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乙女ゲーム、或いは必須イベント

「これでぇぇぇっ!」 

 天空から、そして背後から。二方向からおれへ向けて貫いてくる炎と氷のブレス。それを見ながら、おれは……

 自身の左腕を埋め込んだ岩塊を右足で蹴り砕き、そのまま横へと避ける。

 空しく空を切る十字砲火と、小さな舌打ちが耳に届く。

 

 同時、鳴り響く鐘の音におれは軽く息を吐いた。

 「時間切れ、戦闘終了だ。

 拘束して迎撃を見越した複数方向からの挟撃。筋は悪くなかったが、そもそもおれみたいな相手に対処したいならば腕より脚を拘束した方が解除する際により体勢を崩す必要が出来て効率が良い。とはいえ、竜のような相手だと脚への拘束は翼のせいで体勢を崩しても問題がない等の難点もある。

 結局は相手次第という事だな」

 まあ、月花迅雷を使って良いならば正直なところ瞬殺出来たんだが、と実も蓋もない事実は伏せて、おれは対戦相手であった四人の同級生に笑いかけた。

 

 「筋は本当に悪くなかったよ」

 そう、単なる授業の一貫なのだ、これ。ノア姫の歴史の講義タイプではなく、皆大好き体を動かすタイプの実戦式。

 そこでおれは……他人は1vs1、或いは3vs3の訓練なところを、1vs4でやりあわされていた。レイドボスか何かかおれ。

 いやまあ、ステータスを見れば完全にボスキャラ枠なくらいに隔絶した差があるのは確かなんだがな。その証拠に、三度戦ったが誰一人としておれ相手に接近してこなかった。全員魔法の逃げ撃ちばかり。

 前線張る奴が居ないから、月花迅雷を抜くわけにもいかずに加減するしかなかったんだよな。流石に伝哮雪歌で突貫して一人倒して離脱とかやったら訓練にならずただの蹂躙だ。

 

 「ちっくしょー」

 「1vs3なら割と勝てるって聞いてたのに」

 なんて口々に呟く生徒達に苦笑する。

 いや、自嘲か。初等部の頃のおれ、訓練式の戦いで1vs3で勝率8割とかいう低さだったものな。だが未だにそれじゃあ皇族失格過ぎる、ただそれだけだ。

 

 「雑魚が」 

 と、戻ってくるのはシロノワール。あの茶番など知るかとトリトニスではアルヴィナの横で知らぬ存ぜぬを決め込んでいた魔神王である。

 「雑魚はないだろうシロノワール。

 ただ、手伝ってくれて助かるよ」

 「聖女とアルヴィナの為だ。身の程を弁えさせれば、無駄なことはしないだろう」

 「無駄じゃないんだけどな、誰だって」

 実際、多くの当時は名前も知らなかった兵士達(慰霊碑に名前を刻む時に知った)のお陰でおれは今生きてるわけだしな。いや、あれはある種の悪い例か。

 

 「ちっぽけな勇気が力になる、どんな光も繋がる縁、だろ?」

 と、よってくるのは何時もの白桃の青年。相変わらず太陽のような屈託のない笑顔が眩しい。これで割と色々と考えてるんだよな、彼。

 

 「人との縁か。下らん」

 「そうか?」

 「先導者(ヴァンガード)ってのは、ちっぽけなものも拾う縁だと思うけどな」

 なんて、おれはゲームでの二つ名に絡めて少しだけ茶化した。

 

 ……ん、ゲーム?

 そういえば、何か忘れてるような気がする。この時期……原作的に言えば修学旅行(一年目)が終わり、一年目の後半戦に入った辺り。もうちょっとでロダ兄が原作でも登場するって時間軸で、何か忘れちゃ行けないイベントがあった気がする。するんだが……何だっけ?

