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報告、或いは知らぬ言葉

所在無さげに誰かを探す女の子の横を通り抜け、妹を送り、おれはふぅ、と人気の無い広場で息を吐いた。

 

 と、後で汗を拭う為に張っておいた桶の水面が揺れている事に気が付く。

 この反応は水鏡のそれかと近づいて覗き込めば、其処に映ったのは少し前にも話題に挙がった友人の姿であった。

 

 「竪神か。アナに頼んで水鏡を繋げて貰ったって感じか?」

 水面に映る青年は静かに頷く。

 「『ああ、話がしたいことがあって、けれども皇子に確実に繋げる手段が私には無いから、腕輪の聖女様に力を借りている。

 皇子の居る場所、で水鏡の魔法の地点指定が可能なのは何というか驚きだが……』」

 聞こえてくるのはそんな声。というか、アナの使う水鏡って昔は姿を映せても声を届けられなかった筈なのに、いつの間にか声すら届くように進化してるんだが。最早只のテレビ電話だ。

 

 「そっちはどうなんだ竪神?シルヴェール兄さんの婚約者の病を治せる何かを探しに出掛けた筈だが。

 というか、今何処だ?」

 「『一つ試してみたいものがあって、トリトニス方面に来ている。リリーナ様から話を聞いたが、そもそも乙女ゲーム?時代には奇跡の野菜という話は全く無かったし、トリトニスでの決戦も行われなかったらしいが、本当だろうか?』」

 「ああ、確かに」

 と、おれは意図が理解できてふむふむと首肯を返した。

 

 そっか。おれには何か不味い野菜だなーくらいの認識で、平民も多い修学旅行中には街長が逃亡した先として交流が途絶えていた事もあって出てこなかったからすっかり忘れていたが、あの国原産の奇跡の野菜なんて試してみる価値はありそうなブツの情報とか既にあったんだな。

 リリーナ嬢がそれに気が付いて試してみようよと言ってくれて助かった。

 

 「奇跡の野菜に関してはやはりトリトニス方面以外ではそう話を聞かないからな。試してみる価値はあるだろうな」

 「『私もそう思ったし、他にも探れるものは多いだろう。

 龍姫様の遺跡も湖底にあると言うし、手懸かりは幾らでも欲しい』」

 ……あったっけ?

 

 ……有った気もするな。

 

 と思考を巡らせれば、親友が少しだけ怪訝そうな目をおれに向けていた。

 「ん、竪神?何かあったのか?

 此方はとりあえず言っていたアイリスの婚約者だ何だのアイリス派の話がって状況だ」

 結構地位が低い相手ばかり選ばれてたが、あれも父の策だろう。下手に高位の貴族とだと他派閥から狙われやすいという判断。

 というか、高位貴族と結婚ならもうそれガイストとで良いだろで終わるしな。

 

 「『そのアイリス殿下の婚約者の話だが……

 リリーナ様と何か話したかったんじゃ無かったか?』」

 一拍おいて切り出される話。

 「いや、ゲームでの話などを少し聞きたかっただけで、実際に彼らと話してみれば相応の対応は出来るから問題ない。おれの知識があくまでもゲーム通りになっていた場合に合っていたか確かめたかった、それだけなんだ」

 「『そうなのか。ならばそれに関してはそう気にしないようにするが……

 遺跡などについて、皇子が分かることはあるか?』」

 遺跡か、とおれは少し考えを纏める。

 

 遺跡と言えば、ティアの居た謎の遺跡が一つ思い浮かぶ。それに関連したキャラとなるとティア自身、一応原作だと縁があるらしいおれ、ゴブリンのルーク達だが……

 ルークは幼いし、ティアには連絡手段がないし、おれはあの遺跡について無知だ。

 

 いや、ゲームではばかり考えていても仕方ないかもしれないな。となれば、縁があるのはまずコボルドのナタリエ……に聞いても仕方ないな。となれば、ノア姫?

 

 「すまない、ノア姫に聞いた方がまだ分かるかもしれない。

 恐らく、魔神王等ならある程度知っているとは思うが」

 わざとシロノワールが来そうな言葉を紡いでみるが、影からはおれを睨む冷たい視線だけが返ってくる。何も教えてくれないのか、知らないのかだ。

 遺跡に現れた四天王アドラーの存在から何かは掴んでいたと思うが……教える価値もない事だったのかもな。

 

 「ノア先生か」

 「ああ、他にはリリーナ嬢なんかも知ってる可能性はあるが……」

 「『他は?』」

 「シロノワールは知らないのか分からないが教えてくれそうにない。だからそれで全部だ」

 「『……了解だ』」

 どこか怪訝そうに話が切られた。

 

 「というか、遺跡についてって、探すのは薬草等の病に効きそうなものじゃないのか?」

 此方も理解が及ばずにそう問いかける。頼勇を疑う気はないが、何か変だ。

 「『実はこんなものを見付けてな。

 何かを感じた』」

 と、彼が見せてくれるのは一冊の本。

 いや、あれアナが持ち運んでるノートだな。

 

 「『本物は壊れかけた石碑だったんだが、不可思議な文字が描かれていた。

 読めない文字、作為を感じてリリーナ様に転写して貰ったんだが、彼女にも見覚えあるような無いようなと言われてしまった。何か覚えはあるだろうか』」

 言われて拡げられるノート。

 其処に書かれている文字は確かに彼には見覚えがないだろう。

 

 って言っても、おれ自身何処か日本で見たことがあるだけなんだがな。

 「竪神、これ恐らくインドのサンスクリット語か何かだ。地球という星の言葉だよ。

 真性異言なら見覚えがあるかもしれないけれど、この世界の言葉じゃない」

 「『つまり、読めるのか?』」

 「いや、おれ自身多分そうって分かるけど習った訳じゃないから読めないかな。

 ただ、何となく伝わってくる。これは、何かを訴えているって」

 苦笑して答える。これはノア姫に聞いても分からないだろう。というか読めたらビックリだ。

 

 「エッケハルトにでも聞いてみるかな……」

 「『ああ、頼んだ。

 また明日連絡する。この時間で大丈夫だろうか』」

 頷きを返すおれ。

 

 「ああ、分かった。連絡がなければ何かあったとして動く」

 「『頼んだ。その時に結果を教えてくれ』」

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