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早坂桜理と真なる機龍(side:サクラ・オーリリア)

「ん、なっ!?」

 眼前に降り立ったのは、燃え盛る炎に自分の身すら焼きながら、伝説の神器……七天御物、轟火の剣デュランダルを携えた仮面の騎士。その姿は少年達の中で人気の娯楽小説の主役そのもので……

 

 「獅童君、どうして!」

 彼自身が敵に回っているという事実に、頭が追い付かない。

 

 「何だこいつ!?こいつもリックに洗脳されたのか!」

 その言葉に理解する。あ、きっとアーニャ様か誰かみたいに思わされてるんだって。獅童君……ゼノには魔法防御がないから、影響をモロに受けて……

 

 「ゼノ!お前!何をしてる!」

 「決まってるさ。この戦いを終わらせに来た」

 「お前が止めなきゃ終わってたんだ!このアホ!」

 そう叫び、斧を振り回すエッケハルトさん。確かにその筈なんだけど、何かが引っ掛かる。

 

 「終わってた?」

 「アナちゃんを誑かすリックさえ倒せば……」

 「どうなってたって?」

 

 轟!と振るわれる金刃。横凪の剣閃が機械龍の胸を断ち……

 ごろんと、その胸装甲が転がり血が迸る。

 

 「あ、やった……」

 ぽつりと安堵の声を呟くヴィルフリート。

 

 だけど。明らかに可笑しい。

 流石に僕でもわかる。何で……装甲の内側に血に濡れた精霊結晶が、胸を抉るかのように生えているの?まるで、纏うリックを傷付けるかのように……

 

 「なに、これ」

 「……一つ聞かせてくれないか、ヴィルフリート」

 底冷えのする言葉。何時も優しいからこそ、獅童君のその声は顔が見えない事も相まって……背筋が凍る程に、恐ろしかった。

 

 「な、なんだよ?僕が」

 「その手」

 「あいつに!竜の呪詛だって、従わないと殺すって……」

 「なぁ、ヴィルフリート。ならば、どうしてだ?何故『明確にリックを裏切っているのに呪いは一切進行しない?』」

 え?と彼の言葉に僕はリック達から目線を逸らして振り返る。

 

 そう言えば、呪いをかけられたって結晶が生えた手を見せられて焦ったけど、更に進行する姿を見たことが、ない?。

 「うっせぇよゼノ!お前も洗脳とか!されて……」

 「……答えてくれるよな?

 紅ノ牙」

 その瞬間、焔を纏う青年は躊躇無く手にした身の丈近くある大剣を全力でぶん投げた。

 

 焔の軌跡を残して、閃光のように剣が宙を走り……

 

 「っ!ヴィル!」

 リリーナさんが心配そうに叫んだ刹那、青い障壁が噴き上がる。

 

 「ちっ、もう少しで上手く行って、リリ姉にも真実を信じてもらえたのに」

 焔の剣を受け止めた障壁が消えた時、少年の姿は既に其処には無かった。代わりに君臨していたのは、ほんの少し前まで僕達の前にリックの機体として立ちはだかっていた筈の機械龍人、AGX-ANC11H2D……

 「ALBIONっ!!」


 明らかに、自由意思で呼び出したように見えた。リックの纏っていたあれを、呼び戻したように。

 嘘、嘘だ。なら、僕達のやって来たことって?

 困惑する僕を余所に……傷だらけだった、翼すら飛び立てずに爆発した筈の機龍は鋼を擦り合わせる不快な音と共に空へと浮かび上がった。

 

 「ね、ねぇヴィル!嘘だよね」

 「嘘だよ、リリ姉。リリ姉が僕を見ないで、ゲームキャラなんかに現を抜かしている悪夢(げんじつ)が。

 嘘でなきゃ、可笑しいんだ」

 天から響く、どこまでも敵意の無い言葉。でもそれはまるで……昔の僕が抱きかけていた想いと同質な、歪みきったもので。

 

