表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
457/687

後付け、或いは紋章

「すまなかったな、迷惑をかけた」

 「申し訳無いの、儂の毒じゃが回収など出来んからお前さんにやらせてしもうて」

 ぺこりと頭を下げてくるシュリ。その割と毒々しい髪が跳ねる。

 

 「お片付け、おわりました……」

 心底安堵したようなネズミ少女が何とか片付いた庭を眺めてほっと無い胸を撫で下ろした。

 敷かれた芝は地面にばら蒔かれたスライムの破片が放つ毒で溶けてしまい、ある種のミステリーサークルかの如くに変な模様が出現してしまってはいるが、一応毒は取り除けた。もう後で其処にテーブルを置いてお茶会をしたら残留した毒のせいで病に倒れて問題が起きるなんて事はないだろう。

 

 徹底的に月花迅雷の赤き雷で毒は焼き払ったからな。お陰でかなり焦げ臭いが、安心度は桁違いだ。

 ちなみに、子爵はその光景をみて唖然としていた。

 

 「すっごい刀……」

 「民を護る神器だからな」

 うん、原作ゲームだとゼノが月花迅雷を抜いてる描写とか無いし、その点では原作よりやりすぎた気もする。このイベントは月花迅雷を持たせてるかどうかでCGが変わったりしないし、本気の皇族を見せ付けられたりしなかったんだろうか。

 

 「化け物よ、終わったら」

 と、瞳を髪で隠したワカメがそんなことを言い出した。

 うん、完全に怯えられたか。だが……どうだろう、とりあえず彼のゴーレムを倒さずにライバルになりそうなラサ男爵のゴーレムは完膚なきまでにボコボコにしたという結果に終わった以上、そこまで過激に走るのはまだ先だろうか。

 警戒に越したことはないが、露骨にそれを見せすぎては逆効果だ。

 

 「ああ、すまなかった子爵。アイリスへの付き添いだったが、迷惑をかけてしまった。

 この先の話は、恐らくアイリスの婚約話を進める父の使者からあるだろうから、おれ達は今回はこれで失礼する」

 お庭……と後の事に悩んでいそうな奴隷の女の子に最後に笑いかけて、おれは妹と共に屋敷の門を潜る。それに合わせて、ある意味では元凶の男も門を通り抜けて外に出た。

 

 「……恐らく、男爵とリセント子爵辺りだけが次から候補になるだろう」

 と、おれは時折おれを見返しながら主人へと付き従う毒龍の女の子を見ながらそう持論を告げる。まあ、おれだけでなくアイリスの思いやその他諸々の思惑が絡むから一概に決まりとは言えないが……

 

 「少なくともおれは、貴方と彼にしか光るものを見出だせていない」

 「……全員タテガミと、お兄ちゃん……以下」

 それはいいっこなしだろアイリス。

 どうなんだとおれは相手を見るが、蛍光色が目に止まる彼は案外嬉しそうにその言葉に頷いていた。

 「光栄な話ですね」

 「光栄なのか」

 「その名を轟かす機虹騎士団の彼と比較される時点で、私の評価も分かるというもの」

 くつくつと笑う彼の表情に暗いものは見えない。横に控える毒龍少女も何だか自慢げだ。

 

 ……いや、分かってはいたが頼勇の世間評価って滅茶苦茶高いな?彼よりは下っていうのが褒められてると言われる程とは。

 いやまあ、伝説の英雄よりは下とかそう言われたとして悪い気はしないだろうし、理解できないわけではないんだけどさ。

 

 「主殿は人気じゃな、儂も嬉しくての」

 ぴょこぴょこ跳ねる毒龍の髪。そんな態度からは、言葉のような老獪さはあまり伝わってこない。何というか、ズレている。

 

 だが、おれに向けてくる瞳はそれとは違っていて。

 

 「ああ、そうだラサ男爵」

 おれは一つの紋章をポケットから取り出すと青年に向けて放り投げた。

 「む、これは?」

 「機虹騎士団の紋章だ。見せればとりあえずそこそこ便宜を図ってくれるし、色々と入れてくれる」

 「いや、それは良いのだが、何故私に?」

 もしかして、と青年の瞳がおれの背後に隠れがちな妹を見る。

 そこにあるのは怪訝さと少しの期待。唇がほころんでいる辺りそうだろうが……

 

 「いや、アイリスとは無関係に、おれからの贈り物だ。

 シュリが何処か寂しそうだから、会いに来れるようにと渡しておく」

 ……で、痛いんだがアイリス?そうおれの足を蹴らないでくれ。

 

 「シュリ、か」

 「ああ。男爵はそう呼んでは居ないようだが」

 「そもそも、何故シュリなのか私にはさっぱりだ」

 「ああ、儂に姉妹が居るというのは話したかの?

 主殿に買われたのは末の儂一人、ならば主殿からすれば儂らの区別など最初から必要なかろ?」

 と、フォローに入るのはシュリ自身だ。

 

 「それにの、主殿が欲しかったのは儂の体質、毒の方じゃし。儂でなく姉でも問題なかろ?

 ならば、儂も儂自身を区別して呼ぶ名で呼ばれる筋も無し」

 そう告げる言葉には寂しげな気配はない。けれど、告げるその少女の瞳は少し曇っていて。

 

 「……そういうことだ、男爵。関わった以上はおれはシュリの事を見てやりたい」

 「あげないが?」

 「いや、そういった話ではないんだが?

 とりあえず、シュリの為にも、おれ自身が貴方ならばという期待をしているという点でも、これを渡しておく」

 「わかった」

 と、青年は紋章を受け取ってくれた。

 それを見て、何処か不思議そうな毒龍少女と共に去っていく彼を見送って……とりあえずおれは訪ねてみる。

 

 「で、誰が問題児か分かったかアイリス?」  

 「お兄ちゃん泥棒の、あの毒物」

 「いや違うんだが!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