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早坂桜理と交渉ごと(side:早坂桜理)

「桜の髪は、そういうもの……」

 言いつつ僕は、ふと釣りつまんない!してるリリーナ様を見た。

 僕より濃い?けど同じようにピンク色をした髪の毛。ツーサイドアップが幼さと共に邪気の無さをアピールしてるみたいで結構似合っているんだけど、実は結構特別な色なんだね、あれ。

 

 「だからよ。だからこそあの男はほぼずっと髪の一房が桜色……いえ、彼に合わせて桃色と呼んであげましょうか。桃色の髪を持っていた。

 でもアナタは違った。当初は悪をもって善を説くという晶魔様の理念に沿ってはいなかったから、見守る加護の象徴としての桜色の前髪が発現しておらず、黒一色に誤魔化せていた」

 だけれど、とエルフの姫は優しく僕に説く。

 

 「今のアナタをワタシが信用してこんなに近付けるくらい、アナタの心は天に認められた。好きに振るえる悪の力、他世界からもたらされた巨神をもって……真面目に生きる善を説く。アナタは確かにそういう存在なのだという証明が、染められなくなったその桜の髪よ」

 何だか滅茶苦茶に誉められて、照れた僕はくるくると前髪を指に絡める。

 

 「うん、有り難う」

 そうお礼を言って、僕はぺこりと頭を下げた。


 そして、不意に気になる。

 「思ってたより、優しい」

 「……怒るわよ?でもまあ良いわ、基本的にエルフは相応に優しいものよ」

 「そうなんだ」

 「ええ、エルフというのは、女神様に見守られし幻獣。基本がそこらの人間とは違うものね」

 あれ?と首をかしげる。

 

 「だから横暴にとか、ならないの?」

 「ならないわよ。基本的にワタシ達の交渉は譲歩をもって通すものだもの」

 ……理解できない。

 

 「簡単なやり方よ」

 僕の隣で皇子も首をかしげているのを見てか、はぁと溜め息を吐きながら、けれども機嫌は良さげにポニーテールを揺らして金の少女は眼鏡(多分伊達)をすちゃっと装着した。

 「ワタシはエルフ。エルフとは当然、偉いものよね?」

 うんうんと僕は横の皇子と頷く。

 

 「そう、まずはその事実を喧伝するの」

 ……何て言うか、自信満々だねこれ……

 「そして、その後まずそんな偉いエルフであるワタシが相応に譲歩する。本来ならばあり得ないけれど、これくらいならばアナタ達の為になってあげても良いわよ?とまず言うの」

 「……え、そうなの?」

 「ええ、そうよ。そして、そこから『特別なエルフがこれだけ譲るのだから』と本題を切り出すの。基本的に等価交換がモットーだからこそ、自分達の価値を高めて交渉するのよ」

 でも、とエルフの姫はくいっと眼鏡のフレーム?を上げた。

 「……この交渉術は悪い手ではないのだけれど、一つ欠点があるわ。それが何か分かるかしら?」

 

 えーと、と悩む僕。

 結構理にかなってるの……かなぁ?僕は全然交渉とかしたことがなくて、やったのなんて……獅童君相手に「助けろよ」みたいに無理言った事くらい。だから何とも……

 

 「おれと出会った時は、どうして交渉しなかったんだ?」

 と、鋭い瞳で獅童君が問い掛ける。何時もより少しだけ、気が立ってる?ように。


 「ええ、そこよ。この交渉はね、エルフは人間より上という大前提のもと、その事実を強調することで成立しているの。

 だからこそ、あのタイミングでだけは交渉術が使えなかった。ワタシ達が如何に特別かを説けば説くほどに、それを助けるために出す手助けの価値も上げてしまうもの。自身の価値を上げて、それをまず与えることで相手に望むだけの対価を出させる普段の交渉は一切通用しないわ」

 「……でも、獅童君なら?」って言いたくなる。

 

 くすり、と13歳くらいに見える教師が笑った。

 「馬鹿ね。彼のそれは交渉とは言わないわ。自分が無理をすれば払えるものを、全て当然だと言わんばかりにタダ同然で叩き売る事はね、施し若しくは慈善事業と言うの。

 こんなの、交渉……特に外交の場ではただのカモよ。席に着かせた時点で他国からすれば勝利宣言を出来る国賊」

 あ、口に出てた。


 「……民の為に生きなくて何が皇族か、とは思うんだが……」

 何となくバツが悪そうに獅童君は頬をかく。それに助けられた僕としてはあんまり言いたくはないけど……

 

 「向いてない」

 「ええ、だから交渉事があるならば、大抵はワタシがやってあげているわ。そろそろ流石にまともに出来るようになって欲しかった所ではあるのだけれど」

 それだけ言うと、少女はもう良いわねと言いたげに船に備えられた椅子に腰掛けると、一冊の本を拡げた。タイトルは……

 あ、恋愛小説だ。結構ミーハーというか、エルフの人もそういうの読むんだね……

 

 そんなノア先生を、何処か鋭い剣呑な気配を消しきらずに見詰める血色の瞳の青年。ちょっぴり腰が引けながらも僕は彼の袖を引く。

 「皇、子?」

 「ああ、オーウェンか。どうした?」

 「皇子こそ、どうしたの?」

 基本的に、獅童君は何だかノア先生と仲良しに思えたんだけど、今だけそれっぽさが少ない。

 

 「……実はなオーウェン。おれ、ノア姫に耳を触られたことが無いんだ」

 「あれ、嫉妬?」

 僕だって、嬉しいような触られ方じゃなかったんだけど。

 その言葉に、曖昧に皇子は微笑んで……

 「そうかもな?」

 って、そうとは思えない言葉を返してくれた。

 

 「あ、そうだオーウェン。暇ならリリーナ嬢と二人でこいつでもやるか?」

 と、いつの間にか取り出されて振られたのは一つの小型の箱。

 「それは?」

 「良く兵士がサボってやってるカード式ボードゲームの……スカーレットゼノンコラボ版。貸そうか?」

 「そんなものあるんだ……」

 確かスカーレットゼノンって、あ、皇子か。読むだけで何となく彼モチーフなんだろうなぁって分かったあの話だ。

 って僕、ブームが一段落して貸本とかで読めるようになってからしか読めてないんだけどね。行きたかった……けど価格的にお母さんに絶対に無理させちゃうからダメだよね、一番のブームの時にやってたお芝居だなんて。

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