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二部三章EX 龍神少女と見る喪心失痛の龍機人考(ネタバレ注意)

ティア/金星 始水と共に行うネタバレ考察回です。今回の章の裏話とか色々と出てきます。


違和感を感じたであろう言い回しや行動の理由とか色々と明かされるため、この先のゼノ無しで奮闘する桜理君達編を純粋に裏を知らずに楽しみたい場合は今話を読まないことをお勧めします。

流れる水に身を任せていると、不意に意識が浮上する。別に溺れた訳ではないが、世界が切り替わったかのような感覚。

 

 戻れない。戻るわけにはいかない。この先、リック相手におれは本当に必要になるまで何も出来ない。

 理由は簡単だ。これ以上クソコラされない為。現状だが……リックが写真を撮っていた間桜理はずっと前世の姿をしていたし、ロダ兄はアバターであるロダ兄しか表に出ていなかった。

 そう、おれとロダ兄、おれとオーウェン(早坂桜理)の関係こそコラージュ出来るかもしれないが、写真に写っていない本来のロダキーニャの人格とおれや、サクラ・オーリリアとおれの写真を彼は用意できていない。

 そしてついでに言えば、一度たりともリック達が居る間に姿を見せていないシロノワール(テネーブル)との写真もない。つまり、彼等彼女等については、コラ元の写真がなく能力を発揮できない。

 

 ロダ兄は食らってないか?と一瞬疑いたくはなるが、その実影響受けてない事は良く分かる。コラが効いていた場合、洗脳無効は良く知ってるだろなんて見ず知らずと思っているおれに言う事はない。

 だからあれ、実は効いてないんだよな。それで攻撃してきたってことは、後は俺に任せろという合図。ということで吹っ飛んで退場してきた訳だ。

 

 おれが姿を見せなければ、コラ元が用意できない。そして……影響受けてない奴等相手には別人にコラする訳にもいかない。当たり前だが、アナからはおれと思われ、アルヴィナからはテネーブルと思われ、シロノワールからアルヴィナと思われるリックとかコラージュ能力的に不可能ではないだろうがあまりに不自然。

 だから、その不自然さからあいつを何とかするために、お前可笑しいよという状況を残しておく必要がある。おれが出向いたらまたコラ素材を提供してしまう以上、もう任せた方が良いという訳だ。

 

 ……と、思考を整理した所で起き上がる。

 何時しか水は無くなっており、おれの前には真っ暗闇が広がっていた。

 

 そうして見えてくるのは青い光。大体理解できる、これは……

 「始水」

 歩み寄ってくる氷の翼を小さく拡げ、何処か警戒心を持った瞳でおれを見下ろしてくる和服っぽい服装(といっても下はミニスカート。可愛さと少女らしさ重視ですよと笑って初詣に着てきた事を覚えている)の龍少女。

 その姿を確認して、おれは小さくそう呟いた。

 

 っていうか、龍姫像に龍姫の加護が入ってる事は知ってたけど、それで影響受ける辺りあの能力ヤバいな。それを完全無効にしてそうなロダ兄も怖いが。

 

 「不快ですね。その名前を読んで良いのは兄さんと、後は他の七天くらい。貴方に呼ばれる筋合いはありません」

 と、降り注ぐのは冷たい言葉……なのだが、即座に少女はくすりと氷の表情を崩しておれに向けて手を差しのべた。

 「と、言いたいのですが、ひとつ聞かせて貰いましょう、此処に来れる見知らぬ旅人。

 貴方、最近まで私から『兄さん』と呼ばれては居ませんでしたか?」

 「呼んでたよ、ティア」

 「ああ、やっぱりそうですか。明らかに可笑しいと思っていたんですよ、兄さんと契約した筈なのに、見ず知らずの貴方と契約やリンクが繋がっていて兄さん自身とは何の縁もない。その事に突然気が付いてしまった訳ですが」

 少女姿からは異次元の万力で一切揺らがずおれを引っ張って立たせながら少女は淡々と語る。

 

 「突然語りかけられてつい切ってしまいましたが、考え直せば貴方の方が兄さんである筈。なら、謎の影響を受けているのは私」

 「《独つ眼が奪い撮るは永遠の刹那》」

 「……ああ、コラージュファインダーですか。理解しました」

 ぽつりと告げたおれの言葉に、納得するように始水は頷いた。その顔の向きに違和感を覚える

 

 「ん?始水、右耳を庇う癖は違わないか?」

 そう、何時ものティアは左耳が悪かった始水時代の癖で左耳を庇うし聞こえる右耳を前に出すしおれに自分の左を任せる。なのに今は逆だ

 「ええ、良く気が付きましたね。私らしくないでしょう?そんなの兄さんしか指摘しませんから、貴方が嘘つきなのかの判断に使いました」

 

 その言葉に苦笑する。まあ、疑うのも無理はないが、そんな細かい指摘を要求するのかと。いや、寧ろおれがティアにお前始水だろうと言った原因だから一番正しいのか?

