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桃色聖女と浮気の証拠(side:リリーナ・アグノエル)

「あ、アーニャちゃん達だ」

 って、私が見れば広場の隅っこに、曇り空みたいに笑顔を翳らせて、それでも多くの人に囲まれた女の子の姿があった。

 

 あれ?あの子達って私と逆で午前遊んで午後に回る組じゃ無かったっけ?何で居るのかな?

 って思うんだけど、ちらちらと時折人気の無い裏路地の方を見ながらも、本物だーと子供達……だけじゃなく大の大人にも囲まれながらえへへ、と神様について説くその姿を見るとやっぱり頑張るなぁと思うしかない。

 私とか、あんな風に下心ありありの男に囲まれてたらもうそれだけで駄目。

 

 って思っていると、

 「リリ姉リリ姉!」

 ぱたぱたと駆け寄ってくるのはヴィルとリック。

 って、私さ、一応ヴィルフリートの事は従姉だしちゃんと知ってるんだけど、その交遊関係まではちゃんと把握してなかったんだよね。だからか、リック少年はほぼ初対面で何て返して良いのか分からない。

 ……あれ?でもそもそもこんな交遊関係だっけ?とか、色々と思うんだけど……

 

 「リリ姉!見てくれ、リックが凄いものを撮ったんだよ!」

 ニコニコと……ほの暗い笑顔で見せ付けてくれる其処に映っているのは、一人の少年と一人の少女の姿。

 って普通にアーニャちゃんとゼノ君だね。結構珍しく……っていうか原作でもほとんど見せたことがない目を泳がせ何かに怯えた顔のゼノ君をその嫉妬するくらい大きな(そして雪みたいに儚くふわふわ。一昨日お風呂で触ってみてびっくりした)胸元に抱き止めてる状況。

 

 うわ、羨ましいって男の人ならなるんじゃないかな?

 

 「あいつ、浮気野郎なんだよ!」

 写真のアーニャちゃんは慈愛と満足感にちょっとの寂しさの入り交じった、でも聖女って言葉が相応しい淡い笑みを浮かべていて欠片も嫌悪感が見えないし、ゼノ君も何時もの険しさが消えて年相応……っていうか原作からして怯え顔だけ妙に幼く見える立ち絵差分そのままにくしゃくしゃの幼い顔を晒している。

 うんまあ、何と言うか、何時ものアーニャちゃんだなぁ……って感想しか出なくない、これ?

 

 「あんな浮気者、リリ姉に相応しくない!あのゴミクズにリリ姉は勿体無い!」 

 キャン!とまるでチワワみたいに吠え猛るヴィル。

 

 いや、それは違うと思うけどなぁ?私よりアーニャちゃんの方がゼノ君に相応しいよねって言われたらもうそれは白旗あげてその通りですと全面降伏するしかないんだけど。

 関係性を良く知る帝国上部の人達からも、婚約者の私はあいつに付き合わされてお前も苦労するなみたいな目で見られるのに対して婚約者でもなんでもないアーニャちゃんなんてほぼゼノ君の嫁みたいな扱いされてる気がするんだよね。

 ちなみに、本人は絶対に認めたがらないと思うけど、あのノアさんも似たような感じ。

 

 ゼノ君に投げられる皇族ならこれくらいやってくれって仕事を私もちょっと見たんだけど、どう考えても魔法が無いと無理っていうものも当然のように混じっていて、どっちかが呆れながら助ける前提だよねあれって感じだったりした。

 

 「なあ、リリ姉!」

 「ヴィル、あんまり迷惑かけちゃ駄目だよ?」

 「リリ姉、これさえあればあの浮気ゴミクズ忌み子のふざけた婚約から救われるんだ、もっと喜んでくれ!」

 撫でて撫でて、と満面の笑みで寄ってくるヴィル。まるで犬みたいで尻尾がぶんぶん振られてるのを幻視しちゃうけど……

 

 「いや、この映像じゃ何にも意味無くない?」

 「いやいや、浮気の証拠だって」

 「寝取られだなんだ、私にもオーウェン君にもゼノ君にも失礼な言葉吐く人にはあんまり言われたくないというか、これ浮気扱いしたら私も巻き添えをくらうっていうか……」

 たはは、と苦笑する私。

 横ではオーウェン君が私に何時助けに入ろうかとその紫の瞳でアイコンタクトを取ってきている。

 

 うん、こういう時にちゃんと庇いに入ってくれるんだよね、嬉しい。

 いや、私自身従弟に絡まれてるのを助けられるって表現はどうかと思うんだけどさ、これそういうことだよね?

 

 でも、まだ良いよって私は……あれ?私別に桜理君とそんなにお話ししてないし、目線だけで意志とか伝わらないよ?

