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妹デート、或いはぬいぐるみ

「……でぇと」

 何処か上機嫌にオレンジの髪を揺らす風を心地好さげに妹は往く。猫(大きさ的にもう虎か?)の動く椅子に腰掛けて、おれの肘くらいの背丈だが自力といえば自力で。

 

 最初から動けた以上、おれに護られる気だったのが自分で隣を歩こうという想いになった。それだけで嬉しくて、ついおれはきょろきょろと周囲を見回す。

 流石にかなり大きめの戦いが二度に渡ってトリトニスで起きただけあって、此方の門は少し活気が落ちている。

 いや、全体的に怯えて自粛……っていうのも勿論あるが、それ以上に商機だからな。トリトニス特需って奴。結果的に学園から一番近い門を潜るような商人は減るのだ。皆別の門からトリトニス目指すからな。

 

 アランフルニエ商会なんかも動いてるそうだ。ニコレットに堂々と便宜を要求されたので、少しの嫌がらせとして"元"婚約者として一筆書いた。

 うん、正直おれを蔑んでる層は「ちっ皇族が言うなら」って態度になるだろうし、逆に極一部のおれを信じてくれている層は「こいつあの人を信じなかったな?まあ書類は書類だが……」となるから、便宜ははかるが同時に心象は明らかに悪くなるという諸刃の剣だが、事実だからまあ許して欲しい。

 

 ……今思うと酷いことした気がする。埋め合わせの機会があれば何とかしよう。

 

 なんて思いつつ、あまり人気のない道を通って多数の店が並ぶ区画までやって来た。

 「……猫。犬も……許す」

 残念ながらアウィルはアナ達に着いていっているから不在で遊ばせてやれない。

 確かに犬猫を見掛けないが……それはあの区画で今の時間に散歩で通ってる人間が居なかっただけの事だ。


 「あはは、猫が好きなんだ」

 「……お兄ちゃんが、買ってくれた」

 「ぬいぐるみをな、それを気に入って、猫のゴーレムとか作り出したんだ」

 平面猫という凄かったものは今更説明しにくいので無視しておれは桜理にそう語った。

 

 「仲良し、記念。買ってあげても……いい」

 「いやいやいや、僕猫耳とか着けないからね!?そんな女の子っぽい……」

 「オーウェン、犬耳のロダ兄が嘆くぞそれ」

 茶化すように言う。実際、亜人なら耳があるのは割と普通なんだよな。猫耳男とか居る居るってくらい。

 「女の子?」

 と、アイリスも首をかしげているしな。

 

 「あ、そっか。亜人とか居るから実は女の子っぽいのは僕の偏見か……

 でも要らないからね!?」

 「残念」

 ちょっとしょんぼりしながら、アイリスが歩みを進めて辿り着いたのは……って本当に女性向けの服屋じゃないか。

 

 「いらっしゃいませ」

 と、出迎えてくれるのも女性の店員。おれとアイリスのゴーレムを見て一瞬顔をしかめるが……

 「こ、皇女殿下!?」

 「……にゃあ」

 と、無表情で鳴くアイリス。いや、割と顔を知られて……るか、当然だ。何たって聖女様方と共にパレードに良く似せたゴーレムで出ることで深窓の皇女美少女説を確定させた訳だし、顔は売れているだろう。

 というか、顔を売ることでアイリス派を何とか補強したくてやった面もあるしな、あれ。

 

 「ということは、横のは……あ、忌み子」 

 「一応これでも皇子だ」

 「しっし!」

 掃除用の箒を振られるおれ。何でそんなに嫌われるのかは流石に分からずに肩を竦める。

 

 「お兄さま」

 「アイリス皇女殿下?」 

 その台詞におれも首をかしげる。さま付なんてらしくない。

 「なんで、お兄さま……だめ、なの?」

 「私どもの服が呪いで穢れる。七天の運気に合わせ仕上げた至高の品が!

