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終焉、或いは鋼の咆哮

「っ!」

 燃えるような、あまりにも鋭い赤みの強い紫瞳。同じく燃えるような色の濃い黄金の髪。歳の頃は……良く分からない。10000は超えましたが?という割に幼い気配の始水とは逆に、外見だけで見れば20歳そこそこだろうに、顔に刻みこまれた経験は老兵といっても過言ではない。纏う空気は最早、歴戦の大将軍もかくやというもの。その深い寄せられた眉間の皺や無数に流してきて焼けついたように少し変色した涙の痕がその外見年齢を狂わせる。

 

 「その姿が、精霊真王(せいれいまおう)ユートピア」

 エッケハルトから聞き、禍幽怒という名で頼勇……もう居ない二人から教えられた神の姿。かつてこの世界に墜落したという、AGXシリーズの開発者!

 

 やられた!と心のなかで毒づく。

 始水の外見で無理矢理世界の中に現れた彼は、時間で排除できると思っていた。だが!そうだ、元々ティアーブラックより以前にアヴァロン・ユートピアを名乗り、円卓の面々にAGX等を与えていたならば……精霊真王を模した姿も当然持っていた筈。そして……禍幽怒の伝承が残っていたならば、その姿でもこの世界の中には留まれる。

 ティアーブラックより時間制限は更に短いかもしれないが、そもそもその第二形態に気が付かれていなければほんの少しの時間でも致命的な隙を作ることが出来る!

 

 糞!どうする、どうすれば良い!?

 もう居ない友人や、どうしようもない神様に向けて呟くよう、譫言のように軋む脳内を無理矢理繰るが……

 答えはない。ある筈がない。

 

 でも!負けるわけには……

 「アヴァロン」

 「さぁ、全てを終わりにしよう。神の世の到来を示す嚆矢となりて」

 ギン!と黒銀の巨皇の瞳が黄金色に輝く。赤っぽい胸部の赤熱したX字のアーマーに更なる熱が籠っていく。

 

 「ちょ、待ってくれ!?どこまでやる気だよ」

 「無論、街一つで抑えるとも。今はまだ、な」

 冗談じゃない!と始水の化身姿を捨てたからか完全に男の声だけが二重に聞こえてくるようになった神を、今もまだ他人の褌で破壊しにくるアヴァロン・ユートピアを睨み付ける。

 

 こいつ、この街ごと消し飛ばす気か!

 出来るだろう、アガートラームでも出来るのだから!

 「やら、せるか、よ……」

 突き付けようとした愛刀を取り落とす。重力に引かれ、折れた刀身が完全にひび割れた大地の割れ目に呑み込まれた。

 

 「ってか、リリ姉!」

 「好きにしろ」

 「よっしゃ!」

 機械龍を身に纏い、重力の中一人だけ好き勝手に動けるヴィルが、グッと手を握って歩みを進める。

 そして、重力に負けて地面に押し付けられたまま動かない桃色の髪の女の子を、少し大事そうに抱えあげた。

 

 『キュ、クルキュゥ……』

 それに対して動きたそうなアウィル、けれども体が動かせないようだ。そして、それを見ながらおれの横を通り抜けようとする龍機ALBION。ギロリとその瞳がおれを睨み……

 

 「オラ!死ねリック!てめぇこの役立たず!」

 ブン!と空を切り、一切の重力を感じさせず振り抜かれる鋼の尾。アナに傷を治してもらっていたからか少女と重ならないよう何とか身をそらして倒れた少年リックに向けて、鋭き尾先の槍が走り…… 

 「っ!リック、アナ!」

 おれはまだ何とか動く体で、鞭のようにしなる尾に向けて体当たり。当然として弾き出されるが、それで何とか軌道を変える。

 そうして、ズレた尾は暗い色合いの髪をした少年の横に突き刺さった。

 

 「ヴィルフリート、何をするのです」

 更に聞こえる声。最早大集合だ。

 

