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桃色聖女と男桜(side:リリーナ・アグノエル)

「えー!なんでなんでなんでー!」

 きゃっきゃと騒ぎ立てる私の従弟とその友達に、悪いなとゼノ君が頭を下げた。

 

 「オレ、貴族なんだけどー!何でリリ姉と離れてなきゃいけないんだよー!」

 「おれは一応皇族なんだがな?」

 「うっせぇ忌み子!」

 ……ヴィル、お姉ちゃん怒るよ?と言いたいのは山々なんだけど、私はとりあえず口をつぐむ。下手に刺激したら、折角ゼノ君が矢面に立ってくれてるのに無意味になっちゃうもんね。

 

 「今日はまず、午前中は此処トリトニスに残る様々な聖女伝説の遺産を巡る。そして、午後は湖での遊びだ」

 と、いうことなんだけど、ゼノ君頭抱えてたんだよね。本当はさ、動かそうと思えば動かせるむかーしの船とか、結構色んな見所があってーって話だった筈なのに、あの船は何処かに消えちゃったし、一部遺産も戦いの最中に壊れてたりで見所が大きく減ってしまったんだよね。

 だから、何だか釈然としないというか怒り気味ながらも、観光やかつての聖女伝説に憧れての聖地巡礼という面で訪れる人間の大幅減少の責任を感じてか、ゼノ君はあの趣味悪いのか趣味良いのかちょっと判別付かないアーニャちゃん像なんかを表だって批判はしてなかった。

 

 でもさ、私から言わせて貰うと今のアーニャちゃん像、スケベ心が透けて見えすぎて女の子的にはちょっとだよ?本物そっくりに見えて、実はわざと服の胸元がぱっつぱつっぽくなってておっぱいの形と大きさが強調されてるし、胸元の布も少なくなって谷間が深く見えるように造形しなおされてるし……

 こそっと覗いたんだけど、ちゃんとスカートの下にも(アーニャちゃんが見せてくれる筈もないし趣味違うから絶対に造形師の趣味で作ったろう)フリルでちょっと大胆なパンツの造形すらある。あれ、聖女様を讃える神聖な像というより、金属製の等身大アーニャちゃん萌えフィギュアなような……

 そこで幼馴染の聖女様が汚い性欲丸出しの萌えフィギュアにされてる事より、そんなもの優先して命を懸けた兵士達の扱いの雑さにキレかけてるのは……うん、アーニャちゃん的にはそっちの方が嬉しいのかな?私だったらあんな萌えフィギュア嫌なんだけどさ。

 

 ……って、その実主人公だから日本では私というかリリーナフィギュアなら出てたんだけどね?私も持ってた好きな攻略対象と並べてねなプライズ品のデフォルトマスコットや私は買ってないけど確かそこそこの出来で10000円くらいするスケールフィギュアもあったはず。

 そういえば、あのフィギュア……どうなったのかな?私の死後雑に扱われてたらちょっと悲しい。

 

 ちなみにゼノ君のフィギュアは結構多い。アーニャちゃんのは……確か一個だけあったかな?乙女ゲーだけどギャルゲー版もあったからか、珍しく女の子フィギュアもそこそこ出てたんだよね。

 

 そんなこんなのすったもんだを経て、朝御飯(この国の伝統的に、お米よりパン……っていうか、大きなピザみたいなものが大衆パーティ料理では一般的で、この朝食も主にそれ。色んな種類が焼かれてドン!って大皿に置かれてる感じ)を食べて桜理君と二人、最近良く組むねと笑いあいながら席を立つ。

 

 「寝取られてやんの忌み子」

 「寝てない相手を寝取られるかヴィルフリート

 あと、リリーナ嬢の恋愛は彼女の自由だが、大声で言うのは聖女の護衛を担当する『アイリス派』全体への批判だから止めてくれ。罵倒するならおれ個人にしろ」

 いや本来ゼノ君個人へも駄目だからね!?皇族名指しとか、日本人の感覚だともっとヤバイからね!?

