早坂桜理とおぞましき武器、或いは反撃の号砲(side:サクラ・オーリリア)
「ふーん、呼び出して何の用?アニャちゃんがリリーナちゃんに悪いって言ってヤることさせてくれないから……」
舐めるような瞳が、リリーナさんから逸れて僕を見る。
「焚き付けられて代わりにというか婚約者として結婚に至る云々……って訳じゃなさそうだ」
「当たり前だよ!私さ、そういう18禁なのはいけないと思います」
「いやリリーナさん、成人や結婚は15歳だよ一応」
「まあこの世界だとそうだけどさ!?」
「リック!僕はお前にぜーったいリリ姉はやんないからな!」
わいわいと僕達はちょっと緊張無く、呼び出したリックを出迎えた。
っていうか、リリーナさんの名前で呼べば釣れるんだね彼……って何か残念な気持ちになる。
いや、獅童君とか誰かが呼べば来るからそこは変わんないか。
目の前に現れたリック。もう隠す気も無い気がしてなら無い。だって、当然のように腕には分厚い黒鉄の時計が……僕のよりショボいアストラロレアXが見えているから。何時でもアルビオンを招来できるようにしてるってことは、それだけ僕達を警戒している事。
「何をそんなに怖がってるのかな、リック皇子?」
「はっ!怖がってねぇよ裏切り者どもが」
「え、裏切り者?それ何なのリックくん?」
呆けたフリでリリーナさんがこてんと小首を倒した瞬間。
「《独つ眼が奪い撮るは永遠の刹那》」
びくん、とリリーナさんが肩を震わせ……
「違う!私の知ってる婚約者な君と!今のリックくんは別人だもん!」
手の中に太陽の杖を召喚してそれを支えに崩れかけた体勢を立て直す。僕には影響がないけど……
「カット、コピーアンドペースト」
「ゴメン。僕にもちょっと特別があってさ。あの時は変装してたから、僕にはその能力は効かないよ。コラージュ出来るだけの関係性を、僕を、君は写真に撮せていない」
「ちっ。面倒な」
毅然とした態度で、ヴィルフリート君を庇うように僕は一歩前に出る。
大丈夫、犠牲者が出る前に、片腕が結晶に覆われてそこからタラタラと血を流すヴィルフリート君を……ちゃんと護るから。
その為に、アイリスさんが来てくれたんだしさ!
「ちっ」
「っていうかさ、ヴィルフリート君は良いの?」
僕はわざとワルっぽく問いかける。時間稼をしたいのはこっち。アイリスさんとエッケハルトさんが今回の切り札、それを揃えてALBIONを倒すために、最初にイキって語らせる。
「あ、ヴィル?」
「友達がいきなり変な結晶に苦しんでるところ見たらさ、普通何かあるよね!?私とか見た瞬間どうしよって頭まぁっ白だったんだけど?
薄情じゃないかなリックくん?」
「薄情?情がある相手に対してだけだろそんなん使うの」
その冷たい言葉と、心底どうでも良さげな顔に、それでもと付いてきた赤毛の少年が膝から崩れ落ちた。
「何だよ、それ……
リック!僕達は、友達だったんじゃないのか!」
「……メモリーデリート」
「……っ!」
膝をつき、呼び出した湖の畔に手をついて地面を見つめていた少年が唇を噛む。
「リック!お前、誰なんだ」
「あ?だから、分かんない?」
嘲るような眼が、項垂れた彼を射る。
「僕の親友を!何処へやった!何で君と!親友だと思ってたんだ!」
「だから、これが力。お前の友人って事であまり疑われず聖女等に近付いて、この能力の起動条件を満たすために友人に成り代わってた訳」
「そんなことは聞いてない!」
「だからよ、ヴィルフリート。
ありがとよ。お前の親友と地獄で再会させてやるから、安心して感謝を胸に死ね」
既に赤熱し人魂のようなものが見えている(あ、そう展開するんだ僕のとは展開後の形状が違う)時計が輝いたかと思うと、結晶……ではなく、キィンという異音と共に超小型ブラックホールが出現し、事象の地平線から何かが射出される!
