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下門陸と薔薇色に染まる龍神(side:下門 陸)

まーたまたリック視点です。次回のリック視点は死に際になる実質最後のリック視点なので許して……

「……だいじょぶですか?」

 そう声をかけてくれる銀の聖女様に、ぼく……下門陸は血の池に半ば埋もれながら、小さく顎を引いた。

 

 「リックくん、もう酷いこと、しないでくださいね?」

 なんて言いながら、背丈の低い女の子は自分の纏う白い服が血で赤く染まっていくのも気にせずに屈みこむと、ぼくの肩を持ち上げて、頭を膝に乗せてくれる。

 そして、仰向けにされるとじんわりとした青い何かが胸元に流れ込んできた。

 息が楽になる。魔法で産み出されたジェル状の何かが、肺に穴が空いたような状態を何とか埋めてくれている。

 

 「……ごめん」

 「ねぇ、アーニャちゃん。もう大丈夫だよね?私たちと敵とか言わないよね?」

 近寄ってきたリリーナさんからのその言葉に、ぼくの心臓は何かが突き刺さったように跳ねる。

 

 「言いません。わたしは皇子さまの味方ですし、リリーナちゃんとも友達ですから」

 「ならっ!アーニャちゃん、そんな奴、触れる価値無いよ」

 けほっ!と血を吐く。仰向けだから良く見えないけれど、こてんと首を倒して喉から溢れる血を唇の端から垂れ流し、白い太股を汚していく。

 

 「そうだ、ぼくなんて……」

 「ず、随分イメージ変わったね……」

 「また洗脳してくるかもしれないんだよ、危険だってアーニャちゃん」

 「……でも、苦しんでるリックくんを見捨てるなんてしたくありません。このまま放置したら死んじゃいます」

 「死んで良いよそんな奴!アーニャちゃん分かってる?まだ洗脳の影響残ってるの?

 そいつは、アーニャちゃんの心を弄んだ酷い奴なの!」

 そう言われて、ますますぼくの心は落ち込んでいく。

 

 そうだ。言われて当然だ。ぼくの人生は、カミキという太陽を喪ってからずっと薄暗い穴蔵だった。

 何の勇気もなくて、流されるままで。無理だって諦めて。

 

 「確かに、許せないです。

 それでもですよ、リリーナちゃん。生きていなければ、反省だって出来ないんですよ?」

 「どうせ生き返るんだよそいつ!そして傷が癒えたらまたイキって来るって!」

 

 ……確かにとぼくも思う。

 ヴィルに連れていかれた、謎の場所。ブラックホールの先にあった円卓の間で、確かにそんな事を聞いた。ぼく達真性異言(ゼノグラシア)は真の神によって祝福された存在。この世界の偽りの神どもの下僕の肉体に降臨した高位の魂であり、奴隷である過当な魂を生け贄に運命を覆すのだ、と。

 それを語ってくれたのは、リーダーだというアヴァロン・ユートピア。彼を一目見た瞬間から、逆らったら死ぬってぼくは昔みたいに流され続けた。

 

 無理だって、勝てっこないって。コラージュ・ファインダーというスーパーパワーを持っていても、それは変わらなかった。言われるままに、力を振るった。

 何時しか、ぼくを連れてきたヴィルフリートの下僕にされていて、それを疑問にも思わせて貰えなかった。

 

 「こんな、ぼくを……」

 「リックくん。それでもですよ?

 言ったじゃないですか。わたしは、泣いていたあなたを、変わりたいって思ったリックくんを、許してあげたいんです」

 「許さなくて良いよっ!」

 そう叫ぶのは、ぼくを露骨に警戒し続けていた男の子。どうしてか、一切の力が効かなくて……

 

 淡く漏れる緑光に納得する。そっか、本来ALBIONだって上手く奪えるものじゃない。コラージュ・ファインダーに抵抗する力を持った神から授かった力。それと同質のものを持つ転生者に、効くはずもなかった。

 

 ズルい。そう思おうとして……これじゃあ変われないって振り払う。

 「こいつが何をしてきたか、分かるよね!?」

 「分かります。許せないです」

 「なら」

 「だから、一緒になって御免なさいって謝って、変わろうとするのを助けてあげたいだけです」

 それでもあの日見惚れた本の中の女の子は、こんな下門陸を庇って魔法で傷を治し続けてくれる。

 

 「ほんと、私には分からないよアーニャちゃん!」

 「わたしは分かりますよ、リリーナちゃん。みんなが怒る理由も、それでもわたしがリックくんを助けたい理由だって。

 わたしは、誰かを許してあげた方が心がすっきりするんです。確かに許せなかったりすることはありますけど……その怒りより、そんな酷いことをした事を後悔してくれる嬉しさが大きな人間なんです。

