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飛翔、或いは方針

「……っ!」 

 それは突然の事だった。響く耳鳴りに飛び起きたおれは、一緒に寝てほしい(まあ、一人用の部屋だからベッド自体広いとはいえ一つしかないんだが)オーウェンを置いて、窓から外を見る。

 

 変な耳鳴り……これは!

 「アウィル!」

 叫べば即座に相棒に近い狼が駆け付ける。その背に飛び乗るように窓を開けて即座に飛び降り……

 「あ、獅童君!」

 「桜理、おれを追うより竪神を起こして来てくれ!」

 「あ、うん!」

 そのまま、電磁でステルス発揮し出す白狼の背に掴まって……って呪いのせいでおれだけ隠れられてないか!

 

 「良い、近くまでおれより目立つアウィルが見付からないだけで十分だ!」

 そのおれの声に頷くような気配と共に、姿を隠した巨獣が地を蹴り駆け出した。

 

 そして、一瞬で街を走破して、湖の畔へと辿り着く。

 其処に立つのは、一人の大男。いや、そんな大きくないな、バカみたいな大きさのヒールで背丈が誤魔化されているだけだ。

 年の頃は……18、9だろうか。青年といった趣だ。黒髪黒目が何処か目立つ。

 

 この世界、黒髪黒目って珍しいんだよな。オーウェンみたいに黒髪なのは沢山居る……というか、遺伝より魔力染まりが多い関係で影属性に近い人なら黒髪になっても可笑しくないからどの地方でもそんなに珍しい特徴ではないんだが……黒髪黒目は珍しい。

 魔力染まりを起こせば黒くなるかもってだけで、染まらない場合の髪ってやはり西洋っぽい淡い色が基本だし、両方とも同じ色に染まるのはそれこそ聖女のように同じ属性が二重に表記される程に天の加護を受けた馬鹿げた能力を持つ者だけだ。

 だからこそ、黒髪黒目は……魔力染まりを起こさず素で日本人みたいな色をしているか、或いは影/影属性って原作に出てくるなかでは魔神王テネーブルしか持たない特異属性の場合だけの色。明らかに変なのだ。

 

 ちなみに、テネーブルは属性こそゲーム的に影/影/影だが、実際は違うらしい。あれはあくまでも七大天のルールに無理矢理押し込めた表記でしかなくて、晶魔の加護は一切無いのだとか。

 って今はどうでも良いな。重要なのは目の前の奴がそんな不思議な色をしているという事だ。

 

 日本人なら良くある色だ。おれは前世も若白髪だったし、始水は青っぽい色してたとはいえ、大半の人間は黒髪黒目だろう。だが、此処では目立つ筈なのだが……

 

 おれが影から見守る中、おれの存在に気が付かなかったのか青年は完全に龍のような鎧を身に纏う。巨大かつ重厚な脚に幾重にも重ねられたブースター、背に生えた剣を連ねたような刺々しい機械龍翼。全身は赤いラインの走った黒鉄に覆われ、その印象を一挙に塗り替える底冷えのする蒼く透き通った結晶が爪、肘、膝、肩、翼……全身から生えたひとがたの結晶龍。しなやかさがなく硬質にたなびいていない龍尾は半ば巻かれたままだが、そこにも節毎に結晶が生えている。

 が、やはりというか完全じゃない。まだ、始水が言っていた魔神王テネーブル……肉体を乗っ取った真性異言の方の彼と対峙したという際の破損が直っていないのだろう。尻尾は本来地に付く程長そうなのだが、半ばから切り落とされているし、左の翼にはヒビが入ったまま、右手籠手に至っては融解して握り拳を開けなくなっている等損傷が各所に見て取れる。

 そして……何より生えた結晶が刺々しくない。角が溶けて丸まったそれが、全体のシルエットを何処かユルく変えている。11シリーズは無理矢理精霊の力の結晶を確保してエネルギー転換してる機体だと聞いたが、おれの知らないところでやりあう際に使ったそのエネルギーが目減りしたままという事だ。

 

 そんな観察しているおれに気が付かないままに、龍人機は一直線に湖の彼方へと飛び去っていった。


 後にはキィン!という取り残された風切り音だけが残される

 