ATLUS以降の縮退炉搭載機の標準装備!ブラックホールの先の空間を安定させてそこから武装を取り出して応戦する規格システム。ATLUS辺りだと1km越えた巨剣とか入れてたっけ?
でも!
「うにゃう」
ドゴンと着地した巨大な鋼の巨兵に阻まれ(って思い切り突き刺さってるけど)放たれた槍は止まる。アイリスさんが平行して動かしてるというアイアンゴーレムだ。
「あいたっ!?」
「着地点、失敗……です」
何かヴィルフリート君に機体の一部が当たってるんだけど!?
「だ、大丈夫ヴィルフリート君?」
「いったぁ……」
と言いつつ、怒りよりも落ち込みが見て取れる顔。本当にショックだったんだろう。
アーニャ様にも同じような目に逢って欲しくないから!
改めて僕はリックを見る。
コラージュ能力は確かに凄い。凄いけど……
「リック。君の能力は、疑われてからは強くないよね」
そうなんだよね。滅茶苦茶弱い。関係性を奪い取るにしても、写真がないと駄目。だから……有利な状況を作るのには長けていても不利を覆す力はほぼ無い。
武器さえ持ってる場面を見れれば対処は出来るんだろうけど……そこを写真に撮られなければ奪えない。
「そうか?そう思うのか」
「既に僕達を警戒してたみたいだからもう隠さないけど。例えば招来する所を写真に撮ってなければ、LI-OHを奪えないよね君?」
「ま、そりゃそうだ。縁を書き換える力、縁無くしては……」
と、にぃと少年は狂暴な笑みを浮かべた。
「だが!こいつはどうかな!」
「AGX-ANC11H2D。どれだけ強くても……」
「はっ!ちげぇっての!」
ケタケタと僕を嘲ってくるリック。
え?彼にアルビオン以外の切り札なんてあるの!?それはちょっと予想外……と思ったけど、それは意外なところから現れた。
「リック皇子様!」
「アーニャ様!?」
そう、少しの焦りを見せながら、この場に駆けてきたのは銀髪の聖女様だった。
「今の俺は、アニャちゃんの皇子さまなんだよ!呼べば来る!」
そうして、少女は一緒に居たろう白狼と共に、イキる少年の半歩背後に控えた。
「アーニャ様!」
「アーニャちゃん!そいつは」
「関係ありません。リック皇子様が、わたしが護るべき人です。わたしだけは、彼の味方をして上げなきゃいけないんですっ!」
悲痛な声で騙されていると叫ぶけど、彼女にはその声が届かない。
「アルビオン?違う。俺の武器は信じてくれるお前らの仲間だよ」
「この屑……っ!」
「酷い……っ」
アーニャ様が味方してくれないのは分かってたけど、こんなの人質みたいなものじゃないか!
そう叫びたくなって、どうしようと構える。
だけど、大丈夫だって心を落ち着ける。本当は心配だけど、戦う際に彼らまで敵にって考えたくなかったけどっ!
「そうだよね!エッケハルトさんっ!」
「出来たら様付けしてくんない!?」
な、何だか締まらない……でも!ちゃんと来てくれた!と僕は手をくっと握る。
「って誰かと思えば空気!」
「空気じゃない。確かにお前たちの知ってるゲームだと割と無難すぎて空気よりの扱いだったけど!今の俺はもう違う!」
そう叫びながら、多分ロダキーニャさんに投げられたのか僕の前に落ちてくる炎色の髪の青年。
「は?お前特別なもの無いだろ」
「あるさ!見せてやる。アナちゃんを護るために与えられた力!選ばれた証を!
お前を倒し、この手に取り戻し!ゼノなんかより俺が!アナちゃんの運命であると証明する!」
そして青年は、大地へと拳を振り下ろした。
「来い!そして轟け、豊穣と神撃の力!
アイムゥゥルッ!」