 「……それにさ、アーニャちゃんがゼノ君の事を大好きなのってほぼ周知の事実だし、ゼノ君何だか怯えてるしさ。これで浮気と言うなら幾らでも映像取れると思う。浮気の証拠って言うなら、ゼノ君側からキスしてる姿くらい要るって」

 

 って、私は無理無理とぱたぱたと手を振った。

 「っていうかさ、ヴィルってこんなんだっけ?」

 「オレはリリ姉の騎士(ナイト)なの!前言ったじゃん!」 

 私を背丈のそんな変わらない少年は壁際に追い詰めるように腕を伸ばしてドン!と背後の壁を……

 「あいたっ!」

 って桜理君!?

 壁と私の間に挟まった少年をたたく羽目になり、ちょっぴりしまったとヴィルの顔が歪んだ。

 

 「ごめん、でも、リリーナさんの騎士なら、主人の意志を尊重すべき……だと、思うよ?」

 しっかりとした意志の強い瞳が、私と似た色(まあピンク髪じゃなくて茶色だけど)の少年を強く見据える。勇気無さげで、でもちゃんと護ろうとしてくれる姿に、ドキンと心臓が跳ねた。

 

 同時、ちょっとだけ何で?という恐怖も感じて一歩後ずさる自分が嫌になって、歯を食い縛っ……たら変だし可愛くないからちくっと後ろで組んだ手の指先に爪を立てて痛みで前に出る。

 「そうだよ。私別にさ、浮気だーとか言ってゼノ君との婚約を破棄したいとなんて思ってないよ?」

 「でも、リリ姉!」

 「忌み子なんて、聖女様に相応しいわけがない。この写真だって、とても醜い」

 トントンとクリスタルを叩くのは、撮影者のリック。

 

 ……ん?あれ?写真ってこの世界でも言うんだっけ?

 うーん、ゼノ君がそこそこ信じてるっぽいし、そんなに疑う気はないんだけど……どうかな?ひょっとして、ゼノ君が裏でこっそり教えてくれてたあるびおん?って変な凄いロボットの使い手じゃなくても、別の円卓の可能性とかあるかも知れない。

 いや、私……は昔アレだったし、桜理君みたいに抗ってる側かも知れないけどね?隼人君とか、見せたらぜーったいに写真って言うだろうしそれだけで疑うのも……

 ヴィルとも仲良しな訳でしょ?私が変に怪しんでもなぁ……

 

 堂々巡りな思考は、ちょんと指を当たる感覚で途切れた。

 「あ、オーウェン君」

 「リリーナさん、怪我は大丈夫?」

 「え、リリ姉怪我してるのか!?ナイトのオレに」

 「いやいや、ちょっと私の付け爪が擦れちゃったってだけだから!だいじょぶだいじょぶ!」

 と、少しだけ時間が稼がれているうちに……

 

 「リック、ヴィルフリート。一応君達はおれ……というかリリーナ嬢の好意で本来学生の為の修学旅行に同行させて貰っている身だ。その分を弁えてくれないと、庇うおれの立場が酷くなる」

 とってもレアな憔悴した顔をそのままに、ゼノ君が私たちを庇うために戻ってきてくれる。その横にはアルヴィナってあの変な魔神の子が……って逃げた!即刻どっか行っちゃったよあの子!

 いや良いんだけどさ?

 

 そうして、二人は不満そうながら、ゼノ君に連れられて……っていうか、「リリーナ嬢を困らせるな」と抵抗全部潰されて引きずられていき、後には私と桜理君が残る。

 

 「あはは、結局ゼノ君に助けられたね」

 「ごめん、僕はやっぱりあんまり役に……」

 「良いって良いって。助けてくれようとして、嬉しかったよ?」

 きゅっと手を握る私に、照れたように少年ははにかんだ。

  

 少し怖いけど、それよりドキドキする。ゼノ君にも感じるけど、彼相手だとやっぱりアーニャちゃんとか居るからそこまで強くない何かが心の奥で跳ねる。

 

 これが恋なのかな?分からないけど……

 「ありがとね、オーウェン君」

 「僕、皇子の真似事をしただけだけど、助かったなら良かった」 

次回はゼノ君が発狂逃走してから今話でさらっと帰ってくるまでの話です。ノア姫とアルヴィナに甘やかされるだけの砂糖しか入っていないお話しです。


章として物語が進展するのはその次となりますので、今しばらく一話だけお付き合い下さい。章タイトルにある敵が出てきてしまってからはイチャイチャする余裕が欠片もないので、ハーレムものとしてヒロインズとの恋愛は今やるしかないのです。

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