 

 「……僕、言ってくる」

 って、横で戻ろうとするのは、昨日よりちょっと男らしいオーウェン君。

 やっぱり彼も、ゼノ君へのあの態度って気になるんだねって私はそれを見送……っちゃ駄目じゃん。

 

 「オーウェン君、行こう?」

 「でも」 

 「私がゼノ君にさ、楽しい修学旅行にしたいからごめん抑えてって頼んだんだ」 

 仕方ないよねとちょっとだけ泥を被る。

 

 ……これ、ゼノ君は何時もやってるんだよね……自分から泥を被って、全部自分でって。

 ってダメダメ、今は頼んでまでオーウェン君と居させて貰ったんだから!

 

 ぱん!と私は自分の頬を小さく叩いて気合いを入れ直す。

 良し!大丈夫、いける!

 

 「し……皇子がそう言うなら、今は……」 

 少しだけ複雑そうに、私とそこまで背丈変わらない少年は無理に飲み込もうかとするように頷いた。

 

 「ごめん、迷惑だったかな?」

 「ううん。そんなことは無いんだけど」

 「アーニャちゃんの方が良かった?」

 空気を変えたくて、茶化すように言う私。

 「ううん。アーニャ様よりは、リリーナさんの方が良い」

 「えー、アーニャちゃん私より出るとこ出てて背が低くて、男の理想って感じじゃない?嫌なの?」

 ま、私も同じくヒロインだから結構完璧な美少女なんだけどね。外見だけは。

 

 「息が詰まるっていうか、僕に皇子の代わりなんて出来ないから……」

 「あはは、言えてる」

 うん、そりゃそんな認識だよね。あの子完全にゼノ君ルート一直線、他の男の子とか目に入らないって感じだもん、ゼノ君無しで組んだら息も詰まるか。

 ……いや、ゼノ君の頑なさもだけどさ、良く隼人君もアーニャちゃんとイチャイチャしたいって思い続けられるよねあれ。

 あ、円卓の人は例外。あの人達は、前世の私を襲ったストーカーと同じような、相手を欠片も思いやる気がない変質者だもん、気にも止めないと思う。

 

 「……でも、どうしてまた僕と組むの?」

 不思議そうに紫の瞳が私を見下ろす

 その姿に、私は……

 

 あれ?

 「リリーナさん?」

 きょとんとされて、漸く私は自分が身を引いていた事実に気がついた。

 「あれ、何だろう。何時もは気にならないのに、オーウェン君が近付くと……」

 これ、何となく分かる。昔の私にあった、男の子を怖がって避ける本能だ。

 でも、何でだろう。今まで彼も平気だったのに。

 

 平気なのはゼノ君、頼勇様、隼人君、桜理君って感じで、私に欲を向けてこないって分かってる人ばかり。その中では不思議と理由がある訳じゃなくて、でも無事な彼を気になったりしてたんだけど……

 

 「あはは、ごめんね?

 何だか、ちょっと前にゼノ君とオーウェン君きりっとしてるよねー、誰かに告白する気なのかな?とか色々とお話ししたから、変に意識しちゃったみたい」

 頬を掻く私。

 

 「大丈夫?」

 その心配が心に染みて、

 「うん、大丈夫!行こうか!」

 わざと大声で、私は彼の手を引いた。

 

 あ、これ……

 背後で小さく聞こえるクスクス笑いと、ぽろっと溢れる陰口。

 私へ向けたものではなく、ゼノ君への侮蔑。忌み子の癖に聖女様を無理矢理婚約で縛ってもという、正直非は私側にしか無いのに変な軌道で飛び火した嘲り。

 

 ご、ごめんねゼノ君、わざとじゃないし気を付けてた気なんだけどつい……

 心の中で謝りながら、特に大声でバカにする従弟に対してわざと自虐的におどけて私を追わないようにしてくれている彼にもう一度頭を下げて、そそくさと私はオーウェン君と共に移動した。

オーリリ編です。少しの間だけお付き合いください。

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