 

 「まあ、大体契約が貴方側な時点で、向こうが勝手に兄さんを貼り付けてるだけだと思っていましたが、一応貴方が契約を奪う者だった場合、あそこで手を貸したらそのままあっち死んでましたからね、あの時は切ってすみません」 

 ぺこっと頭を下げてくる始水。その頭の角に付けられた飾りが小さく揺れた。

 

 「いや、それは良いんだ。寧ろあそこで倒さなくて良かったかもしれない」

 「おや、それは何故?」

 「いや、あの力なんだが……ALBIONを奪えたのが案外変な気がしてさ」

 「おや、そうですか?」

 興味深げに深海のような深い青の瞳がおれを見詰めた。

 うん、身長差から上目遣いで相変わらず可愛いと思う。慣れ親しんだ幼馴染じゃ無かったら直視できない。

 

 「ああ。パクられている事は当然理解してるだろう。持ち主が殺されていたとして、当然その事実も伝わってないと可笑しい。

 ならば、その状況でALBIONを彼は使った。前世の姿になれるとして、他人の前世になるのは流石に可笑しいからあの大男はリックの前世だろう。昨日の時点でとっくに奪われていた。

 じゃあ、奪われた機体で何かやらかしてる円卓外の人間なんて……見逃す筋合いがあるか?」

 ついでに言えば、使い手はリリーナ好きだとユーゴの証言があるが、リックはアニャと親しげにアナを呼んでいたしリリーナ嬢にくっつかれてもそこまで嬉しそうでは無かったから恐らくアナの方が好み。その点でも本来の所有者とは差異がある。

 

 本当に正規の海賊版使いから奪っていて、それで個人で好き勝手やってるだけというなら良いんだが……

 「リリーナ好きの所有者がユーゴと二度目に戦ったあの時まだALBIONを持っていたのは確か。あの後始水も見てる筈だ」

 「ええ、魔神王と戦ってましたね、あの機体。その際の損傷が治せていないようですが……」

 「そう、そこなんだよ始水。魔神王は傷付いたものの死んでいないのはアルヴィナが教えてくれた。ユーゴがアステールを……本当は棺に閉じ込めたく無かったろう彼女を埋葬して本気を出さなきゃいけない相手を取り逃がした。

 その状況で、他人にコラージュして扱いを変えられるだけの力しかないリックの前で半壊した機体を呼び出す状況って何だ?しかも戦力を奪われて、それを放置する理屈は?

 何より、あいつら乙女ゲーのキャラを好き勝手自分のものにしたいという意図で動いてるだろ?その点でもリックって(ライバル)の筈なんだよ。

 

 こんな好き勝手されてる現状を見逃すか、普通?」

 「ええ、確かに可笑しい話です。では、貴方」

 困ったように目をしばたかせ、少女は小さく胸に左拳を当てると咳払いした。

 

 「もう大丈夫ですね、兄さん。ええ、呼べるようになりました。コラされていると分かれば対処は出来ます。

 では、兄さんはどう思ったんですか?」

 「そして、何処か失望した眼と、必要もなくALBIONの制御装置を破壊させた行動。その全てから導きだしたおれの結論は……あれはリックからのSOS」

 一息置く。本当に正しいのか、今一度思考を巡らせて……だが、異論は出ない。

 

 「リックは円卓の一員だ。能力は彼自身の言ったとおりの《独つ眼が奪い撮る(コラージュ)は永遠の刹那(ファインダー)》。

 そして……おれがあの時始水の協力でデュランダルを呼べたら恐らく勝てていたように、圧倒的な力には弱い搦め手使いな彼は、恐らくユーゴ達AGX持ちからは明確に格下として扱われている」

 「でしょうね」

 優しくおれの言葉を少女は聞き続けて相槌を打つ。

 

 「だから、本命が味方面で潜り込む為のスケープゴートとして、他人のALBIONをパクらされ、これみよがしに使うことを強要されているんじゃないか?

 そうして倒され、ALBIONの脅威は去ったと錯覚させる為の生け贄、それがリックだ」

 静かに聞き続ける少女の翼がせわしなくほんのすこしずつ開閉される。迷っているのだろう。

 

 「それ、本当だと思いますか兄さん?」

 「ああ。リックの表情などから、おれはそう思った。つまり、本当の敵は、真のALBIONの持ち主で倒すべき相手は……彼に同行し、被害者面しながら監視を行える者。ヴィルフリート・アグノエルだ」

 そうしておれは周囲を見てから、幼馴染神様に笑いかけた。

 

 「その結論をまだヴィルに気付かれたくない。被害者でもあるリックは何とかしてやりたい気持ちもあるけど、少なくともあいつだって敵だし反省はしなきゃいけないのは変わり無い。

 だから始水、此処に居つついざというときには此処から出て介入出来るように」

 「あ、何時でも出られますよ兄さん?ちょっとあの剣呼べば即です。此処、遺跡の離れみたいなものですし、出入りする門もすぐ近くですから」


 いやそうだったのかよ。


 「さて、では暫くは見守りましょうか兄さん。ええ、あまりあの子を舐めないように。兄さんの心配ほどに大事件には発展しませんよ。

 あ、別に物理的に舐める分には構いませんが」

 「アナは飴じゃないだろ、というか何様なんだ始水」

 「あの子の神様ですが?」

 「……完全無欠の返しは止めてくれないか?」

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