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依頼、或いは同人

「ということでだ、頼めるか?」

 色々と駄目なおれがまず頼ろうとしたのは、やはりというかエッケハルト……というか遠藤隼人であった。

 そう、アナの同人を自分でも描いていたとその昔おれに言っていた覚えがある彼だ。同人を描けるなら、おれのやろうとしている救いのある二次創作による打ち切り回避をごり押しで公式のフリして押し通すというとんでも手段も出来るだろう……いや出来るか?

 それはエッケハルト次第だが……

 

 「え、嫌だけど?」

 と、最近引きこもりがちの彼は見下すような視線でおれを見た。

 「っていうかさゼノ。公式が言ってるだけって創作として割と最低の侮辱なの?分かる?そんなものに加担させるってさ、創作者への侮辱だぞ?

 二次創作なんて愛と敬意で……」

 「いや二次創作でもしかしたらを描いてるなら同じじゃないか?貶める気があるかどうか」

 「公式がこれが結末って言ってるのを」

 ごね続ける彼に、思わず口が滑る。

 「ならそもそもお前のやってることも同じだろエッケハルト」

 そして、あまりの最低発言に嫌になる。

 

 「そして、おれも、ユーゴ達も。それこそリリーナ嬢だって。

 真性異言(ゼノグラシア)なんて、おれ筆頭にどいつもこいつも当にお前の非難する最低の二次創作者だろうが」

 そう毒づいて……いや駄目だろこれと自責する。これから手を貸してくれって頼む相手にこの罵倒、おれはアホなのだろうか?

 「ふざけんなよゼノ!」

 あ、扉をバタンと開いて全身出てきた。

 煽りは成功してしまったって感じか。いや、最低だなおれ、人の神経を逆撫でするのだけは得意というか、散々に敵相手に冷静さを喪わせてこっちに勝機の糸を手繰り寄せ続けたせいか最低の方向の舌戦だけは無駄に強い。よくノア姫にもアナにも正論で論破されるので、普通の舌戦に関しては……こんなおれが皇族やってて良いのかってレベルだが。

 

 「やってくれるのかエッケハルト!」

 「……お願い、する」

 横で大ファンなのかあの打ち切りに憤りを見せるアイリスまでも出てきてくれた焔髪の青年に向けてぺこりと頭を下げる。

 だがなアイリス?これ多分おれにキレただけだぞ?火に油だ。

 

 「誰がやるか!そもそもおれはアナちゃんが幸せになる二次創作専門なの!

 いやまあそりゃ抜けたしお気に入りもあったけどアナちゃん陵辱ものとか、何よりノーアナちゃんものとか専門外なの!分かる?分かるかハーレムゼノ野郎!」

 血の涙を流しながら、おれにびしぃ!と指先が突き付けられる。

 「なら新キャラとしてアナ描けば?新キャラが何か意味深な助けかたしても良いだろ」

 「そんなことしたらお前モチーフの奴に惚れるヒロイン枠だろ!却下だ却下!創作でまで二度とそんな夢のないことを描きたくないの俺は!」

 「じゃあもう新キャラはカップルでお前モチーフの夫でも何でも出せよ、あの作品だと村娘のステラがメインヒロインで描かれてるし何も文句出ないだろ」

 「そーいう問題かよぉぉぉっ!?」

 喉の限りに叫んでくるエッケハルトだが、そういう問題なのでは?とおれは横のアイリスと共に首をかしげた。

 

 「御義姉ちゃん、モチーフのキャラ……あげるのは、勿体無い。ですけど」

 「違うのかエッケハルト」

 「本物のアナちゃんと触れ合えるのに、サブキャラもサブキャラにしたモチーフの娘と夫婦になっても虚しいだけだわ!

 イチャイチャにだって紙面をロクロク裂けないし」

 「伸ばせば?」

 「ページが足んないしテンポも酷くなるの!このド素人が!同人作家がどれだけ苦心して製本にちょうど良くて予算を越えない範囲のページ数に調節してるかお前に分かるか!」

 うん、知らない。とおれはどんどんとおれを叩くエッケハルトにむけて苦笑する。

 でも言われてみれば、紙を真ん中で束ねて本にする訳だから、紙を一枚増やすと四ページ分が出来てしまう訳だ。一ページ入れたいがために空白のページを三ページ増やしてしまうとそれはそれで問題だし、金も多く掛かる。

 うん、言われてみれば確かに間違いないんだが。

 「いや資金はおれとアイリス持ちだぞ?好きに描いてくれ、子供達の夢を守るために、アステールとの約束を果たした時にあの娘が悲痛な目にならないように!好きなだけ資金は出す!」

 皇族だから割と資金でごり押せるのだ、その辺り。というか、アステールも多分ごり押してたぞ、一作目では。二作目からはもう人気作品だからそんな無茶苦茶しなかったろうが……

 

 「……嘘、50000ディンギルが限界」

 「ご、五まっ……」

 うんまあ、流通込みとはいえ、同人一作品に50000ディンギル(日本に換算して5億前後)はヤバい投資だろう。好きなだけ好きなものを描ける。というか、おれの想定その1/5くらいだったしな。

 「……でも、なぁ」

 「頼む!エッケハルト!お前しか居ないんだよ、おれが知ってる、子供達を絶望させないだけの何かを描けるのは!」

 「お願い」

 でもおれに言えることなんてこれしかなくて、ただただ頼み込む。

 

 「何か言えよゼノ野郎!何か俺を動かせる報酬とか」 

 「策なんて無い!お前が納得してくれるものなら出す!おれに言えるのはそれだけなんだよ、だから!」

 おれの言葉を受け、目の前の豪奢なパジャマの青年はああもう!と自前の鮮やかな焔色の髪をくしゃくしゃに掻き乱した。

 

 「お前何時もさぁ……全くもうふざけんなよ!どんだけ迷惑してると思ってんだよ!」

 「……悪い。でも、今回も譲れない」

 「ああもう分かってるよ!描く、描いてやるからあまりふざけた命の危機に俺やアナちゃんを巻き込むな!」

 「ああ、分かってる。本当に助かるよ、エッケハルト」

 「お前そんなこと言って、アイムールがどうだのでまた危機的状況に引きずり込んだら今度こそぶん殴るからな!あと絵はある程度描けるけど文章はそこまで!もう一人くらいアシスタント連れてこい!」

 味方してくれると思ったが、提示されたのは案外難題だった。

 

 「ということでノア姫、頼めないか」

 「……あのね、ワタシは大概の事は出来るけれど完全万能無敵の存在じゃないわよ?」

 エッケハルトに働いてもらうべく、とりあえずといった形でエルフに頼めば、呆れた顔が返されたのだった。

 

 あれ?他におれの知り合いでこうした活動が出来ても可笑しくない相手なんて居たか?

 

 ……あ、一人居たわ。ガイスト……って違う違う、ニコレットだ。

 

 と、そこまで考え、おれはため息を吐いた。

 おれが散々にやらかしておいて、縁も切れていて、今更頼んだからって引き受けてくれるか、あの子……?

おまけ、呆れ顔のエルフ様挿絵(By みてみん)


注:後書きで告知していた某企画のおまけとしてえぬぽこ様から頂いたものです。

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