表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

394/688

夜話、或いはコイバナ(女性編、前編 side:リリーナ・アグノエル)

「えっへへー」

 可愛らしい寝間着(何でもゼノ君の妹が愛用しているものと同じ人の作らしい)に身を包んだ銀髪の女の子が、パーカーフードのネコミミをふりふりと小さく左右に揺らして、何かを暖めていた。ほどいても一部だけ伸ばしていてそこだけ長い髪が尻尾のようにご機嫌に揺れる。

 

 「アーニャちゃん、何やってるの?」

 そんな彼女に、私は気になって問いかけた。

 「あ、リリーナちゃん。これは皇子さまの為に作ってるんです」

 ニッコニコの眩しい笑顔で、魔法で水を暖めて何かのエキスを薬草から抽出してるからそれはぱっと見分かるんだけど……

 「もう寝る時間だよ?」

 周囲を見れば、教師として少し立場を明確にするのよと言って簡易的な椅子に腰掛けて……けれどうつらうつらしているエルフの人や、我関せずなアレットちゃん。帽子を被ったまま灯りを魔法で灯して何かを読んでる魔神の子等思い思いにもう寝る時間を過ごしている。

 

 「ゼノ君のためは分かるけど、今やる必要あるのかな?」

 「え、ありますよ?

 だってほら、皇子さま絶対に誰かが火の番で見守る必要があるって徹夜しますし。だから元気が出るように、教会秘伝の元気の出るお薬を持っていってあげるんです」

 きょとん、と小首を傾げて銀の聖女様はその言葉を返す。


 「あー、言いそう。ってか絶対それ言って、頼勇様に途中で交代させられるパターンだよ」

 うん、間違いない必要だった。

 

 えへへ、そうですねと少女は頷いて、更にすりおろした何かの粉末をカップに混ぜてくるくると木ヘラでかき混ぜている。

 カップ一個で水を湯気が立つほどに暖められる辺り、水魔法でかなり好き勝手やれてるよねアーニャちゃん……

 

 っていうか、可愛いよねーと私はそんな笑顔の女の子を眺めていた。うん、流石の乙女ゲーヒロイン。女の子の私から見ても可愛い。

 特に上機嫌でニコニコ誰かの為に(まあゼノ君のためが多いけど、困ってる人は助けたいってなるのは前にこの街に来た時に証明済み)動いてる時ってめっちゃ美少女、惚れる。

 

 あ、流石に私百合百合する気は無いよ?でも、聖女とかそういったキラキラした世界乙女ゲーのヒロインなんて、女の子からしても憧れるようなのじゃないと困るし……

 

 そう思うと、私ってこれ大丈夫なのかな、ってちょっと落ち込んでしまう。ゼノ君は色々肯定してくれるけど、あれ誰でも肯定するよね?ってなるからドキリとする言葉を掛けてはくれるんだけど、今一信じきれない。

 寧ろ悪く言えば誰も信じてなくて、良く言えば生きてるだけで誉めてくれるゼノ君に否定されるって、何をしたら良いのって話だしね。いやまあ、理由なく人を殺せば即座に怒らせる事は出来るけど、そもそも私平気で人を殺せたりしないし……

 

 と、悩んでいると不意にあのアルヴィナって子が跳ね起きた。

 「アルヴィナちゃん?」

 「あーにゃん、違う。今のボクは……アルヴィニャ」

 アーニャちゃんと色違いでお揃いの寝間着+胸元にケープを巻いて、黒髪の少女は大真面目に告げた。

 いや、何が違うのさそれ。

 

 「アルヴィニャちゃん、どうしたんですか?」

 「……今のボクは、誇りと礼儀を重んじる狼じゃない。皇子の犬でもない。気ままなネコ。

 だから、アルヴィニャ」

 ……うん、訳分からない。良く分かるねアーニャちゃん……

 

 そんな事を聞いて、当然のように自分の膝に黒髪少女を呼び寄せると、銀の聖女は後ろからその小さな体を抱き締める。

 「何か嫌なこと、あったんですか?」

 「ボク、魔法で皇子達を見てたんだけど」 

 我関せずしてたアレットちゃんの瞳が氷点下になった。

 

 うわ、堂々と盗聴宣言してるよこの子……

 「ボクが恋してないって、皇子が言ってた。酷い、怒る。

 ボクはただ、皇子が可愛いって言ってくれたから、このまま居たかっただけ。ちゃんとこの気持ちは恋。

 だから、ボクは明日まで、皇子相手にも噛み付くネコになる」

 案外怒ってなさそうだねそれ、って思いながら見ていると、アーニャちゃんは優しくふしゃーっと威嚇する女の子の髪を取り出した櫛で漉き始めた。

 

 「そうですよね。アルヴィニャちゃんは素敵な女の子なのに、皇子さまは結構酷いこと言いますよね。

 明日素敵に整えて、見返しちゃいましょう?」

 心地よさげに目を細めて、少女は銀の聖女の久司を受け入れていた。

 

 すると……

 「何その茶番劇」

 ぽつりと、アレットちゃんの声が響く。

 いつの間にか起き上がっていた茶髪をショートボブに切り揃えた少女が、冷ややかに二人を眺めていた。

 

 ゆ、勇気ある……

 思わずそう内心で思う。正直、あの子がゼノ君を良く思ってないのは知ってるけど……目の前に居るの、ゼノ君しか勝たんレベルに一途な聖女だよ?あと一応、ゼノ君が推し側に居る私もだけどさ。その二人を敵に回しかねないのに、良く言うよ……

 

 「アレットちゃん?」

 「茶番は止めて、寝させて」

 肩を竦める茶髪少女。心底呆れたような冷たさが私たちを見るけど……

 「いえ、アレットちゃん。実は少し聞きたいことがあったんです。ちょうど良いので教えてもらえませんか?」

 私は兎も角、ゼノ君原理主義の聖女様は諦めない。

 

 うん、ゼノ君は早急に責任とるように。ちょっと頭撫でられたくらいできっと満足するからさ。

 

 「……何」

 「ちょっと、好きな人のお話とか色々やりませんか?

 皇子さま向けのものも、あと暫くじっくりと蒸らさなきゃですし」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