 それに、ですよ?皇子さまがほとんど攻撃していないのにこの怪我、リックくんだってきっと脅されてたんです。だから、同じ被害者でもある人を、そんなに悪く言いたくないです」

 「そんなのっ、僕には割りきれないよっ!」

 「私だってそうだよ!ふざけないでって思っちゃう」

 「そう、だよ……なんで、こんなぼくなんかに」

 ぼく自身すら、そう呟いてしまう。

 

 「……こんなって、反省してるからですよ?」

 なのに、聖女様はどこまでも(やさ)しかった。

 「リックくん。少し前に、リックくんは自分をさらけ出して、変わろうとしました。あの時は分かりませんでしたけど……あの後もう一度わたしを洗脳したのって、ヴィルフリートくんにバレたらわたしが困ると思ったんですよね?」

 ……小さく、ぼくは頷く。

 

 ヴィルフリートにバレたら、殺される。あいつは……リリーナさん以外、本気でどうでも良いと思っているから。だからぼくには脅しをかけたし、自分の策が失敗したとなれば、アニャちゃん達を即刻ALBIONで殺しに行ったろう。

 ぼくが疑われて殺される。その道しか……無かった。だから、もう一度洗脳した。

 

 全部、勇気がなかったから。あの日から、憧れになれる力を与えられたのに、ぼくはずっと穴蔵で立ち尽くしたまま。

 こんなんじゃ、カミキに笑われる。愛想を尽かされる。そう思うことすら……

 

 『だからな下門。お前はお前になれ。夢は叶えるもんだ、立ち止まるな。穴ばっか掘るなら……自分を埋めず天を掘れ!

 何時かお前は自分が信じるお前になれる。それまでは、オレが信じたお前を信じろ』

 

 耳に残っていたはずのその言葉すら、ずっと忘れていて。ぼくは……こんなぼくは……

 

 「だから、わたしはあなたの味方です。変わりたい人に、わたしは手を差し伸べてあげたいですから」

 その言葉に、ぽろぽろと涙を流す。

 なんでこんなぼくに、此処まで優しくしてくれるんだって、大声で泣きたくなる。

 

 だけど……

 「ぐっ!げはぁっ!」

 飛んでくる何か。アニャちゃん達を護る竪神頼勇の反応を振り切ってぼくに激突してきたのは、焼け焦げた服を着た灰銀の髪の皇子。

 

 「皇子さま!?」

 「え、ゼノ君!?」

 「がっ……ふっ!

 アナ、リック、無事か?」

 血反吐を地面へと吐き捨てて、あらぬ方向に曲がった左腕をだらんと下げて、刀を支えに立ち上がるゼノ皇子。

 でも……その刀の透き通った刃、刃渡り77.7cmの筈のそれは……40cmくらいから先が無かった。

 

 お、折れてる!?

 「……ティア」

 静かに、折れた蒼き刀をそれでも構えながら、青年は静かにそう呼ぶ。

 見れば、遂に地面に倒れ伏した機械龍を護るように、薔薇色に染まった氷の翼を拡げた漆黒の晴れ着を身に纏う小さな龍少女が立っていた。

 

 髪も瞳も鮮やかな蒼で、顔立ちは理知的ながら幼げな雰囲気から背伸びした可愛らしさ、の方がより強く感じられる。なのに、白い肌にも、蒼い髪にもあまり合わないだろう真っ黒一色のミニスカートの振り袖。

 見覚えなんて無い。ティアという名前は小説版にはほんの欠片程度しか触れられておらず挿し絵も無かったから、下門陸は彼女の外見を一切見たことがない。

 

 「邪魔しないでくれますか、23(にいさん)

 抑揚と感情がないから、とても可愛いのに不気味さを感じさせる声音で、少女はふらつくゼノ皇子を番号で呼ぶ。1~22は何なんだろうなんて、場違いな推測もしたくなるけれど……

 「23を傷付けたそいつを殺せないじゃありませんか。あまり抵抗して迷惑をかけないでくれますか?」

 「いや、言い方を変えようか。

 誰だ、お前は!」 

 少女を睨み付け、叫ぶ皇子。

 

 「良く知っている筈ですが?

 ですがまぁ、真なる神として常命の輩にも名乗ってあげましょうか。ティアーブラック、とでも呼んでください、23?」

 ……その言葉に、背筋が凍った。

次回は少しだけ時間を戻し、ゼノ視点でティアーブラック登場までを描くものとなります。ちなみに当然ですが始水ではありません。

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