 「シャーフヴォル・ガルゲニア」

 会うのは三度めか。装甲にヒビの入ったATLUSと共に、20代の軽薄そうな男がアヴァロン・ユートピアとアルトアイネスの横に君臨する。

 もうここまで来たらユーゴも繰るんじゃないかとなるが、正直来てほしくない。唯でさえ見えた光明を覆されたってのに、アガートラームまで来たらもう……どうしろというんだ。

 

 「私のものに当たったら」

 「控えろ、シャーフヴォル」

 キッ、と現れた部下を睨み付けるアヴァロン。その瞳にあるのは、おれへ見せる怒りと侮蔑の顔……から怒りを抜いたもの。

 

 「しかし、アヴァロン・ユートピアよ。私が運命を解き放つべき」

 「滅びが運命(さだめ)よ。諏訪建天雨甕星が加護など、常命にあたえられるべきものに非ず。あれは生きていてはいけないものだ」

 「しかし」

 「貴様も滅ぶか、シャーフヴォル?

 見て理解せよ、真なる神による浄化をもって、己が愚かしさを……神の世の到来を」

 ヒィン、と重力球とともに、見ていられないとばかりに青年の姿が転移して消えた。

 

 ……どうやら、アナもおれも逃がす気はないらしい。ここで殺すという意志をもって、アナを回収しに来た彼を帰らせた。

 

 ……どうする、どうすれば良い。

 未来をリリーナ嬢に、殺されない聖女に託して此処で終わる?そんな訳にはいかない。

 でも、何をすれば良い。竪神もエッケハルトも居ない、ロダ兄は何が出来るか模索中、シロノワールは姿を見せず……

 

 っ!そうか!

 

 胸元で巨皇がその強靭な腕をクロスし、何かが駆動する音を響かせたかと思うと、ぐぐっと胸を張る。

 胸元のアーマーが軽く開き、中央の神の文字が浮かび上がると……胸の横に構えられた軽く開いた拳と、胸アーマーの間に中学の授業で見たような光が現れる。プレートアーマーの光を中心に、小さな光がそれを取り巻いてくるくると不可思議な軌道で回っていく。まるで、原子のように。

 

 「龍姫を名乗る我が手にあるべき星よ

 仰ぎ見るが良い、真なる神星を」

 男がまた、始水の姿でやっていたように機体の方まで飛び上がり、腰かけたその瞬間!

 

 今だ!始水っ!

 「来い!デュランダル!」

 この脅威相手なら!そう思って伝説の神器を召喚した瞬間、普段は使わない魂のリンクを手繰り、アドラーの翼を大きく拡げる。

 そう、短距離転移してぶった切る!たった一つの……

 

 なのに、だ。確かに振るおうとした筈の、手を伸ばした筈のおれは気が付くと大地に微動だにせず突っ立っていた。

 

 「なっ!」

 「時を遡り、事象の地平を超え無限の光が集まる」

 っ!そうか!14以降はタイムマシン、ティプラー・アキシオン・シリンダーを搭載している!そいつでおれの時を吹っ飛ばしたっていうのか!

 

 っ!これじゃあ……

 「アドラァァッ!」

 せめてアナやリックだけでも!と嵐を放って飛ばそうとするが、嵐を出した筈の瞬間に飛ばし終わった状況まで時を飛ばされ無意味に終わる。

 

 「くっそぉぉぉぉぉっ!」

 何か、手は!

 「さぁ、虚無(ゼロ)に還れ!

 『アイン・ソフ・オウル-アキシオン・ノヴァァァッ!』デッド・エンド・シュート!」

 曇天、雨天、快晴、雷雨、月夜、正午、雷雨、雪、快晴、嵐、深夜……

 目まぐるしく空模様……いや、時を歪めながら胸アーマーの熱を受けた原子星がビームとなって放たれる!

 

 それは、避けようのない終焉。せめて、何か起きると信じておれは唯一動く右手を振りかざし……

 

 「『独つ眼が奪い撮るは(コラージュ)……っ!永遠の刹那(ファインダ)ァァァァッ!!』」

 轟く鋼龍の咆哮が、音を吹き飛ばした静寂の時を切り裂いた。

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