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ソロモン、或いは百獣王

「……ヴィルフリート」

 静かな輝く機龍の瞳が、それでも傲岸不遜な顔を崩さない青年姿のアヴァロン・ユートピア……の背中にこそこそと隠れようとする少年を射抜く。いや、目が見えずほんの少し逸れてるが、流石に本来の持ち主の居場所くらいは把握できるのか。

 

 「や、やめろよリック。僕達友達だろ?」

 「友達ってことに、なってたね」

 「止めようぜ、殺すなんてさ……」

 その言葉に、おれは頷く。

 

 「そうだな、リック。殺してもあまり良いことはない。取っ捕まえて反省させ、色々と吐かせたほうが有意義だろう」

 今の彼はALBIONを使えない状況だ。確かに悪だが、絶対に此処で殺してでも止めなきゃいけない程の絶対悪じゃない。

 「ゼノ皇子、分かった」

 こくりと頷いてくるリック。思うところは彼にだってあるのだろう。

 

 それが何なのかは分からない。自分のように改心(と言うとおれ達がまるで絶対正義みたいで可笑しいが)する可能性を信じているのか、単に殺す価値もないと思っているのか、殺したら今此方に手を貸してくれているALBIONも消えてしまうからなのか……

 おれは、リックの事を何も知らないから、分かりようがない。だから、せめて。

 

 「いや違うな。何と呼べば良い?」

 相手の出方を伺いつつ、おれはそう訊ねた。

 「下門陸」

 「なら、下門(シモン)。おれはヴィルフリートを確保する、君は……っ!」 

 「行けるさ、きっと!」

 言いきる前に、鋼剣の翼が青白い光を噴射し、隻腕の鋼龍人は天空へとかっ飛んでいく。その周辺に薄く青白い光が見え、流れ星としてより完成している印象を受ける。

 

 それを見送りながら、おれは地を蹴り神の背後へと向けて時が一度滅茶苦茶に捻じ曲がった影響からか何時しか直っている石畳を疾駆する。

 ある程度の距離から鋼龍が突っ込んでくる以上、今の彼はそこまでおれにばかり構っていられないはずだ!と、神を見据えて軽く雷撃を飛ばすと納刀。折れたとはいえ、まだやれる!届くものは届く!

 

 なのに、神はどこまでも不敵。

 「人の子よ。無意味なる鋼龍人を扱うアージュの選んだ出来損ないよ」

 意味不明の言葉が、黄金の髪の神の口から漏れる。

 「AGX、このおぞましき姿の穢した鋼のみが(わたし)の力と思うたか?かくも、大いなる神の存在を貶めたのか?」

 天空でアロンダイト・アルビオンが何かを警戒するように静止した。

 

 やはりか!最強のAGXであると言われるアルトアイネスを桜理の力として他人に与えていた以上、その懸念はあった。

 幾ら取り戻せるといっても自身の最大戦力を転生特典として他人に与えるか?という話。実際にリックには反旗を翻され、桜理にもアルトアイネスを抑え込まれていて此処まで追い詰められた訳だ。それを考えれば、何か切り札の一つは隠し持つものだ。

 

 「っ!」

 「臆するな下門(シモン)!どっちにしても、彼の神のこの世界に居られる時間は長くはない!」

 そう、そうだ。AGXについてはかつて墜落した関係で排除が弱いと始水が言っていた。ならば、他の切り札を出した場合はその違和感からかなり世界の排除が働きやすいはずだ。

 そう叫んだおれの頭上で、炎の流星が天空を舞う鋼龍へと激突した。

 

 それは、燃え上がる炎色の翼。機首に輝くのは幅広い緑の宝玉のようなパーツ。鳥を思わせるシルエットの逆翼の戦闘機が、燃え上がる炎のゲートから飛来していた。

 「マイスフェネク」

 静かに告げる神。燃える鳥のような戦闘機に確かに神話の不死鳥とは、粋な名だが!

 

 ……何だろう、始水が絶句している気がする。

 ってそんな場合か!

 「そして、ソロモン」

 おれの前に降り立つのは、細身の人型ロボット。全体が本当に細い。胴に関してもまっぷたつに縦に割れそうな気がするし、何というか……線を重ねたようだ。

 ソロモンという名だけは立派だが、実物はあまり威圧感を感じない。ATLUSの方が強そうに思える。

 

 あまり侮りすぎてもと思いながら横凪ぎに抜刀して斬りかかる。

 硬い感触。が、精霊障壁のようなバリアは貼ってこない。単に硬いだけといった印象。アイリスのゴーレムに斬りかかっているような……

 

 そんなおれの頭上では、不死鳥の名を関する翼長30mくらいありそうな巨大戦闘機からとんでもない量の炎弾がばら蒔かれていた。

 それを鋼龍は『コォォォッ!』とエンジンのような咆哮をあげながら全身にバリアを発生させ……背中のブレードウィングを振るうようにその場で右旋回してバリアで防ぎきれない分を切り払い、尾で打ち払う!

