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降り立つ英雄(side:下門 陸)

下門陸(しもん りく)の人生は、何処で間違えていたのだろうか。それを自分に問いかけたら、間違いなくたった一つの答えが返ってくるだろう。

 所謂不良のレッテルを貼られていた状況から脱け出さなかったこと、それに尽きる。

 

 勇気がなく怯えがちで、友人も何もおらず一人ぼっちな中学生の陸に話しかけてくれたのは、上木南柘(かみき なつ)……カミキと呼ばれていた一人の不良だった。

 夢だけ書いたタイムカプセルを一人で中学の校庭に埋めようとしている時にふらっと現れた彼は、夢なんて願うんじゃねぇ!叶えてやるもんだ!と強引に陸を連れ出したのだ。

 

 それから、陸の人生は変わった。決してカミキは品行方正な人間ではなく、破天荒なところもあった。だが、腕っぷしが強く人情派で、譲らないところは譲らない。普段は快活だが友達や無関係の人々の為には容赦なく拳を振るう彼の元には、行き場の無い半グレみたいな連中が集まって相応に楽しくやれていた。彼のお陰で、大きなやらかしもなく、不良っちゃ不良だが……というくらいで収まっていたのだ。

 そんな中で、リーダーのお気に入りである陸も相応に息をしていたのだが……

 

 カミキは死んだ。無関係の人を巻き込んだ大きな火事騒ぎ。夏に浮かれ危険な花火遊びをした皆の前で、関係ない人様に大きな迷惑をかけすぎたら未来はねぇ!と取り残された人々を助けにいって……彼自身は帰ってこなかった。

 

 それから、グループは崩壊していった。結局カミキありきである程度抑えられていただけの半グレ達。抑えが消えて、どんどんと悪化していった。お気に入りでしかなかった陸に、それを止める力なんて無く……暴力に怯え、もう抜けるよと言い出す事もまた出来なかった。

 

 そうしてずるずるとどんどん落ちてしかも増えていくクズ達とつるみ続け、行き着いた果ては少年院。

 下門陸の人生は、カミキの死で何も出来なかったその時にあると言って間違いはなかったろう。自分が第二のカミキになれていたら、陸はずっとそう思っていた。

 

 「だから、この力を!独つ眼が奪い撮る(コラージュ)は永遠の刹那(ファインダー)を!

 あんな俺が!カミキになれる力を!手にしたんだ!」

 ふと、リック/下門陸は疑問に思う。本当にそうだったろうか?と。

 カミキは何時も、陸に発破をかけてくれた。その言葉を何故か陸は覚えていない。だが……オレのようになれ!では無かった気がするのだ。

 

 しかし、そんな疑問で止まる事はもう陸には出来ない。進み続け掘り続け、未来に辿り着くこと。それしかもう道はない。

 「だから!吠えろ!ALBIONっ!」

 ロクロク動かない切り札とも呼べないボロボロの龍機人を駆り、陸は叫ぶ。

 

 「アナちゃんを返して貰うぞ!」

 迸るのは冷気。持ち手があまりにも太い巨斧から吹き出すそれが、周囲を凍てつかせていく。

 纏う力の質は、ALBIONと同じ。半ば消えた機体各所の結晶と同質のおぞましく恐ろしい恐怖と絶望の冷気。それを力に転用できれば!と陸は思うが、そもそもALBIONにそんな機能があるのか不明。

 

 「ぐっ、がぁっ!」

 機械翼もボロボロで、即座に飛び立つことが出来ずに凍り付いて機能を停止する。そのまま氷に全身の動きを封じられ……

 「悪!即!斬!アナちゃんを返せ!」

 振り下ろされる紫の斧刃。

 

 ガギン!と硬質な結晶を盾として纏いその刃を受け止めるも……赤熱したソレによって、段々と無敵の筈の精霊障壁にヒビが入っていく。

 

 「リック皇子様!」

 『ルキュゥ!』

 ゴーレムと戦う最中、それでも陸を……リックをゼノになった者として扱う白狼の援護に放った赤い雷撃が翼を閉ざす氷を打ち砕き、銀の聖女がエッケハルトの左手を引いて斧を止めようとする。

 

 「確保したぞ、アナちゃん!もう離さない、君を二度と!」

 それを良しと青年は刃を一旦収める。漸く翼が起動し、陸の体は……機械龍ALBIONは宙へと浮き上がった。

 

 遅い!遅すぎる!

 陸は心の中で怒鳴る。

 だから俺は!負けられないのに!