 さぁ、殿下と忌み子ではない御付きの方は御入り下さいませ!殿下の為とあれば」

 と、アイリスに向けて畏まる女性店員。

 

 と、それをガン無視してすたすたと歩く猫ゴーレム。

 「で、殿下?」

 「『お兄さま』。そう、呼んだのに……変な扱いは、怒る」

 と、そのままアイリスは別の店へ向かった。

 

 「割と苛烈だね……」

 「好き嫌いが子供なんだよアイリスは。一旦受け入れると懐いてくれるんだけど、初動に失敗するとな、どうしても嫌われる」

 最初は冷たかった妹を思い出しながら、おれは横の少年(しょうじょ)に向けて呟き、妹の後を追った。

 

 そうして結果的に……

 「なぁアイリス、ここぬいぐるみの店だぞ」

 辿り着いたのは、ファンシー過ぎる店であった。うん、女物といえば女物なんだけど、ぬいぐるみは違うだろう。女性じゃなく女児向けっていうか……

 

 「……あ、可愛い子」 

 が、珍しく目を輝かせるアイリスの前には何も言えない。外を気にしろと言っておいて、いざ妹が気になるものを買おうとしたら止めるなんて流石に無理だ。

 そう思って、おれも店先を眺める。


 露店のように表にもテントを拡げて展開した触れやすい店だ。子供が主な顧客だからか、地面には置かれていないがかなり低い背丈の台にぬいぐるみが並べられている。

 

 魔力を感知できないし、そういうことは得意なストーカー妹が何も言わない辺り魔法なんかは掛かっていない。本当にただのぬいぐるみだな。

 形としては……

 

 「あ、これ七大天を模してるのか」

 変な帽子のデフォルメされた謎生物を見て漸く気が付きおれは手を打ち合わせた。

 手足が細くて座った形の道化師、つぶらな瞳と可愛い顔(作画崩壊感はある)したあまり長くないドラゴン、角が短いし全体的に柔らかいせいで犬に見える甲狼、ふかふかの牛や可愛い顔した猿等。考えてみれば七大天っぽい。

 

 「……お客様?」

 「あ、すまない。妹への買い物で」

 「全種類、買う」

 と、ぽんと紐で括った硬貨の束を取り出すアイリス。


 店員の眼がぬいぐるみに使われてるようなものになった。うん、事態が呑み込めていない。

 「あ、え?」

 「すまない、妹……アイリス殿下なりの冗談と称賛だ。金を多く払いたいくらいっていう」 

 ちなみに括られているのは1ディンギル硬貨。つまりこれ、さらっと100万円くらい取り出したのに等しいんだよな。流石にぬいぐるみ代なんて1ディンギルは越えても、こんなに要らないのは当たり前。

 

 「で、殿下?」

 「そう、アイリス殿下。誇って良いぞ、殿下が趣味のぬいぐるみ集めに来て、目を止めたんだから」

 と、おれはデカイ金しか持たないアイリスの代わりに支払いを考えながら呟く。

 

 「と、オーウェン。なにか一個買うよ、こうして付き合ってくれてるお礼」

 なんてついでに振るのだが……

 「あ、ありがとう。じゃあしど……ゼノ君が選んで」 

 返ってくるのは丸投げ。

 ということで、少しだけ悩む。

 

 桜理に手を貸してるのは角生えててもデフォルメされてて何一つ怖くない悪魔(晶魔)のぬいぐるみか、さもなくばおれ的な無難にぬぼーっとした……何と言うか龍より角のあるサンショウウオ感ある始水のものか……

 

 『晶魔で。可愛さは確かに相応にありますが、私としてはあまりぬいぐるみといえどあの間抜け面を認めたくありませんから』

 ……神様が何か不満を溢していらっしゃる。


 「あ、晶魔ぬいぐるみだけ二つ。此処の彼の土産にするのでそれだけ分けてお願いします」

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