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剣翼、或いは光華の終幕(side:下門陸)

『キュリキュォォォォォッ!』

 想いを込めた咆哮と共に、剣翼に力を込めて天空で燃え盛る文字通り不死鳥のような姿となった戦闘機と激突する。

 

 ぐわんぐわん鳴る耳鳴りと、シェイクされる脳。それをフルフェイスから流れてくる電流で無理に覚醒させながら、俺は!かちあい鍔迫り合いの要領となっている右翼ではなく左翼のブースターをフルブースト!翼と翼の衝突点を軸に急旋回で相手の頭上に回り、そのまま左翼で切り落とす!

 が、燃え上がる炎と共に一瞬実体が消え、翼は虚しく空を切った。

 

 更に、強引な軌道に対して安全性を捨てたALBIONでは自壊していく中耐えきれず、バシュッと軽い音と共に振り回された右足の膝から下が千切れ飛んだ。

 痛みはない。そもそもそんなもの当の昔に麻痺していて、体の感覚はない。今もう何処の骨が折れているだとか一切分からない。多分モニターには映っているけれど、もう目がない俺にはそんなもの見えない。

 ただ、機体の意志に合わせ、なんとか敵に相対しているだけだ。

 

 どうしてこうなった、と言いたい。後悔は沢山ある。

 何であの言葉を忘れていたのか、何故自分はこうなってしまったのか、幾らでも湧いてきて。

 

 それでも、

 「最期まで行くぞ、アロンダイト・アルビオン!」

 今こうしている事が無ければ良かったなんて事だけは、一切脳裏に浮かぶことはなかった。

 

 応!とばかりに機械龍が吠える。片方完全に耳鳴り以外何も聞こえなくなった耳で、意志があるのか無いのか分からない今の相棒の奏でる鋼の音色を聴きながら、俺は見えない目で訳の分からない不死鳥と対峙した。

 

 というか、俺に分かるのってアニャちゃん達だけだから真面目に今使ってる相棒の事すら分からないんだが!

 

 「ブリューナク!」

 シャーフヴォルの放つそれは腕からの雷槍らしいが、ALBIONのそれは機体全体を砲身にして口から解き放つ収束ブレス。魔方陣のように光円を浮かび上がらせながら、全身を焼きつつ雷槍が迸る!

 

 痛い!でも!でも!それでも!

 「俺はもうっ!カミキが応援してくれた、ゼノ皇子とアニャちゃんが信じてくれたっ!

 俺が信じる、下門陸自身を!裏切るわけにはいかないんだぁぁぁっ!」

 だから!もう!怯えきってただヴィルフリート達に良いようにされながら生きているだけよりも!流れ星のように!燃え尽きながらでも!夜を切り裂いて!

 

 「これが!生きるって事だぁぁっ!」

 文字通り命が燃えていく。安全をかなぐり捨てて自分の魂すら燃料にするらしいブレス砲と、本来の役目を完全に捨てて神へと反逆したせいかどんどんと腐り落ちていく呪いの二つによって、俺の命は刻一刻と終わりに近づいている。

 

 悔しい。こんなの嫌だ。それでも、カミキの言葉にも、なりたかった信じた自分にも反した生き方なんてもっと嫌だから、俺は叫び続けた。

 

 そして、轟く雷槍が不死鳥に激突しようかというその瞬間、燃える鳥は突如として羽のような前進翼を前へと折り畳み、盾のような姿へと変貌した。

 ガギン!という硬質な音と共に雷槍と炎翼盾が激突し……空中で炸裂する。

 燃える翼と鋼の盾ばかりではない。薔薇色に煌めく精霊の力とは全く質の異なる暖かなナニカが、防壁となって精霊障壁を砕くために搭載された雷槍を受け止めていた。

 

 「っ!クソォォォッ!」

 届かない。鋼の不死鳥を落とせない。訳の分からない相棒の力をもってしても、意味不明の強さをしたアルビオンの攻撃を受けても、鋼の不死鳥は空を舞い続ける。

 

 そんな俺へと、前進翼に炎を纏い再度不死鳥が襲い掛かる。

 警告音に回避をしようとして……

 「ぐがぁっ!?」

 右腕が爆ぜた。体勢を崩し、離脱のために飛び出そうとしたブーストが途切れる。

 思わず腕をクロスして衝撃に備えようとするけれど、そもそももう俺には両腕なんて贅沢なものは残っていなかった。

 

 が、

 「雷王砲フォーメーション!」

 地上から迸るのは爆発的なエネルギー。といっても、元のシステムの割りきりかたが違うのでフルパワーのブリューナク程ではないが、強大かつ巨大なビームが天を焦がして鋼の鳥を襲う。

