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選定、或いは奴隷

「これから始まるの、何?」

 貴族邸宅の庭。会場とされた一人の婚約者候補(ちなみにやらかす当人)の屋敷の敷地内の其処で、おれの横の少女が首をかしげた。

 

 「分かってるだろうアイリス?戦いだよ」

 と、茶化すようにおれは告げた。

 

 「正確にはさ。ゴーレムマスターと呼ばれるアイリスと婚約するのに自分はこんなに相応しいっていうアピール会みたいなものかな。今日即座に決めろって話じゃないから、まだ最初のデモンストレーションみたいなもの」

 「つまり、LI-OHや、ゼルフィードを……御披露目する」

 「いやそいつらを創れるならとうの昔にもっと上の立場だろ」

 基本的にうちの学園なんて才能ある下級貴族とか平民拾うための場だぞ?そんな頭角見せてたらスカウトしてる。

 

 「残念ながら、もうちょっとポンコツかな」

 ……と、脇に控えていたメイドがギロリとおれを睨んだ。うん、すまない、この屋敷の主人をポンコツ呼ばわりは普通に失礼だった。

 

 ちなみにおれ達が居るのは割と豪勢にセッティングされた机と椅子の場所。何というか、垂れ幕とか掛かってて審査員席感がある……というか実質それだな。そして目の前の庭はだだっ広い。何でも元々飾られてる像を動かしたとかでぽっかりと空間だけが拡がっている。

 

 そこで、次々アピールしてくる四人の候補をそれぞれ見て、今日は終わりだ。

 

 少しだけつまらなさそうに待つアイリスと共に、おれも暫し待つ。ちょっと足腰の為に正座しておくか、こんなタイミングでもトレーニングしておかなきゃ鈍るからな。

 何てやっていると、最初の一人がやってきた。

 

 ちなみに、ゲームでのモブ三人が先だ。この屋敷の主からしたら恋敵なんて長々と招いておきたくないのだろう、終わったら出てけという扱いである。

 それぞれ……うん、名前すらゲームでは出てこなかったから初見だ。

 

 一人目は冴えない青年だった。髪の色的に土属性持ちっぽく、ガシャガシャとゴーレムに乗ってやってくる。結構煩い辺り、金属ゴーレムだろうか。端から見れば土の巨人だが、中身は違うというセンスを見せたいのだろう。

 

 「殿下、殿下と同じ巨人の使い手で」

 「うにゃうっ!」

 あ、電光石火の猫パンチで左腕が吹っ飛んだ。今日のアイリスのゴーレムは移動用で戦闘力は其処まで高くない。それでワンパンで壊れる辺り駄目じゃないかこいつ?

 と思いきや、吹き飛んだ腕の内部からマジックハンドのようなものが複数伸びてパンチした猫の前肢を拘束する。

 

 ああ、成程、わざと脆くして攻撃反応トラップにしたのか。

 「ふふん」

 「にゃっ!にゃっ!にゃあっ!」

 が、そのままジェット噴射で空へと飛んでいく猫ゴーレムにぶらぶらと持ち上げられていく取れた腕。

 

 「イマイチ。発想の、割に……拘束力、足りない」

 ぽつりと無表情で評価するアイリスと、横で頷くおれ。

 

 「何を。そこのしたり顔の忌み子程度なら」

 と、ゴーレムの右手が取れた。ばら蒔かれて飛んでくる金属弾。変な切れ込みがある辺り、展開して拘束も狙えるのだろうが……

 「烈風剣」

 とりあえず斬撃を飛ばしてゴーレム本体の首を跳ねる。

 

 「……別にゴーレム本体を破壊すれば終わりだろ?」

 正座すら解かずにおれは鉄刀をこれ見よがしにチン!と音を立てて鞘に納めた。

 そんなおれの目の前でバラバラと制御を失い墜落していく金属弾。

 

 「撃ちっぱなしのものを混ぜればもう少し奇襲性が高まるだろうし、今後に期待だな」

 青年は肩を落として去っていった。

 

 ……で、なにこれ?