 

 と、他の転生者に意見を聞きたくなって周囲を見回すが、見学してる桜理はこういう役には立たない。おれよりゲーム知識無いからな。その分AGXなんかの続編ゲームでは語られてた別世界には詳しいが。

 エッケハルトは何か引きこもりだしたので居ない。死にかけたというか一度死んだからか、暫く療養するらしい。ちょっと寂しいが、彼はそういう友人だ。また決別とか言わないでくれただけ助かる。

 っていうか、ジェネシック・ティアラー無しで戦い抜ける気がしないしな、この先。もう一度あの神が来た時、ジェネシック・ダイライオウ無しでは話にならないだろう。

 下門達のお陰でアガートラーム相手はワンチャン食らいつけるようにはなったが……正直な所これでアステールを助けられるか不安だ。攻めてこられたら仕方ないが、打って出る気はしない。

 

 では最後のリリーナ嬢は……と見れば、動きやすそうな白と緑のドレスで旅支度を整えた桃色の髪の聖女様が居た。

 ついでに、横には荷物を持った頼勇と、アナの姿もある。

 そういえば今回参加してなかったな頼勇。何時もはおれと同じボス枠で訓練してくれるのにな。

 

 「リリーナ嬢、アナ」

 「あ、皇子さま」

 「どうしたんだ、その荷物」

 「あー、ゼノ君ゼノ君、実はさ」

 と、桃色聖女がぱたぱたと手招きした。

 

 「実はねゼノ君。ゼノ君のお兄さんの婚約者さんなんだけど……このままだと死んじゃうんだ。

 でね、ゲームだと助けられないの。でもさ、私とアーニャちゃんが組めばって思ったから、ちょっと二人で行ってこようかと」

 と、日陰に来ればそんな言葉と、こくこく頷く銀の聖女。

 

 ああ、それがあったか。聖女は話を聞いて何とか頑張るけど、婚約者は生まれつきの病で死んでしまって、そこからシルヴェールルートのフラグを立てられるようになるんだよな。婚約者の為に頑張る姿を見せてないと攻略不能なので、共通序盤のシルヴェール編必須イベントだ。

 ちなみに、七天の息吹は無効だ。生まれつきの病なせいで、万全の状態=病を持った状態という判断にされてしまい、治せないのだとか。おれの呪いにも似た状況だな。

 

 「アウィル」

 『ワゥ!』

 呼べば駆けてくる小型に姿を偽装した天狼。

 「アナ達を竪神と共に頼めるな?」

 『ルルゥ!』

 まあ、そこまで酷い危険はないとは思うが、頭を撫でて愛狼にも行って貰う。

 「あ、良いんだ」

 「シルヴェール兄さんのためだろ?おれが止める理由はないよ、寧ろ頑張ってくれと応援する」

 「おー、分かった!」

 元気よく返してくれるリリーナ嬢。横ではい、と頷くアナ。二人のサイドの髪が跳ねた。

 

 そうして、二人(+護衛の一人と一匹と魂一つ)を見送って……

 

 「何があるか聞き忘れた」

 馬鹿だろうか、おれは。

 

 仕方ないが最後の手段でも使うか?神様コール。

 あまり反則気味なこれに頼りすぎると思考回路が退化する気がして気が引けていた幼馴染神様に声をかけようとして……

 

 不意に脳裏に閃く雷鳴。

 

 そうだ、このままだと死ぬ、だ。

 思い出した。この辺りの時間軸って、皇族の攻略対象(但しゼノを除く)の必須イベントが犇めく時期だ。当然それはシルヴェール兄さんもだが……

 ギャルゲー版のアイリスルートの必須フラグも此処なのだ。そしてそれは、乙女ゲーシナリオだとサブイベント的に攻略できる男キャラに関するイベントでもあり……

 彼の妹を襲う悲劇を描いたイベントだった。

 

 思い出したからには、そしてまだ遅くないからには……悲劇くらい、回避したい。

 だからおれは、とりあえずイベント絡みでアイリスに会いに行く事に決めた。

 

 ん?ちょっと待てよ?ゲーム的には聖女なり勇者なりが居ないとどうなるんだ?二人とも別イベントのために出掛けたような展開になってるけど。

 

 なるようになるか、まずはイベント内容を整理しつつ、この先最良の終わりかたを迎えるためにメインとなるアイリスと情報を共有しないとな。

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