 それを苦もなく切り裂いてくる鋼の不死鳥だが……どうしても、そのエネルギーに押されて速度はかなり落ちている。その隙を縫って、何とか意識をハッキリさせて離脱を成功させた。

 

 「竪神頼勇!」

 ぶっちゃけると良く知らない。ただ、羨ましさはあった。

 ビームウィングを噴かせ天空を駆ける合体機神。それよりも、壊れていくアルビオンの方が二回りは強い。それでもだ。自分の意志を強く持ち、為すべき事を見据え続けて走れる相手がどこまでもズルく思えた。

 「正直、君を信じて良いのか答えは出ていない!だが、私は私を信じよう。皇子はきっと何より良い道を選ぶから共に行くと決めた私自身を!」

 その言葉と共に、俺の空域まで飛び上がってきたダイライオウが咆哮するのが聞こえた。

 

 そうも割りきれていた彼がちょっと羨ましい。そう思いながら回避を続けて……体が砕けすぎて鋼龍は天空から墜落する。

 

 「……はぁ、はぁ……」

 荒い息を吐き続ける俺。モニターが口と目から溢れる血や胃液や砕けた骨のミックスでグチャグチャに汚れている。

 それでも、と立ち上がろうとするけれど、もう体を支えきれるだけの脚が無い。

 

 「下門(シモン)

 そう呼び掛けてくる声も、何処か遠い。小説の挿し絵では両目が健在だったけれど今は隻眼の灰銀の皇子。アニャちゃん達に慕われていて、俺はこうはなれないと思った彼。コラージュすればするほど、その在り様に恐れ(おのの)いた。

 でも、何処か俺に似ていたとも言われていて。そんな片鱗見えないただの英雄にも思える彼が、彼の立場を奪っていた俺を優しく呼ぶ。


 「立てるか」

 「何、とか……」

 剣翼が背中から外れ、それを杖にして腹の下にひくことで何とか体を起こす。

 

 対峙していたヴィルフリートは折れた剣と折れた腕で制圧し、ソロモン?というらしい変な機体にも傷を残し、神と相対する灰銀雷光の皇子。彼の周囲には何体かの機体の残骸が転がっていて……

 

 「アニャちゃん、達は……」

 「アウィルとアイリスを舐めるなって話だ。ある程度避難して貰ってる」

 そんなやり取りを引き裂くように、鋼の巨神と鋼の不死鳥が俺達と神の背後にそれぞれ降り立った。

 

 「何故抗う、何故戦う!」

 「『生きることが、戦いだからだ!』」

 脳裏に神の……抗うことを昔は考えられなかった偉丈夫の姿を思い描きながら叫ぶ。自分自身では掠れた声しか出ないが、纏う龍機人が合成音声で言いたいことをフォローしてくれる。

 

 「否!否!否や!貴様等の生は戦いではない。おぞましき汚染と堕落、その発露に過ぎぬのだ。

 何故分からぬ、神が偉大すぎるが故か、人間が愚かすぎるが故か」

 神たる者は両の手を開き天を仰ぐ。

 「ならば、真に終わりを行おう。テウルギア達よ」

 

 その瞬間、ソロモンと呼ばれた細かな傷の残るひょろ長い機体が変質し……胴から二つに分かれてくにゃりと曲がると、指輪と鍵のような姿へと変質した。

 「フェネク、マルコシアス、フォルネウス、ウァプラ、フォカロル、バエル!」

 無くなった俺の目ですら感じる薔薇色の光と共に、沢山の何かが鍵となったソロモンに呼ばれて姿を現していく。形の定かではないそれらは、鍵を中心に一つに解け合っていき……しっかりとした鋼の体を持っていた不死鳥も一つになったかと思った瞬間。

 「神話零結(エクスマキナ)・勇創合体!」

 不死鳥の前進翼を背に携えた何処かダイライオウを思わせる鋼の巨神へと新生する!

 

 駄目だ、と直感的に思う。相棒が何かを叫んでいるようにも思える。

 あいつを完全に呼び出されちゃいけない!

 その想いに突き動かされるように、杖にしていた蒼剣を鋼の牙で咥え、全身に残る全てのブースターをonにして地を滑る。走れはしない、飛べもしない。かなり不格好にかっ飛んでいって、まだ薔薇色の光のままの巨神へと刃を振り下ろす!

