早坂桜理と決戦準備(side:サクラ・オーリリア)
「で、どうだったんだ?」
ま、俺様怖いかんなと遠くで別行動していたロダ兄と合流。そのまま顔を突き合わせる。
「ロダキーニャさんの方は何か分かった?」
「いんや?あのリックがデートしてたってアレな報告だけよ」
「デート!?」
くわっ、と目を見開くリリーナさん。そういうところは結構食い付くね……って僕はくすっと笑ってしまう。
「おう、銀髪娘と一緒にお揃いの耳飾りなんて買ってたぜ?」
「「うわぁ……」」
二人してあまりの行動に溜め息を吐く。
いやいやいや、リックさ、やりすぎじゃない?確かに怪しいって言いつつ信じるものは信じるって程アーニャ様に想われてる状況って心地良いかもしれないけど……でもさ、自分は操ってる自覚とかある訳じゃん?
それでお揃いのものとか買って染めに行くのは本当に屑だなぁって思ってしまう。いや、アーニャ様って銀色で染めやすそうに見えて結構芯が強いから染まらないかもだけど……
「やっぱりさ、早くしないとだよね」
真剣なリリーナさんに頷く。
「うん。ヴィルフリート君の為にも、アーニャ様の為にも、絶対に」
時間をかけて好き勝手させる訳にはいかない。正直さ、最初はいっそ波風立たせずに修学旅行を終わらせるとかの手も考えた。だって、写真を使って洗脳するコラ能力は……獅童君と写ってる写真がない相手には使えない。つまり、修学旅行が終われば相手はもう詰む。今の立場を捨てざるを得ない。
でも、それじゃ遅いし……ヴィルフリート君を助けてあげられない。というか、きっとそれまでに決着をつけて目的を終わらせる気だ。
だから、今止めないといけない。
「ゾッとするもんね、好きでもない人と洗脳されて付き合わされてるの」
「ま、そりゃそうだ。自分を出させてくれないってのは、中々辛いもんだからな」
その言葉に賛同する白桃の青年。そして……
「んで、リーダー等の収穫は?
何もねぇなら、最後の切り札にお出まし願う訳だが」
「最後の切り札?あ、アイリス殿下」
「そ、俺様と似たような……いんや体が一つな俺様と逆なあっちなら、効かない意味ないで切り札になってくれんだろ?」
連絡なら取れるぜ?とひらひらと何かを見せてくれる青年に、確かにと返しつつ僕はその前に少しだけ整理しようってヴィルフリートから借りてきた写真達を並べた。
「これさ、リックが撮っていたものらしいんだ。全部顔がリック化してるけど……」
と、昨日の写真を見回す僕。全部本当は獅童君だって思うと本当にムカムカする。
特にアーニャ様に抱き締められてる奴とか、ノアさんに子供みたいにされてる図とか……
「そんな中で気が付いたことがあるんだけどさ。リリーナさんは何か思うところある?」
その言葉に、桃色の聖女様は自分の唇に軽く曲げた左手人差し指を当ててむーと唸る。
そして、小首を傾げた。
「ごめん、モッテモテってところだけかなー
私の婚約者な筈なんだけどねー」
たははという笑い声。
「っていっても、私も婚約者らしくないし、そーんな文句言ってられないんだけど」
「そう、そこなんだよね」
と、僕はその意見に同意する。
「ん?どうかしたかな私?」
「そう、一応だけどリリーナさんって婚約者で、嫌ってる訳じゃない。だけどさ、一緒に写ってるのは殆ど無いんだ」
その点、と僕は貰ってきた中でも不快な写真達を纏めて置くとぽんと手で叩いた。
「アーニャ様、アルヴィナさん、ノア先生なんかは……」
言いつつこれもかなと一緒に船上で皆を見守っている竪神さんとのツーショットをその上に置く。
「あと友人関係だけどこれもかな。こういった……コラージュの洗脳が強い相手って、ちゃんと本来の皇子との関係性がしっかり読み取れるような写真が撮られてるんだ」
「あー、だから」
「そう。多分だけど僕が今影響がないのは僕自身との関係を写した写真がないからで、リリーナさんが納得してくれるのは、婚約者でどうこうじゃなくて、ちょっとした知り合い程度の写真しか無かったから」
ふむふむという首肯が少女から返ってくる。
「つまり、昨日ずっとオーウェン君と居た私には、その本物の皇子様との関係が微妙な写真しかなくて、コラージュで関係を上書きしきれてない?」
「多分そうだと思う。そして、皆が偽物に簡単に納得してるのは……そもそもあまり強い興味を抱いていないから、適当な写真でも良かったって話なんじゃないかな?」
「そっか、じゃあ……」
うん、と僕は頷く。
「色んな写真を見て、縁がある筈なのに全然それっぽい写真がない相手を探せば、その人は仲間になってくれるかも。
少しでも仲間は欲しいからね」
言いつつ、僕は少しだけ肩を落とした。
「この推測が正しい場合、ほぼ間違いなく竪神さんは味方になってくれないっていうのが辛いところなんだけど」
「同じ方向を向く友達同士。ちゃんと写真に残っちゃってるからそうそう説得で歪みから納得は出来ないかぁ……」
「そもそも、狼一号が味方する気があるなら、ワンちゃん妹と喧嘩せず納得してると思うぜ?」
「うーん、それもそうだよね。やっぱりほぼ無理か。アイリス殿下と話をしたとして、ALBION対策を何とか見つけないといけないんだけど……」
と、僕はぽんと手を叩いた。
「あ、そうか。シロノワールさん!彼ならALBION由来の武装、グングニルがあるからあれで貫けばダメージ通せる!」
「それだ!」
ってところで、扉を開いて現れるのはヴィルフリート君。その顔は……
「どうしたのその怪我!」
鼻が腫れて血を流していた。
「リリ姉……あいつにやられた。
『聖女様と従弟で一方通行のお前ともう一人の聖女様に想われてる自分との差分かる?』って
説得出来ないか、何か分からないかって、少しでも役に立ちたかったのに……」
その言葉にリリーナさんが少し憤ったようにぐっと拳を握る。
「やっぱり見過ごせないよ!」
「うん、頑張らないと」
「ま、今回はリーダーに任せるぜ」
そう言いながらも、白桃色の青年は一人だけ少し離れてヴィルフリートを見詰めていた。
「……なぁ、何が言いたかったんだ、ワンちゃん?
俺様が警戒すべきは……ALBION?リックだろ?それとも……他の機体も来てる可能性でも言ってんのか?」




