表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

439/687

龍霊水晶、或いは尽雷の刃

「……逃がしたか」

 背に輝く龍剣の翼を噴かせ、嵐を纏いそれに合わせたかのように打ち振るわずに飛翔する左翼も駆って、おれは湖面を時折蹴りながら滑空する。

 何というか……やっぱりアドラーの想いは完全におれに力を貸してくれはしないようだ。追っている間は好きに飛ばせてくれたが、……

 

 何度か湖面を蹴って高度を確保したところで漸く着地。同時に変身は強制解除された。

 纏った精霊結晶のアーマーが虚空に溶け、一部その制御を担当してくれていたアルビオンの残骸が左腕のアーマーから形を喪ってオリハルコンの鞘の飾りへと変わる……って其処にくっつくのかそれ。

 

 『お疲れ様です、兄さん』

 ああ、有り難う始水、と心の中で最低限のやり取りだけ交わして一度会話を切る。

 

 「有り難う、アドラー、アルヴィナ」

 この変身、『スカーレットゼノン・アルビオン』は沢山のおれが背負ってきた死が、受け継いできた魂が発露した姿だ。言い方を変えれば、おれ自身どんなものか詳しくは実は知らないんだが今のおれとアルヴィナによる屍天皇ゼノと言えるかもしれない。

 ぶっちゃけるとおれの魂と共鳴してくれたアドラー・カラドリウス、アウィル(名前同じらしい母狼の方)、下門&アロンダイト・アルビオンの力を折れていた月花迅雷の竜水晶をコアにアルヴィナの死霊術も借りて解き放った姿。一応御先祖様も多少手を貸してくれていたか。

 つまり、おれ個人で変身できた訳ではないのだ。というか、今も変身できない。

 

 二度と纏えるかも……アルヴィナが居てくれたら、そして始水が手を貸してくれれば変身は出来そうだな、一応。

 と、凍てついた足でふらつきながら思う。

 

 「あ、獅童君」

 「皇子さま、だいじょぶですか?」

 と、左右から銀の聖女と黒髪の男装少女に支えられながら苦笑する。

 「ああ大丈夫、皆のお陰だ」

 

 「皇子、がんばった」

 ……これはおれへの慰めというより、撫でろという話か。変身中はアーマーの補助で動かせた左手だが、やはり今は動かない。部分的に死んでいるというか……逆にいえばだからアルヴィナの死霊術で動かせるわけだが。

 なので、横のアナに目配せして右手を空けてもらい、近付いてきた黒髪の狼娘の頭にぽん、と手を置く。ちゃんと帽子を脱いでくれて撫でやすい。軽くその頭を撫でてやれば嬉しそうに眼を細める。

 

 「……ってか、何がどうなった?」

 「下門(シモン)が、皆がおれに力を貸してくれた。あの機龍には彼の想いが籠っていたから、アルヴィナの死霊術でその想いを呼び覚まして……放たれた力を逆におれのものとして取り込んだ。

 簡単だったよ、下門の想いだってそのままあいつに使われるのを良しとする筈無かったから、即座に応えてくれた」

 まあ、おれだけだと呼び掛けることすら出来ず取り込めないしアルヴィナ様々って話だな。

 それに、本当に彼がおれ達の友として勇気を振り絞ってくれていたから、アロンダイト・アルビオンはおれの呼び声に自身の認めた乗り手の為に力を託してくれた。

 これはおれの勝利じゃない。下門、お前の紡いだ勝利だ。

 

 心の中でもう居ない彼に向けて呟く。あの時、放たれた雷槍と融合する際に彼の記憶を垣間見た。お陰で多少は理解が深まった。

 どうして彼がああだったのか、何故いきなりおれ達に手を貸しはじめたのか、ある程度納得できた。

 

 「いやそのシモンって誰だよ」 

 「リックだよ。下門、陸。もしもほんの少し縁の歯車が違えば、きっと一緒に喜べていた、そんなおれ達の仲間だ」

 「なかまぁ?あのクソ野郎が?」

 「正直、僕自身結構苦手かなああいうの……

 自己嫌悪入ってるとは思うけど、何様なんだって思う」

 信じられねと肩を竦め、ぽけーっと馬鹿にしたような顔を浮かべる炎髪の青年に仕方ないなと苦笑する。

 

 ま、万人にそうだと受け入れられるとはおれも彼も思ってなかったろう。ってか、何だかんだ長い間居るアルヴィナやシロノワールですらそうだからな。一度出来た禍根はそうそう無くせない。

 

 だけど、

 「お、良いこと言うじゃねぇかワンちゃん。躓く石すら縁の端くれ。そっから紡ぎ直した縁、たぶんそんな悪くなかったぜ?」

 「皇子、私の意見は一つ。そこのただのアルヴィナと同じ事だ」

 認めてくれる人も居て。

 

 だからおれは、その魂の冥福を祈る。

 っていうか、そもそも待てよ?あまり頼るのはどうかと思うが神様当神が居るじゃないか。この世界の死後の世界とか魂の行方とか当然干渉できるだろう。

 『あ、無理です兄さん』

 いや無理なのか?

 『いえ、私の及ぶところではないという意味ではありません。そもそも干渉が出来なければ兄さんを獅童三千矢に出来ません』

 ……それもそうだった。おれを転生させられるんだから……

 

 『彼の、下門陸の魂は死後の世界に来てないんですよ。死者の嘆きを怒りの雷に変え、ブリューナクを放つあのシステムに取り込まれて、燃料にされているのでしょうね。

 だからこそ、兄さんの声にせめてと応えたというのもあるのでしょうが……』

 そう、かと息を吐く。

 

 あの機体を破壊してやらなきゃいけない理由がまた増えた。

 

 「ってか、あのクソの力を借りて?変身した訳?」

 「ああ」

 言いながら今は普通の月花迅雷の姿に戻った新生した愛刀を見下ろす。

 

 「直ったんですか?」

 「直ってないよ、アナ」

 「空気が変わってる」

 そう告げるアルヴィナに、おれは鋭いなと頷いて軽く透き通った蒼い刃に触れる。

 

 「今のこいつはドラゴニッククォーツだけじゃなくて精霊結晶が使われている。融合して一つの刀身に変わった……謂わば、龍霊水晶ってところだな」

 この世界に有り得ない材質だ。触れるだけで絶望の冷気を感じるが、それ以上の暖かさがそれを打ち消している。

 「だから、同じなのは外見だけで中身は別物。直ったというか進化した感じだよ」

 「へぇー、ちょい貸してくれよ」

 その言葉に良いぞと鞘に収めてほいとおれは愛刀を投げ渡し……

 

 「ふげらばっー!?」

 受け取ったエッケハルトが凍りついた。

 「殺す気かよ」

 「いや、全く」

 アイムールが放つ熱が何とか氷を受け取った右腕のみに抑え、その間に地面に放り投げられる刀。外見は変わらないが……

 

 「何こいつ。第一世代か何かかよ」

 いやそれは流石にと想いながら呼び掛けて……

 

 ヒィン、という小さな歪みの音。何度も聞いたブラックホールを通して転移してくるAGX特有の音と共に、愛刀が手の中に現れる。

 「持ち主選ぶように進化してる!?」

 「退化じゃねぇか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