 ゲームでのアイリス婚約者イベントってこんな殺伐としてたっけ?愛刀だけで良いだろうと思いつつ鉄刀持ってきて助かった……

 ふぅと思わず息を吐く。

 

 まさか、一人目から刀抜くことになるとは……。荒事にならないならある種おれの象徴である湖・月花迅雷だけ持ってれば良いが、こうなると本気で加減用に鉄刀が必要になる。

 

 と思いながら二人目を待って……

 ふと、視線に気が付いた。

 

 何だろうか、何処と無く粘ついた不可思議な感覚。ねちゃりとした、例えようもない気持ち悪さがあるような……

 が、その気配はすぐに消えていく。そして現れたのは、二人組だった。

 

 成金感溢れるゴテゴテ服にメガネの青年と、襤褸切れを纏う女の子のコンビ。

 「……女連れ?」

 不快そうにアイリスが目線を落として問い掛ける。

 既に二人を見ていない。返答によってはこのまま机だけ見続けて終わりにして評価に値しないという気なのだと分かってしまう。

 

 「奴隷ですよ殿下。全てをゴーレムにさせていては」

 くいっとメガネ(多分伊達)を上げる青年のそのメガネがキラリと光る。

 「魔力の浪費が激しい。使えるものは使う、そうでしょう?」

 その言葉にはおれは頷きたくはなるが……

 

 「すまないが、服装の面はもう少し配慮してくれないか?主張の正しさを下げてしまう」

 「おっと忌み子皇子殿、これは失礼。

 彼女は毒持ちの訳あり奴隷でね。まともな服装は毒で駄目になってしまうのだ。だから、どうしても襤褸布しか着せられない」

 分かるかね?と少しだけおれを見下すように告げてくる青年。

 

 ……多分原作には居ないな、彼。此処で奴隷だなんだの話を持ち込んだらイベントがややこしくなるから、奴隷連れなんて居ないに決まってる。

 

 が、だからといって……彼が敵とは限らないんだよな。

 例えば、元々参加する気だった相手が竪神が居るとか無理!と参加しなくなった枠に入ってきただけの可能性もあるしな。

 

 なんて警戒を控え目にしつつ、実際はどうなのか奴隷と言われる少女の方を見る。

 ……額の汗が湯気になっているな。

 

 「お客様。そんなものを入れないで下さい」

 そして、この家の執事に正論を吐かれていた

 「失礼。毒のゴーレムを扱うもので、毒の素が必要なのですよ。

 結果、体液が弱毒性の亜人奴隷がタンクとして丁度良かったという訳です」

 ぺらぺらと捲し立てる青年だが、理屈の筋は割と通っている。これが嘘か真かは分からないが、真実ならおれは警戒しすぎだろう。

 

 寧ろだ。毒持ち種の亜人みたいな疎まれ生きにくい存在に、お前のその毒に価値があるってある意味で手を差し伸べている好い人説もあるぞこれ。

 それを感じたのか、アイリスも目線を戻して、青年を見ていた。

 

 「ですので、後片付けまで御容赦を。

 ああ、私はラヴァナ男爵家のラサと申します。以後、お見知り置きを」

 と、アイリスへ向けて青年は一礼した。ちょっと髪色が毒々しい蛍光グリーンなのが目に痛いが、結構礼儀正しいなと思いつつ……

 

 「君の名は?」

 おれは出来る限り優しく、その横の奴隷だという少女に笑いかけた。

 

 「アー」

 少女は何かを言いかけて一度つっかえる。

 そして、けほけほと咳き込んだその唾が襤褸布の端に掛かると、じゅっと音を立てて其処に穴が空いた。

 ……ああ、これは服はどんどんと襤褸布になっていくしかないなと理解する。いや、すぐに蒸発するから良いのかどうか知らないが結構危険じゃないかこの毒?

 

 「落ち着いて、おれは敵じゃない」

 「……アーカヌム。ドゥーハ=アーカヌム」

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