機龍、或いは奮戦
おれは、愛刀ではなく先祖の魂の宿る轟く焔剣を手に吠える。
「ALBION、それがどれだけ恐ろしい力かは知らないが!」
「ってか、俺とアイムールの敵じゃねえっての!お前はもう見てなゼノ!おしえてやるよ、最強って奴を!」
……何だろう、滅茶苦茶エッケハルトがイキっている。リックを見てる気分というか……
お前アイムールに魅了されてないか?大丈夫か?と心配になるというか。
まあ、良いか。
そう思いながら、信じた聖女にリックを任せておれはただ敵と対峙する。
というか、良くアナは分かってくれたなと思う。リックは確かに悪いが、よりヤバイ奴が居て被害者でもあるから護れるなら護りたい。そんなおれのワガママに合わせたような事を、全部知ってますよと言いたげな始水以外がやるとは思わなかったが……
「うっぜぇよてめぇ。リリ姉にも好かれやがって!」
叫びをあげるアルビオン。機械の龍人は確かに各所にヒビを残し、結晶が欠けているが……それだけだ。明らかに精細を欠くとまでは言わない。やはり、リックに使わせていた頃は明らかにヴィルが能力に大幅な制限をかけていたのだろう。
おれ達に倒させるために。
刹那の後に、機械龍の姿はおれの背後にある。転移した気配はなく、単純明快に出力にものを言わせてかっとばしてきた、といった趣だ。
だが!
「死ねっ!」
「おれは、死なない!」
轟剣を横凪ぎに半回転、振り下ろしてくる鋼爪を受け止める!
「てっめぇぇぇっ!」
吠える機械龍。やはり、弱い。
弱さの原因は簡単だ。リックが見せかけて、ヴィルフリートを巻き込みかねないからかさらっと発動をキャンセルさせられていたようにもっと高火力を誇る武器は幾らでも所持している筈だ。
だが、それを振るえない。近くにリリーナ・アグノエルが居るという事実が彼に……おれ達を圧倒する本来の火力を使わせない。
そしてっ!
「雪火謳歌翔っ!」
師匠から習った技の一つの滞空技で更に逃げんと天へと飛び立った龍を迎撃する!こいつは刀じゃなくても撃てるんでな!
ガキっとした硬質な手応えが返ってくるが……問題ない!竜水晶の刃は刃零れするほどヤワじゃない!押し通す!
刃が足の爪を掠める。
やはりそうだ。脆い。AGX-ANC13以降は化け物らしいとアルヴィナは言っていたし、実際に今のおれ達の総力を結集してもユーゴの14には勝てないだろう。
だが!弱い!特に……持ち主が弱すぎる!
「畜生っ!リリ姉を返せ、返せよ!」
「……脆い!激龍閃!」
更に突貫して畳み掛ける!
天空へとブースト。翼のエンジンを噴かせて天へと鋼の流星が昇っていく。
そうしておれの一撃を回避するが……奴は、ヴィルフリートはそこからおれ達の射程圏へと降りてきてくれる。
まるで、ゲームの敵ボスか何かのように、倒せるような場所に来てくれる。弱すぎる。
もっと火力がある、射程もある。おれ達の手の届かない遥か数十kmは先からATLUSの撃ってきた縮退砲なり何なりを高速飛行しつつ乱射すればおれ達に対処のしようもないから負けようがないというのに、わざわざ負け筋の接近戦を挑んでくる。それも、ATLUS以下の防御性能をさらけ出しながらだ。
「……お前弱いだろ、ヴィルフリート」
「抜かせリリ姉泥棒ぉぉぉぉぉっ!」
こうして少し煽ってやれば、分かりやすく突進してくるところも!