 「アニャちゃんを、返せ!」

 「返す?ふざけんな泥棒!」


 そうだ、泥棒だ。端から見て、誰が間違ってるかと言えば、陸だろう。それは陸自身も誰より知っている。

 それでも止まれない。止まるわけにはいかないのだ。

 

 「リック!」

 飛び上がったところに響くのは絶対に聞きたくなかった声。ヴィルフリート・アグノエル。

 

 「お前!お前ぇぇっ!」

 投げつけられる何か。恐らくは魔法だろうエネルギーの塊。それを重力が生み出す斥力障壁で弾き、陸は翼の砲門から反撃のビームを……

 放てない。

 

 「ぐぅ!やはり……」

 キリリと痛む心臓。

 「エネルギーが、足りないっ!」

 かはっとフルフェイスの下で血を吐きながら、陸は苦悶に唸る。

 「ヴィルフリートぉぉぉぉっ!」

 

 その怨詛の台詞を前に、まるで怯えたように一歩下がる赤毛の少年。

 「ヴィルフリート、オーウェン。流石に無茶だ!」

 迷いから互いにまともな決定打を放たないゴーレム達の戦いのなか、一応陸側に立つ竪神がそう告げる。

 

 「幾ら半壊してようが、敵はAGX、君たちでは」

 「その通りだよぉぉっ!」

 動かない機体の武装には最早頼る気はない。ゼノ皇子からコラージュした彼の愛刀を振りかざし、そいつで切り捨てる!

 その覚悟と共に陸は翼を噴かせ、まずは……いや、最初から何よりも!とヴィルフリートを狙い突撃を……

 

 「ぐはぁっ!?」

 同時、ひび割れていた機翼が噴煙を上げて爆発し、陸は機械龍ごと大地に転がる。

 

 「今だっ!」

 「がぁっ!?」

 振り下ろされる斧。今度は止められることはなく、咄嗟に左腕を出して受け止めるも……

 「ぐぎゃあばぁっ!?」

 その腕は纏う機械ごと切断された。

 ころんと大地に転がる、血塗れの左腕。

 

 それを恨めしげに眺める陸。

 「止めてください、リック皇子様が」

 「アナちゃん!そいつが何よりの悪なんだよ!」

 止めようとしてくれる聖女。けれども、既に事態は陸を悪としての決着をみようとしている。何を言ってももはや同じだ。聖女の声は届かない。

 

 「それでも、俺は……アニャちゃんを!」

 喉から溢れる血を呑み込んで、陸は最早デッドウェイトと化したアルビオンを纏い立ち上がる。

 

 少年院の陸に送られた四冊の本。憧れるならクズじゃなくと親戚から送られた、乙女ゲーの小説化。

 そこを呼んで憧れた、なりたかった……

 そんな彼の大事な人を、失いたくなかった。

 

 「だから俺はゼノでなきゃ!」

 「うるせぇ偽者が!」

 再度迸る冷気。抵抗すら最早無く、機体は全体が凍り付いて完全に静止する。

 

 「俺はぁぁっ!」

 「違うだろ、リック」 

 不意に聞こえる、そんな声。

 

 「誰!?」

 「誰なんですか!?」

 二人の聖女が困惑する、今の彼女らには聞き覚えの無い声。それに反応しないヴィルフリート。

 

 ……仮面の下で、リックは笑う。

 ああ、やっぱり……俺は君にも、カミキにもなれなかった。でも。

 「俺は君でなきゃ」

 「違うだろうリック、お前はお前になれ。

 叫べ、お前の本当の願いは、何だ!」

 何処かから響く、そんな叫び。

 

 ああ、何で俺を……ぼくを庇うんだ、彼は。

 まるでカミキのように……

 

 紐解かれる封じられていた記憶。

 『お前はお前になれ。オレになるな。お前の信じる道を行け。

 それに自分で勇気が持てないなら思い出せ!お前を信じろ。オレが信じた、下門陸を!』

 

 ああ、そうだ。だから……

 

 「アニャちゃんを、ぼくを……」

 「何が何だかだが!終わりだ、アナどろぼぉぉぉっ!」

 振り下ろされる斧刃。そしてそれは……

 

 「助けてくれ!」

 「当然だ!」

 轟火を纏う赤金の大剣に阻まれた。

 

 「っ!?」

 驚愕に目を見開く炎髪の青年。

 「魔神!」

 『剣帝!』

 「『スカーレット、ゼノン!』」

 その前に突如として立ちはだかったのは……


 焔を纏い、帝国の剣を携えたゼノ皇子だった。

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