサイドアップが揺れ、その頭の上に何かの影が見えた。

 一瞬身構えるがぶっちゃけ此処でおれが構えても何にもならないし、それに……

 ひょこりと少女の桃色の頭の上に現れたのは、何というか……頭に蒼い宝石が付いたウサギ顔のリスといった趣の白い小動物であった。

 

 「『ん?その動物……カーバンクルか?』」

 「『そう、カーバンクル!いやー、アウィルちゃんが帰ってきたと思ったら、この子が出てきてカーバンクル達の森に招待してくれたんだよね!

 だから、ちょっと予定より帰るの遅れちゃうかも!』」

 そんな事をニコニコ告げてくる聖女様。横では……丸まって寝てるアウィルと、その背の甲殻に腰掛けているアナの姿もある。その膝にもちょこんと一匹色ちがいって感じのカーバンクルが乗っていて、何かのナッツを貰って齧っていた。

 

 「そっか。アウィルとも合流できたし、カーバンクルとも出会ったのか」

 「『いやー、可愛いね、この子達!

 ゼノ君のお陰だよ。私だけじゃゲームじゃ出てこなかったんで出会えなかったもん』」

 言われておれが?と暫く眼をしばたかせ……あ、と思い出しておれは手を叩いた。

 

 「そうか、ノア姫を通してリリーナ嬢にあげたあの宝石か」

 「『そうそう!あの石が点滅したから、それでこの子』」

 と、桃色の聖女は愛しそうに小動物を抱えあげると額を突き合わせた。

 「『この子達と出会えたんだ』」

 「『キュキュウ!』」

 魔法少女もののマスコット(おれ見たことは殆ど無いけれど、始水に特撮ヒーローものを見せて貰った時にちらりと映ってた)か何かのように尻尾を立てて鳴き声をあげるカーバンクル。

 うん、懐いてるな。何となくアウィル感がある。あそこまで大きくも強くもないけれど。

 

 「『だから、本当に有り難うねゼノ君。そして、この子達と暫く居るからちょっと帰りが遅くなっちゃうけど……

 その分、伝説のカーバンクルの力でシルヴェール様の婚約者さんも何とか出来るようにするから!』」

 

 あ、すっかり忘れてた。当初そんな目的で旅立ったんだったなリリーナ嬢達。

 「『あー、忘れてたなゼノ君?』」

 にんまりと、悪戯っぽく歯を見せて笑ってくる桃色聖女。抱えられた小動物も前足をびしぃ!と上げて追撃してくる。

 

 「『……御免ね?私が危険そうな奇跡の野菜をって提案したせいでゼノ君にも迷惑かけたし大変で、目的なんて吹っ飛んじゃうよね?』」

 と、突然雰囲気が変わって申し訳なさげに、少女はおれへと頭を下げる。

 「いや、誰かが何時か確認しなきゃいけなかった事だ。リリーナ嬢がそれを早めに果たしてくれただけだよ。

 それに、そうして危険を犯してくれたから、奴等の事が掴めた。アルカナ・アルカヌム・アマルガム、それがラウドラとシャンタを有するゼロオメガの一団であり、対峙する事になるだろうって……君が教えてくれた」

 「『あー、シュリンガーラ?の事別枠にしてるー!』」

 「おれはシュリを信じてる。でも、信じる覚悟を決められたのは……おれが一人じゃなかったからだし、ある意味君達のお陰でもあるよ」

 だからそんな気に病むなとおれは笑った。

 

 「あ、ただリリーナ嬢、一つだけ気を付けてくれ。カーバンクルが幻獣と呼ばれない理由、分かるか?」

 きょとん、とした顔が返される。

 「『ん、ゼノ君どうしたの?』」

 「いや、ちゃんと知ってて欲しい事だからさ。理由は分かる?」

 「『え、私そういうゲームで出てきてない話はちょっと……』」

 「カーバンクルは宝石に周囲の魔力を溜め込み、奇跡を起こす獣。だから宝石獣と呼ばれる。

 でも、その子達は自在に魔法を操る神の似姿たる幻獣じゃない。そう、カーバンクルの奇跡は好きに使えるものじゃなく、力の噴出の結果起きるもの。カーバンクル自身、それで傷付く……というか傷付いたから溜めた魔力が噴き出すという形で力を発揮する生き物なんだ」

 「『え、じゃあ』」

 「奇跡を起こして貰うのだって七大天やリリーナ嬢達聖女のものと違って、代償ありきって事を念頭に置いて、折角出会えたその子達に無理させ過ぎないように考えてくれよ?」

 その言葉に、はーいと元気良く少女は頷き返した。

 

 「……ところでリリーナ嬢、竪神は?」

 「『あ、頼勇様なら機械の左腕にカーバンクル達が怯えてるからって遠くで一人警戒してくれてるよ?』」

 「あいつ万能じゃなかったのか……」 

 「『あはは、こういう動物に好かれそうって印象は確かに無くもないけど、そうじゃなかったっぽいね……』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