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小島、或いは警戒

「えへへ、アルヴィナちゃんは、水が苦手なんですか?」

 完全に引きこもりの様相を呈している船室の済のアルヴィナに積極的に話し掛けに行く水着のアナ。それは嬉しいし有り難いんだが、これミスだったかもしれない。

 

 「おうワンちゃん、あっちの……」

 立ち尽くすおれに向けて話し掛けてくれるロダ兄。その声のトーンと声量も落ちる。アルヴィナとの決戦に来なかったアレット等にまで、アルヴィナの正体を明かさないように小声になる。

 

 「魔神娘等の為だろ?良いのか?」

 「良いも何も、本来だからこそのリリーナ嬢側の班の筈なんだが」

 「困ったもんってか。ま、俺様と玉遊びくらいは出来るってなら、少しは縁にも繋がるが」

 と、青年はにかっと笑ってその手のボールをぽん、と空へと放ってキャッチした。

 「頼めるか」

 ああ、わざわざボールとか持ってたの、無人島に着いた後でアルヴィナ達とも遊べるようにだったのか、とおれは納得する。

 本当に、乙女ゲー攻略対象って凄いなと感心するしかない。

 「応よ、任せな!」

 

 そう明るく返してくれた辺りで、船が大きく揺れた。

 「そろそろ到着する。皆衝撃に備えてくれ」

 響くのは頼勇の声。それに合わせてふわりとシロノワールが浮き上がり、オーウェンがちょっとごめんとおれの側に寄ってきて、エッケハルトが船室に向かった。

 

 そうして辿り着くのは小さな無人島。湖に浮かぶ浮島で、浜辺みたいなものが整理された言えば貸してくれる街所有の島、要はバカンス用に整備されてはいるが、普段は誰も居ないって感じ。


 それで大丈夫なのか国境付近とはなるが、一応向こうとも一触即発ではないしな。

 

 一応整備された証である小型の桟橋に船を停泊させると、おれは真っ先に……

 「よーし、前は結局魔神だなんだでぜんっぜん泳げなかったし、泳ぐぞーっ!」

 テンション上がったリリーナ嬢がおれの横をするりと抜けて真っ先に島に降り立った。

 

 「いや待て……」

 少しおれはそれを制そうとして、周囲を探る。

 小島だ。大きさは……端から端まで100mあるかどうかくらいのサイズ感。大きめの宿が浮いてるくらいの広さだな。木々は少なく起伏も少なく、定期的に掃除される無人の小屋はあれど他にそうそう隠れられる場所は無い。

 ついでに言えば、あの小屋は体を暖め足り洗う為の風呂場なんだよな。

 おれ達はキャンプで遊ぼうと小舟で来たが、普通この島借りてバカンスする人間は船上に泊まれる客室付きタイプの船で来る。だから島には船には流石に用意できない風呂場くらいを置いておけば十分という話。

 

 「えー、ゼノ君ってばお堅いなー」

 「彼等が逃げ去った以上、友好関係が本当に続いているか怪しいものだ。少しくらい警戒させてくれ」

 騎士団には頼勇と顔出ししたし、改めて殉職した彼等の遺族への見舞金等の調整も行った。その際に話は聞いたが国家としては向こうも友好関係を続ける気らしいのは確か。ただ、逃げ去った元街長等については行方知れずだ。

 

 何処へ行ったのか、何をしてくる気なのか。少し悩みながらも……とりあえず、今は何も此処に居ない事に安堵する。

 

 「皇子さま」

 心配そうにおれを見つめるのは、何時ものようにアナと……いやそこで横に立つなオーウェン、女の子に見えるぞ。

 

 「ロダ兄、向こうが故郷だろ、何か知らないか?」

 「いや、全く!自慢じゃないが俺様ただの庶民でな!」

 何ならルパンって姓自体勝手に名乗ってるだけで公式にはルパン家なんて無かった筈だ。勝手に言うにはまあ良いが公式な文書で使う姓って戸籍に近いからな。姓がある=信用と籍が誰かに保証されてる扱いなため、姓を偽称すると罪に問われるってレベル。

 なんで姓自体、体制側つまり貴族や、貴族から保証された一部市民にしかない。実際、元メイドのプリシラは今プリシラ・ランディアなんだがその父のオーリンさんはオーリンさんでしか無かった訳だし。

 「いや、それはそうなんだが、少し前まであの国に居たんだろ?」

 

 その言葉には素直に頷くロダ兄。ロレーラに連れてこられたって感じだったしな、あの時。


 「だが残念、俺様とは良縁であっても貴縁ではないという訳よ。そこはワンちゃんの役目って事。故郷近所の遺跡案内くらいなら出来るぜ?」

 けらけらと軽く笑う彼の額にも、オーウェンと同じ桜色……ってかこっちは桃色と表現すべきだろう髪一房が揺れた。

 

 「いや、おれも貴い縁かと言われると違うんだが……

 何時か機会があれば、その遺跡の案内は受けたいな」

 何か得られるかもしれない。訳の分からない遺跡で始水に出会ったように。

 

 「おう、そん時は任せときな」

 「それでなんだが、ロダ兄」

 と、おれは青年の額から目線を逸らして、桟橋から小走りで離れていく少年を眺める。

 「オーウェンにもロダ兄と同じような桃色の髪が混じってるんだが、血縁とか有り得るのか?」

 「ん?あの子か」

 「魔力染まりにしても珍しい色だ」

 魔力の色に髪や瞳が染まるのは珍しいことではないが、それで桃色はまず出ない。リリーナ嬢のあれも、染まってない地毛の筈。

 「オーウェンが心の持ちようで出るって言ってる辺り、隠せてるから特別な意匠では無いのかもしれな」

 おっ、とと喋るおれの口元に肉球が添えられる。ロダ兄の左手の犬手だ。

 

 「何か勘違いしてないか?俺様のこいつ」

 と、天高くボールを蹴り上げて右手をフリーにした青年が己の桃色の髪を引っ張る。

 「染められないぜ?」

 「……は?」

 

 そういえば、原作ゲームではその辺りの深掘り無かったっけ。俺様に必要なのは今からの縁だからな!で過去振り返られてないから出自がただの気味悪がられた市民で終わってた。

 「いや待て。染められないのか?」

 「……いや、染められるんだがな?あの子と同じで、心の持ちようで勝手に染めたのが剥がれるんだぜこれが」

 

 ……おれは染まらない髪を知っている。オリハルコングラデーション、神に与えられた特別な髪。それと同じように、前髪に一房桜色が混じるという意匠が、隠せないし誤魔化せないとしたら。

 

 「……冗談めかして否定してたけど、実は本当は貴縁の可能性もあるぞそれ」

 「んー、そっか。俺様はどっちでも良いんだが……

 あとな、知っての通り、俺様化け物って迫害されてたんだが、その時は一人っ子だぜ?少なくとも妹とかは居ないな、遠い親戚になると知らないが」

 「そうか、有り難う」

 深掘りしたい気はあるが、今聞くことではない。そう思って落ちてきたボールをキャッチする。

 

 「さて、じゃあ……やるか、ワンちゃん一号!」

 「良いぜ、何をするんだ?」

 そのおれの言葉に、楽しげに青年は返した。

 「ストライクさ!」

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