 

 が、薔薇色の輝きがそれを阻む。アルビオンの纏うものと根本が違えど、対精霊を考えたようなその光だけで機能が一部麻痺していく。最低限の生命維持装置すら停止し、パージ。

 胸元が完全にさらけ出され、一本の血管で繋がった心臓がころんと器から溢れ落ちる。

 

 「吠えろ!紅ノ風!」

 そんな俺の背後からクロスするように、赤金の剣が叩きつけられる。俺を助けに来た瞬間に持っていた大剣を手に、彼が共闘してくれる。

 「ライオ・シルフィード・アークッ!」

 更には百獣王の胸元の獅子の顔から光の巨神を拘束するように光輪が放たれた。

 

 「……無駄だ。神話より来っ!?」

 神の言葉が途切れた。

 「貴様等ぁっ!」

 神の胸元から、蒼い刀の切っ先が生えていた

 折れた月花迅雷の片割れ、先端部が黄金の雷を纏い背後から神の胸を貫いている。

 にぃ、と笑いながら透明な返り血を浴びて溶けていくのは、犬耳の青年アバター。

 

 「……ふん、時間切れか。所詮忌まわしき姿よ。今はくれてやろう」

 そうして、神の姿は薔薇色の光神と共に虚空へと溶け消えた。

 

 完全に現れぬよう振り下ろした剣達が空を切り、世界に静寂が訪れる。

 

 「……がふっ!」

 その瞬間、アロンダイト・アルビオンが完全解除され、俺は達磨のような状況で大地に……

 

 「大丈夫か、下門(シモン)

 放り出されることはなく、何とか銀髪の青年の右手と左腿に挟まれて空中で止まった。

 「リック君、待っててくださいね、今行きますから」

 そして、耳鳴りの酷い耳に届くそんな声。

 

 「ちょ、アナちゃんあいつ汚いしヤバイって!」

 「そんな人を有り難うって治してあげなくて、どうするんですかエッケハルトさん!」

 あ、怒られてる……と薄れる意識の中で思う。

 

 「もうちょっとだけ頑張ってくださいねリック君、今何とか治して……」

 淡い青い涼やかな光が俺を覆うのを感じる。

 

 でも、無意味だ。自分で分かる。これは、小説版で言及されていたものと何ら変わらない。ゼノ皇子を蝕む神の呪詛と性質は同じで、より強い悪意。

 どんな魔法も……それこそ聖女の力すらも弾く神による死の宣告。

 

 「そんなっ!どうして」

 「っ!」

 唇を噛むようなひゅっという音が聞こえる。

 

 行くぞ、アルビオン。

 

 駆け寄ってくる女の子の手を首を振って払い、俺の体は意図して地面に落ちる。

 「下門っ」

 「離れて、くれ」

 「何でですか!」

 「危険だ、から……」

 「そんな傷だらけで、何が危険だって」

 そんな声は銀髪の皇子に遮られた。

 

 「裏切り者の爆弾は、死ぬまで終わらない……何か出来ないのか」

 首を横に振る。

 解除方法なんて無い。それこそヴィルフリート当人にも、アルビオンにも解除できない。これはさっき消えたアヴァロン・ユートピアが後付けした悪意、彼を倒すことでしか消えない。

 

 「皇子さま、何か、何か手は」

 「……なぁ、ゼノ皇子」

 だから、これで最期。一つだけ聞きたかった事を、何とか言葉に紡ぐ。

 「俺、ちょっとは役に立てた……?君達の仲間みたいに、なれた……?」

 カミキの言ってくれた、俺がなりたかった立派な人……結局目指せなかった理想に、ほんの少しでも近づけた?

 そう、本を読んで夢見た相手に問い掛ける。

 「違うだろ、下門。

 想いを同じにした時点で、みたいじゃない。仲間だ」

 散々迷惑かけてきて、どうしようもなく脅されているから逆にその中で酷いこともしようとしたのに。そんなもの捨てて、彼は優しく返してくる。

 

 ああ、やっぱり……もっと早く、ヴィルフリート達より先に、逢えていたら。

 「そっ、か」

 寂しく笑いながら、今一度完全に一度は消えたアルビオンを呼び戻す。もう、呪いの外から来たから影響の無い剣翼アロンダイト以外の場所は殆ど壊れきっている。残されたのは、自爆装置と化したエンジン他極々一部。

 

 そして、アロンダイトで俺は天へと飛び出した。

 

 3

 と脳裏にカウントダウンの電気信号が届く。


 もっと空へ!

 

 2

 星のように!

 

 1

 でも……

 

 0

 認めてくれた、思い出せた。だからこそ悔しいなぁ…… 

 

 体の内部から、そして龍骸から解き放たれる爆発し拡散する力が、下門陸という存在を粉々に0へと還していく。

 

 もう、終わるしかないなんて。

 嫌だなぁ……

 

 「畜生……っ」

 その想いだけを残して、俺の総ては天に咲く花火のように、光と共に散っていった。

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