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誤算、或いはメイド

「……ふう」

 寮の一部屋。ぶっちゃけあまり使われていない其処で、おれは軽く息を吐いた。

 

 疲れた。精神的に、だが。いや、ボロクソ言われるのは何時もの事なんだが、なぁ……

 ぽふん、と軽い音を立てつつ、ソファーに沈みこむ。 


 ってか柔らかっ!?このソファーどんな材質だ柔らかすぎる。家にあるのもっと硬いぞ。

 なんて、予想以上に沈む体に驚愕し、床に転げ落ちる。

 「くすっ」

 「って、笑わないでくれ、アイリス」

 そのまま、おれはベッドの方を見て呟く。

 

 そう、ベッド。

 寮に入る奴はあまり居ない。と言ったが、まあそれはそれ。理由があれば入る者は居る。そして、これは一つ入るに足る理由であるだろう。


 今のアイリスの力では、原作のように皇城から毎日ゴーレムを動かして学校に通うなんて芸当を通しきれないのだ。短期間であれば問題なく操作できるということは一年前の事件で見せ付けてはいるが、あれ一時間も動かしてないからな。

 毎日朝から夕方前までってのは流石に負担が大きい。ということで、距離が近ければ操作出来るだろうという話となり、こうして寮の部屋を借りたという訳だ。

 因みに、この寮の部屋は当然だがおれの部屋ではなくアイリスの部屋。おれの居場所は特に無い。

 ってか当然だろ、通うのはおれじゃなくてアイリスだしな。

 

 「……じゃ、にぃちゃんは戻るよ」

 少しだけ休めたし、妹も元気?そう。

 代わりに新入生代表の挨拶を告げるって役目も終えたしな。もう、おれは居なくて良いだろう。

 そう判断し、おれにとっては場違いであるはずの其処を発つ為に、立ち上がり……

 くいっと、その礼服の袖を引かれた。

 

 「アイリス?」

 袖を引くのは妹しか居ない。当たり前なんだが、その事に少しだけ疑問を持ちつつ、振り返る。

 妹はあんまりおれと仲が良い……って事もない。おれがアイリス擁立のトップらしいと思うと何となく可笑しな感じだが、まあ、妹からすればなにかと絡んでくるウザいお兄ちゃん、って感じなんだろうか。何かと素っ気ない。

 だから、何時も出てってと言うように、今回もそうだと思っていたんだが……

 

 『にゃあ』

 「……にゃあ」

 「真似せんで良い」

 袖を引く(ゴーレム)に合わせ、にゃあと鳴く妹。

 いや、何やってるんだアイリス。可愛いけど似合わない。

 

 「どうかしたのか、アイリス」

 「かえ、る?」

 「ああ。もう大丈夫だろ。そのうちメイドの皆も来るだろうし」


 ……そういえば、とそこで思い出す。

 何時もアイリスの周囲に居るメイドの皆がまだ到着してないという事を。一応寮とはいえ基本貴族の子弟の為の場所、メイド他使用人の付き添いは認められている。ってか、おれも現状その枠だ。

 だが、それでも尚審査とかもろもろはあるわけで。だからか、未だに彼女等は姿を見せていない。


 おれ?いや、流石に部屋の主の腹違いの兄で皇族って身元はしっかりしてるからな。いかな忌み子でも、そういうものはほぼ顔パスだ。有名って良いな。

 余談だが、おれの身分証明は要らない。魔力0なんてゴミ極まる数値は人間なら赤子ですら持ってないからな。具体的に言えば、覚醒の儀を受けてない場合魔力とMPが1固定。0ではない。0なのは人間でない者と忌み子だけだから、魔力を要求するあれこれがうんともすんとも言わなければおれだ。魔力0でなければ微弱ながら反応するからな。

 

 その関係で、この塔のエレベーターにおれ一人では乗れなかったりするんだが。階層決めるの物理ボタンじゃなくて、魔力を通す事でなんだよな。

 おかげで魔力0のおれじゃ押しても籠が来ないし来たとしても何処で降りるとか指定できない。じゃあどうやって帰るかって?