 異様な速度だ。マッハ幾つだというレベルで音を置き去りにしている。おれだって伝哮雪歌等で一瞬ならついていけなくもないが……手負いだとしても正面きってやりあうのは流石に無謀だろう。

 だが……

 

 「皇子」

 「待たせたなワンちゃん」

 ざっという音と共に駆け寄ってくる頼れる二人。

 「どうだった」

 訊ねてくる頼勇に、おれは小さく肩を竦めた。

 

 「やはり、ゲームで言う大規模イベント、修学旅行。一年目はまだまだ共通序盤、恋愛面でも魔神との戦いの面でもそう動きはないとはいえ……流石に見逃しては貰えなかったようだ」

 「飛び去っていったあれは……」

 「ああ、AGX-ANC11H2D、ALBIONだ」

 「皇子が言っていた大外れだな。だが、視界から消えるのが速すぎる」

 そこに突っ込まないのか。


 というか、そもそも始水の話で小型機体って言ってたし、第一円卓の三機目がALBIONじゃなければユーゴがアステールを柩に閉じ込めなくてもそれより強い機体で魔神王を撃退出来たろうしな。ヒントは寧ろ多すぎたくらいだ、当然知ってたか。

 「が、やりようはある」

 小さく暗く、獣のように前歯を晒しておれは嘲笑う。

 

 「あのブースターの形状と実際の軌道を見るに、直線は速くても、実際の機動性能は恐らくかなり悪い」

 「ATLUSより明確に速く見えたが、彼方程に小回りが効かない、という事か」

 「ああ、進行方向に向けて雷王砲を放てば恐らく止まることでしか避けられない感じの機体だろう」

 将棋で言えば香車みたいな奴だな。滅茶苦茶動けるように見えて突撃しか出来ない。

 「高速だが、与しやすいという形か……」

 言いつつ、青髪の青年は既に見えない龍人機の消えた空を見上げた。

 

 「んで、俺様はワンちゃんが拾ってきた二人を見てたんだがよ、流石に布団ひっぺがすのは気が引けんで確実じゃねぇが、二人で一個のベッドに文句言いつつ二人で潜り込むのは見たぜ?

 あと、リックだったか?あっちはちゃんと顔出してたから出ていってないのはほぼ間違いない」

 と、追加報告してくれるのはロダ兄。

 

 「そうか。おれとしてはタイミングが良すぎるし円卓はリックの可能性は高いんじゃないかと思っていたんだが……

 そもそも、奴は黒髪黒目の青年だった。おれ達より少し歳上だろうという背格好だし、明らかに年下な彼等じゃない」

 言いつつ、おれも空を見上げた。

 

 「んで、どうするんだワンちゃん?」

 「多少ヴィル達への警戒を解きつつ、待ち構えるさ」

 「構えてて良いのかよ?」

 「アトラスやアガートラームのように重力球に飛び込んでの転移が出来るならわざわざ飛び去らないだろうし、あの速度でバリアも貼らずに飛んでいく辺り、例え狙いがアナだろうが……」

 あ、とひとつの言葉を思い出す。

 

 「いや、ユーゴの発言を信じれば恐らくはリリーナ嬢を狙ってくるのだろうが、それでも強襲してそのまま離脱が出来るような機体じゃない」

 「おう、あの速度で女の子を運ぼうとしたらばっらばらになっちまうって事か」

 「ああ、だから偵察で終わらせず仕掛けるならば、おれ達を倒して堂々と拐っていくしかない。隙を突こうが、高速離脱できない。だから待ち構え、撃退する」

 おれは方針をそう締めた。

 

 「分かった、私はアイリス殿下と共に、いざという時にダイライオウで対抗できるように構える。LIO-HXの機動性で敵わないし待ちの姿勢ならば、いっそ最初から合体して待機も考えておく」

 「オッケー、俺様に出来ることなら任せな。見張りとか、得意だぜ?」

 にかっと笑う青年の頭には、良く見れば耳がない。ついでに左手も普通の手になっていて……

 「今も分身アバターがリック達を見てるが、ホントーに動かず寝てるっぽいしな」

 うん、ロダ兄も大概ぶっ壊れてんなスペック。

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