 「だから、正そうと思った。なのに!」

 キッ!と龍のフルフェイスが、紅に瞳を輝かせて自身の血が産み出した池に沈む少年を射抜いた。

 「何で最後まで、ALBION使い手として死なない!リック!君の役目は、そこまでだろう!」

 「待ってよ!全部、全部嘘だったの?」

 「嘘なものか。あるべき形だ。

 そうでなければ!何でリリ姉に心配して貰えるとはいえリックにわざと虐められてやらなきゃいけない?」

 それを嘘と呼ぶよ!と叫ぶ勇気が出ない。静かに獅童君は剣を手に天空に結晶纏う機械翼を拡げる脅威を見上げ、なにかを待っている。

 

 「だから、リリ姉待ってて。すぐにリリ姉を縛る悪いキャラ、殺してくるから。

 ほんとはさ、リリ姉が気に入ってるからあんまり壊したくなかったんだけど、壊れた玩具は僕が片付けないとリリ姉が怪我しちゃうから」

 そのまま、人型の龍が見下ろすのは獅童君……そしてリックへと目線が移る。

 

 「まずは、一番役に立たなかっ!?」

 突然、その背中が爆発した。ぐらりと機体が揺れ、高度が落ちる。

 

 「なっ!?」

 「と、こっそり遅れて爆発する弾を撃ち込んどいたが、正解だったようだな」

 にぃ、と笑って雉の翼で僕達の前に現れるのはロダキーニャさん。

 

 「なっ!何時」

 「何時って、てめぇがワンちゃん妹と戯れてる時だぜ?服に数発、気が付かなかったか?」

 「まだその時は!」

 その言葉に、腕を組んでドヤっとしながら、白桃の青年は笑い返した。

 

 「俺様これでも縁は大事にする質でな?

 人を呪わば穴二つ、呪も悪縁、縁の端くれって訳。お前の腕のそれでよ、俺様に教えてくれたろ?

 そいつが呪いのような悪縁じゃないってことを。ならば簡単、本来の縁で……ALBIONの力で自分から生やしている。

 ならよ、そんなの……ワンちゃんの言ってた気を付けるべき存在以外居ないだろ?密かに気を付けさせて貰ったぜ、悪縁さん?」

 「ぐっ!お前ぇぇっ!」

 怒号と同時、巨大なブースターウィングに4つある砲門から放たれるビーム砲。

 それを堂々と受けて……青年の体が掻き消えた。

 

 「そいつ実態の無い陽炎だぜ?

 さて、俺様の弾丸、あと幾つあると思う?」

 「こ、このっ!」

 大地近くまで降りてきた機龍が吠え……

 

 「なんて、なっ!」

 しなやかにしなる鋼の尾。その先にもやはり生えている結晶が光り輝き……

 

 「シャーフヴォル等なんてもう知るかよ!リリ姉から聖女の役目を奪うてめぇを血祭りにあげて!絶望を!」

 そこから背後……崩れ落ちたままのリックの事を助け起こしている聖女様を狙う!

 

 「アーニャ様っ!」

 でも、獅童君はそれを止めようとするでもなく、逆に一歩前に出て……

 

 「……竪神」 

 「ああ、解き放て、エクスカリバーっ!」

 ビームと聖女様の間に割って入るのは蒼き結晶剣を携えた青年であり、それに任せきった龍騎士はそのまま地を駆けて……機龍の揺れる尾を断つ!

 

 「ぐっ!?こいつら!?」

 「行けるな、竪神」

 「勿論だ、迷惑をかけた」

 「ほとんど全員、互いにな。それで良いだろ?」

 それだけの言葉を交わし合うと、二人の青年は互いにやるべきだと思ったろう方向へと別れる。獅子の騎士は聖女様を守る方へ、龍の騎士は機械龍の討伐へと。

 

 「っ、こいつら」

 「リックのコラージュが消えれば、記憶は戻り全員事態を理解してお前の敵に回る。

 さあ、本番と行こうか、ヴィルフリート・アグノエル。

 その機体、此処で打ち倒す!」

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