 その尻尾が、爆発して半ばから砕け散った。

 

 やはり、自壊はアロンダイトと合体しても止まらない。リックは死んでいきながら戦ってくれている。

 ならば!その理由は分かりきらずとも!

 「何故抗う。死は決まっているというのに。無駄ならば、大人しく死ぬべきだとは」

 「思わない!」

 「一歩進めば、その分だけ前に進む!ただそれだけでも、道は出来る!」

 天から響くその叫びに合わせて、おれも叫ぶ。

 

 「そうだ!だから、おれは!」

 「俺達は!諦めない!」

 「この愚者共がぁぁっ!その傲慢が、どれだけ世界を蝕むと思っている!」

 「人もこの世界に生きる者。お前の言う世界の一部!それを好き勝手しようとする、真なる神様とやら程じゃ、無いっ!」

 魂の刃を重ね、ぶったぎる!その心意気と共に右手で愛刀を振りきった。

 

 届かないか!だが!

 迸る雷が背後に隠れていたヴィルフリートを打ち据えた。

 「伝!哮!雪歌ぁっ!」

 それを逃さず懐に飛び込み、思いっきり踵でその体を蹴り飛ばす!

 ボールのように吹き飛んだ小さな体はソロモンを名乗るひょろながの巨人の足の間をすり抜けて……

 

 「ほいよナイスな宅配だワンちゃん!」

 ロダ兄の用意した縄へとシュート!グルグルに縛り上げられる。

 

 「……あまり強くないか」

 そう言うが、油断は出来ない。このオーラの薄さは、やはり何かあるだろう。それに不死鳥の名を持つ機体も良く分からない。LI-OHのように合体してくるのか?

 が、その瞬間ひょろ長い機体の手の十指が光った。

 「来たれ神に挑んだ愚か者の影よ。

 バレットファイヤー」

 駆動音を響かせて水の上にレールをひき駆けてくる新幹線のような何か。

 「アストラ・イカロス」

 ローター音と共に宙に現れるやけに尾翼?というか後部がデカイヘリコプター。

 「バーストデッカー」

 サイレン音と共に地を疾走して現れる大きなパトカー。

 

 なんだこいつら!?

 その三機はおれの前で突如として変形し、それなりにしっかりとした人型のロボへと変わる。

 威圧感は少ない。正直ATLUSの方が強いとは思うが……数が多すぎる!

 それに、こいつら恐らくAGXじゃない!重力操作をしてきそうもなく、根本から設計が違う!

 

 どうする?流石にこの数は、と今共闘してくれている鋼の龍人を見上げるが……咆哮と共に口から放ったビームと鋼の不死鳥が翼から放つ鳥形のエネルギー体が空中で激突し、炸裂する。此方を支援してくれる余裕なんて向こうにもないか!

 一応時間稼ぎに徹すれば良いとはいえ、もう少し此方にも!

 

 そう考えた瞬間、空を貫く見覚えのあるビームが背中にローターを回して明らかに向きが可笑しいのに浮いていたヘリコプター型のロボットを打ち落とした。


 これは!雷王砲!ということは!

 

 「『ダァイッ!ライッ!オォォォォウッ!!』」

 氷の中からそれを打ち砕いて姿を現すのは、祈りを束ねた機械の百獣王、ダイライオウ!

 

 「打ち砕いた筈だ、忌まわしき紛い物よ」 

 「ああ、打ち砕かれたとも。反省しよう。

 だが、時の歪みが、お前達の悪が、私達を再び呼び覚ました!」

 そうか、気がつけば周囲の壊れた物達も殆どが修復されている。いや、それこそ魔神襲撃で壊れたはずの建物すら健在の状態になっている。アルトアイネスの放ったアイン・ソフ・オウル-アキシオンノヴァというらしいあの一撃による時の歪みが、さまざまな点で過去をこの世界に上書きし……砕けたはずのLI-OHをほぼ完全な姿で過去から呼び出してしまったって事か!

 

 「竪神!」

 「すまないが皇子、システムが旧式、GJ(ジェネシック)LIO-REX(ライオレックス)への合体は不可能だ!」

 「良い!お前が居てくれるだけで十分だ!」

 「ああ、流石に最強のAGX相手にはなんの役にも立てなかったが、数多いとはいえこのくらいの心無い機械相手ならば!私とダイライオウ……とアイリス殿下が相手になる!」

あと2~3話で今章の戦闘は終わります。ぶっちゃけティアーブラックちゃんは顔見せなので……

また、最近AGX無双ばかりでしたが、次とその次の章はロボットもの化しません。LI-OH以外出てこず生身戦と乙女ゲーメインなのでお許しください。どうしても円卓側の敵を出すとAGXゲーになってしまうのです。

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