「……だろう、エッケハルト」
「人使いが荒すぎんだよお前!」
背中を今回は護るでもなく、轟剣を自然体に下ろして無防備に晒す。
だがそれで良い。おれにはALBIONの装甲も重力操作による斥力障壁だか何だかも精霊障壁も無いが、それを貫ける火力ならアイムールにあるし……何よりヴィルフリートはおれの背中を狙う気しかしなかった。
分かりやすすぎる上に、そのまますれ違いつつ引き裂くのではなく(恐らく安全性が切り捨てられてるらしいから速度を出したまま当たると自分の腕も反動で折れるのだろう)、攻撃の寸前に一旦静止して速度と奇襲性を自分で殺してくれるのだ。これほどやりやすい相手は居ない。何というか……おれは始水の居ないときにおれの生活費で皆が買いに行った狩りゲーをデモムービーしか見てないが、そこに出てきていた巨大な飛竜みたいだ。
ハンターの射程外から永遠に高射程技撃っておけば確実に勝てるのにそれを捨てて隙だらけの近接戦仕掛けてくる辺り、まんまだ。
一撃貰えば致命傷だが……こんな相手に、負ける気がしない!
「ぐがぁっ!?」
背中を巨斧に断ち割られ、龍機人が悲鳴をあげて空へと逃走し……
「エクス・S・カリバァァァァッ!」
そこを狙って貫くは蒼き嵐!竪神の放つユーゴも使ってきたそれが逃げ出したアルビオンを包み襲い掛かる!
逃げ出す方向すら画一的。やりあって分かったが、精霊障壁を持つとはいえ、出力にものを言わせて完全に防いでくるアガートラームのそれとは違い、アルビオンのそれは一瞬展開してインパクトを止めて火力を緩めつつその間に機動性にものを言わせて攻撃範囲から離脱する事で実質的に無効化するための装備のようだ。
それを回避の補助ではなく単なる盾のように使ってくるのだから、ある程度ダメージを通せてしまう。
正直な話……ヴィルフリートと比べれば、ATLUSとシャーフヴォルの方が何十倍もヤバかった。
「てめぇら!とっととリリ姉を解放して死ねっ!」
腕を交差して切り裂かれながらも耐えた機体から振り下ろされるのは巨大な剣、全長5m程か?一応身に纏うALBIONの全体よりも長い。切り落とした尻尾がそのままなら尻尾の先までと同じくらいか。
「……だから、脆い!」
轟剣でそれを両断、やはりというかこうした武装はほぼ現代兵器と変わらないもの。ファンタジー舐めんなミリタリー!と叫びたくなるくらいに……単なる鋼!もう豆腐でもそう耐久力は変わらない!
「ぐがぁぁっ!」
発狂したかのように頭をかきむしる……が、フルフェイスでは意味がなかったのだろう。そのまま飛び去るALBIONの姿。
一息付いたところで、ふとおれの全身から火が消える。
タイムリミットか。流石にあいつ単騎相手に時間をかけすぎた。あまり長時間呼んでいられないと、別れ際に始水に言われていたというのに。
「……勝ったっ!見ててくれリリ姉!」
それを見てか反転、突っ込んでくる鋼龍。
だが!本当に……読みやすい!
「皇子さまっ!」
叫びと共に、銀の聖女が手にするのはリックが取り落とした愛刀。それをアウィルが咥え、
「そっちが、今度は遅ぇぇぇんだって!」
「ノロマは、そっち」
あまりにも直線的におれへと流れ星となって突撃してくる龍星がアイリスのゴーレムという壁に激突する
「んぎゃぁぁぉっ!?」
やはり、速度に中身が耐えきれないのだろう、鋼の巨体を龍星がぶち抜くものの、貫いた側がすっとんきょうな悲鳴をあげる。
「……手を貸してくれ、月花迅雷!」
だから、ここで動きを止めるから……お前は!弱い!ヴィルフリート!
「迅雷!抜翔、断!」
おれは手の内に収まった瞬間、愛刀を全力で抜刀し……黄金の雷が、宙で静止した機械巨龍を貫いた。
はい、ということでそろそろまともにボス戦です。
何かとサクラちゃん視点は終わり、平常運転に戻ります。