 飛び降りりゃ良いだろそんなもん。ってのは冗談……でもなくて、階段なんて無いからな、実際に飛び降りる。

 エレベーター部分って魔法で動くから普段は吹き抜けなので、下の階に飛び降りるを繰り返すだけで1階にたどり着くわけだ。

 

 「……?」

 こてん、と首を傾げる少女。その……一度おれに切られたがまた延ばしているそこそこ長くなった髪が揺れた。

 いや待てアイリス。なんでそこで疑問を持つ。

 「……どこ、に?」

 「部屋にだよ」

 こくり、と頷かれる。

 「まだ、はやい」

 「いや、皇城まで帰るとすると……」

 「?」

 更に首をこてん、と。

 いやいや、そんななんで?って顔されても困るんだが。

 

 「部屋、上」

 「上には寮しかないぞ」

 因みに此処は塔の上の方の階である。一部屋が1フロア。豪勢である。ってか、風呂とか普通に付いてるしな……。正直おれが暮らしてる場所より広くて豪華だ。

 「それ……が?」

 「いや、おれは終わったらもう此処に居ちゃいけな……」

 「付き添い、明日」

 当然とばかりに、そう言われる。

 

 「……は?

 ひょっとして、なんだが」

 聞いてなかった話なんだが、嫌な……とは言わないが変な予感がする。

 「なあアイリス。おれがお前の代理として頭に猫ゴーレム乗っけて話するの、今日だけじゃないのか?」

 どうもそんな口振りじゃないか、これ。

 「……うん」

 「……聞いてないんだ」

 「……言って、なかった」

 「そうか。決まったことなのか?」

 「お父さん、頷いた」

 あ、これ確定事項だ。親父が良しとした以上何一つ変わらない。皇帝の決定が変わるはずもない。

 

 「ってか待て、プリシラもじいも呼んできてないぞ」

 自分の世話係を思い出す。彼等だって、今日の朝おれが夜には帰ってくる前提で話をしていた。

 いやまあ、料理残しておくかどうか、位なんだが……。これでも一応皇子なんだが、それに残り物出すとかどうなんだ。おれは気にしないけどさ。

 「……問題、ない」

 「ないのか」

 「伝え、行ってる」

 それもそうか、と頷く。流石に、当たり前だろう。

 

 「……けほっ」

 「大丈夫か、アイリス。疲れたならしっかり寝てろよ。

 明日から、学校が始まるから、さ」

 そういうことなら仕方があるまい。顔パスとはいえ、魔力無いおれって一人じゃ門通れないしな。毎日皇城から通うって無理がある。


 聞いてなかったとかそもそもこんなの原作では無かった過去じゃないかとか色々と問題はある気がするが、まあ今更言っても無駄だ。

 ってか、桃色のリリーナ相手にするの疲れるんだよな……。貴方は凄い人だよ!とか言ってくるんだが、転生者丸出し過ぎて気疲れする。そんなのと、庭園会で暫く会わなくて良いとなると……こうしてアイリスに付き合わされて寮生活というのも悪くないかもしれない。

 「いや待て。アナ達はどうするんだ。

 というか、第一師匠との鍛練すっぽかすとか不味いぞ」

 と、問題に気がつく。

 「無、問題」

 「……いや、そんな話は」

 「ほんとう、です……」

 少し不満げに、頬も膨らませて幼い妹は語る。

 

 直ぐに、理由は分かった。

 「あ、あの!

 は、初めまして!えっと……えっと、お招きいただき、じゃなくって。

 この度はわたしに声をかけてくれて、本当にありがとう御座います!」

 ノックも忘れ鍵の掛かってない扉を開くや、テンパった声で語り出す少女。


 「……アナ!?」

 「お、皇子さま!?」

 そう。アナスタシア(メイド服)である。

 でも、おれがこれしかないからって初対面の時に渡したプリシラのとはデザインが大きく違うな。アイリスのメイド達のだ。

 「アナ、どうして此処に?」

 いや、何となく想像が付くんだが、聞いてみる。

 「えっと、今日の昼、猫ちゃん……じゃなくて、アイリスさまのゴーレムが来てね?

 わたしを、この学校に居る間の臨時メイドとして雇う、って」

 あ、アイリスが少し自慢げにしてる。

 おれへのサプライズのつもりだろうか。

 ってか、だ。昼って事は式の途中おれの頭の上のゴーレムとのリンク切って別の動かしてたなさては。いや、一応お前の入部式だぞ聞いてやれよつまらない話だけどさ。

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