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庭園会、或いは怒りの源泉

挿絵(By みてみん)「シュリンガーラちゃん?『もう遅い』『何であの時居てくれなかった』って、恋愛的に実は落ちてる子の台詞だよ?

またゼノ君が厄介な子引っ掛けてる……」

「で、では!我々の未来のために」

 と、少しだけつっかえながらワカメヘアーの男がびしっとした礼服に着られながらグラスを掲げた。

 

 ちなみに、着られるというのは間違いではない。一応貴族の筈なんだが、本当に馬子にも衣装の逆というか、礼服が似合わないの何の。着られていると言いたくなるくらいに浮いている。四角い大きなテーブルの向かいに構えているラサ男爵の方が数倍着こなしているな。

 何やってるんだかと言いたいような気もするが、そもそも彼は研究職……ってそれラサ男爵もそうだな。ゴーレム使いなんて割と偏屈で引きこもりが多い。

 まあ、社交的な人は社交的なんだけど、統計的な話だ。お陰でああいう人はあまり礼服を着なれていない事も多い。

 

 その点、ラサ男爵って凄いとはなるが、そもそも何というか……アイリス自体引きこもりとはいえ、婚約者候補の人選可笑しくないだろうか父さん?

 

 そんなおれの横で、アイリスが無言で自身の前に置かれたグラスに口を付けた。

 「行儀が悪いぞアイリス?」

 「面倒……です。礼式を気に、しすぎる……場でも、無い」

 身も蓋もなくて苦笑しながら、すみませんとおれは二人に頭を下げた。

 

 結局残したのはこの二人。正直なところ、ラサ男爵寄りの判定をしたいおれだが、両方ともアイリスを任せるには不安が残るというか……早く来てくれー!竪神ぃぃっ!ってくらいの心境だ。

 

 うん、すまないガイスト。忘れてたが……いっそ此処に参戦してくれても良いんだぞ?と空いた一角を見て思う。

 

 おれとアイリスを挟むように四角いテーブルの両脇に二組が控えてるって形の……今日は会食回だ。前回と違ってゴーレムを出しての殴りあいはしない。というか前回も本来は見せあうだけで殴りあう気は毛頭無かったんだがな……

 

 ちなみに、前回で滅茶苦茶に此処の人々に嫌われたのか、シュリだけ完全に魔法込みの拘束具って感じの椅子だ。毒が垂れるからの、と本人は小さく笑ってはいたが……これ普通にヤバくないか?と抗議したところ、毒を抑えさせてみせろと返されてしまった。

 アイリスが落ち着いたらシュリを連れ出そうと思う、と思いながらおれも出された茶を一口啜る。

 

 うん、毒。露骨というか、下剤というか……シュリがうっかり(かは微妙だが)持ってきた毒と同じものだろう。

 そんなにおれが居て欲しくないか、この家の人々は…… 

 そんなんだから原作ゲームからしてやらかすんだよ、と内心で溜め息を吐きながら半ばまでおれは茶を飲み干した。

 

 「お兄ちゃん、中身……違う?」

 「飲むなよアイリス、あまり美味しくないからさ」

 ……毒と明言しないが流石に失礼だったろうか?なんて考えつつもおれはカップを置く。

 何処か期待を込めたような瞳。この館の主とその脇に控えた使用人がバレバレの見守りをかます中、一息吐いて……

 

 「悪い、正直皇族にこの程度の毒は効かないぞ?」

 茶化すようにおれはそんなもう犯人ですと言ってるような彼等に笑いかけた。

 途端、びくりと跳ねる小さなネズ耳の二人と、ダラダラと汗を流し出すワカメヘアーの主従達。

 

 「お兄、ちゃん」

 そして、怒りと共に座っていた椅子(ゴーレムを変形させた自前)をゴーレムモードに戻そうとする妹と、眼をしばたかせるシュリ。

 割と分かってるのか、ラサ男爵は何も言わずに状況を見ていた。

 

 「毒?」

 「攻撃しちゃだめだぞアイリス。そんなことしたら、皇族はただの危険な怪物になる。排除されるべき、恐れられる化物だ。だから、絶対に何もするな。

 リセント子爵。試したかっただけなんだろ、皇族の力を?だから、笑ってやり過ごすんだよアイリス。

 効きやしない、そもそも傷付けてすらいない……喧嘩すら売れてないんだから、そんな守るべき民に対して上げる手なんておれ達は持っていない」

 割と暴論だが、そうしてひたすらに民の剣であり盾であり続けたから、おれ達皇族は馬鹿みたいな力を持ちつつ恐れられずに高い地位にふんぞり返れている。

 

 「ラサ男爵、どうやら余程おれは歓迎されていないようだ。シュリを借りても?」

 「どうぞ、傷一つ無く返して下さるのであれば幾らでもお貸ししますよ」

 その言葉を、苦々しげに見つめるワカメヘアー

 そんな彼こそが元々対処すべき相手だから、おれははぁと息を吐きつつ彼に向き直る。

 

 「リセント子爵」 

 「あてつけの……」

 「そもそもです。これはアイリスとの新たな縁を描くためのもの。

 既におれとシュリという形で縁があるならば、わざわざ更なる結び付きなど要らないという判断かもしれない。その方向にも思いを馳せて貰いたい」

 つまりあれだ。おれとシュリが仲良さげにしてるから自分は切り捨てられると焦ってゲームみたいな馬鹿やるなよ?という釘差しである。

 こんなものがどこまで通用するかは……正直分からないというか効かない気もするが、言わないよりはまだマシだろ多分。

 

 「む?儂、お前さんのものになるのかの?」

 「……シュリが本当は男爵の奴隷で居るのが辛くてならないって場合なら、買い取る事も視野に入れるけど?」

 なんて軽口をシュリと叩きあう。実際には有り得ないなんて分かっているけれど、今はシュリが敵であると理解している事などおくびにも出さずに友好的に振る舞い続ける。信じたいと言っておいて、今は敵だからって敵対視しすぎるのは馬鹿だしな。

 

 「まあ、良いでしょう。二度と戻ってこなくて構いませんし、汚物同士お似合いとも言えるもの」

 その言葉に、おれは静かにワカメヘアーの子爵を睨みつけた。

 いや、幾らなんでも許容範囲外だ。どうしてこうも口が悪いんだ、うちの貴族は。

 ……父やおれからして相当悪いからお国柄というものか。

 

 「子爵。おれは良い、どうせ忌み子、好きなだけ貶して溜飲を下げれば良い。

 シュリについても多少は許す。迷惑していることは確か、部外者のおれが愚痴の一言も許さないというのはお門違いだろう」

 でも、と立ち上がりながら叫ぶ。

 

 横でネズ耳の女の子がびくりと跳ねた。尻尾がくるくると丸い辺り、滅茶苦茶怯えている。

 「あまりおれの友人を馬鹿にするな。なりたくてなったものでもない、やりたくてやってることでもない。毒を持つからといって侮辱が過ぎる。

 アイリスの婚約者"候補"である意味を、品位を、あまり落とすな。民に対してのあまりの無礼があれば、容赦なく潰す」

 

 行こうか、シュリと声をかけながら、内心で頭を抱えるおれ。

 いや、完全に喧嘩売ったわこれ。何やってんだか、色々言っておいて、結局おれが全部台無しにしてないか?これ普通に原作でのやらかしルート入りそうな……

 知ってて割と後手に回ってるとかアホかこのおれ?

 

 でも、だ。

 ひょこひょこと着いてくる紫の毒龍少女を見ながら、放っておく方が悪いな、とおれは自分を正当化した。

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