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入学、或いは付き添い

「……ゼノ!?何でこんな所に居るんだよ!?」

 「エッケハルトか。何でなんだろうな……

 まさかおれも、来ることになるとは思わなかったんだが……」

 原作ではこんなん無かったよな、と思いながら、おれはぼんやりと眼前に聳え立つ白亜の塔を見上げ、呟いた。


 あれから、更に一年とちょっと。アイリスは6歳、おれは7歳になっていた。

 そういや、正確にはアナ達はどうなのか聞いてないな。たぶん同い年ではあるけど。


 ってか、一年が365よりも多いからか(といっても384日だっけか)、それとも魔法だなんだで一人立ちが早いからなのか、この世界の子供が大人びるのはちょっと早い。ニホンでは7歳と言えばまだまだバカな小学校低学年って感じだが、それよりは思慮深い……とも限らないな、うん。

 アナは割とそこら辺気にしてくれるんだけど。というか、あの子が孤児で頑張らないといけないからか滅茶苦茶大人びてるだけだ。

 

 そうして、おれが何でこんなところに居るかというと、白亜の塔、つまりは国立学園初等部に入学しにきた……訳では無い。第一、入学するには一年遅い。6歳で入るものだしな。


 初等部は、本当に選ばれた者だけの場所だ。覚醒の儀において一定以上の非常に高い数値を出した者のみが招かれる、それが国立初等部。

 ゲームの舞台となるのは15歳からの高等部であり、そこは割と入りたければ入れる感じで、但し特待生以外はかなりの金を取られるので基本は貴族の園。

 しかし、初等部は違う。完全招待制。どんな家柄でも、そもそもスペックが一定基準を越えなければ入ることすら不可能だ。

 そして当然、忌み子なおれにそんな基準を突破できる筈はなく。だからおれは初等部には居てはいけない存在。

 そりゃ当然、選ばれたものであるエッケハルトは首を捻るわけだ。

 

 「……ほんと、何でだろうなー」

 その原因である猫を頭に乗せて、おれはぼやく。

 「というかさ、第六皇子も居ないんだけど何で?」

 横に並びつつ、一年越しに会った同じ転生者な友人が聞いてきた。


 「ああ、あの兄さんか。

 基準落ちた。ってか、半分以上が落ちるぞ皇族」

 知らなかったのか?と言ってみる。

 いや、普通基準は皇族なら越えるって思っても仕方ないか。

 「ウッソ、ひょっとして此処に居るの皇族の半分より上……」

 ちらっとおれの頭を見て、一言。

 「な、訳ないよなー」

 「無いぞ。勝ってるとしておれだけだ。

 此処は将来を担う筈の優秀な子供のための場所。元々チートだって分かりきってる皇族ってさ、特に皇帝に近いだろう子と将来を担う子供が縁を結びやすいように、基準がクッソ厳しい。皇族基準で尚合格した普通の人間が居たら、ぶっちゃけそいつは神童、超天才だ」


 ゲーム内でも居なかったくらいのヤバい奴である。その凄さは推して知るべし。

 因にだが、初等部行かなかったからといって皇帝になれないわけではない。ってか、親父がそもそも行ってないからな。あの人が何よりの証拠だ。

 

 「それでさ。ゼノは……」

 『なーご』

 頭上、満足そうに頭の上で丸まる猫……正確にはゴーレムに苦笑しながら、おれは友人に笑う。

 「妹はそりゃ基準越えたからな。

 妹の付き添いだ」

 因みに、正門は魔力によって開くように出来ていたのだが、当然おれが触れてもエラー吐くだけであり、門番の人に言って開けてもらった。

 何だこいつって顔をされたけれども、付き添いなので許して欲しい。

 

 「にしても、アナちゃんは無理だったかー」

 ぽつり、とエッケハルトの奴が呟く。


 まあ、仕方がないかもしれない。この初等部、別に出れない……なんて事はないし、家にだって何時でも帰れる。寮はあるが、普通に門の外には貴族の邸宅が並ぶ上級区があるんだよな。

 なので、正直平民出ながら初等部に招かれた余程の天才かがっこうぐらし!と洒落たい子供しか寮生活はしない。


 だから、会えないって事はないんだが……どうしても、初等部の授業ってあるからな。他にも家でのアレコレとかあるし、会える時間は少なくなる。


 逆に、クラスは学年1つ、生徒は学年に20人居れば多い方って少数精鋭だから、その皆の結束は強い、らしい。なので、気になる相手と初等部で一緒になったなんて起きれば、急接近のチャンスである。実際、初等部で相手を見初めて婚約に至るのって割とあるらしい。


 らしい、ばっかりだが仕方ない。基本縁無いからな、おれとは。住む世界が違った筈の場所だ。

 「バカ言うなよ。平民だろ」

 「いやー辛いわ、才能が」

 「弄くった癖に?」

 と、止めようか。

 

 「リリーナは、来なかったか」

 話を変える。

 あまり話をしてなかったからな、ここ一年。初等部で話せなかったとも言う。

 「ああ。来なかった。

 ってかゼノ、お前来ると思ってたのか」

 「いやだって、あいつ転生者だろ」

 有りがちだろう、原作とは違うどうこうが、とおれは続ける。


 いや、まあ、あの転生者丸出しのアホムーヴをかました桃色リリーナがこんな実力主義の初等部に入れるなんて思ってなかったんだが、それでも、あるだろう?謎のチートを神から貰ったから頭はバカ丸出しながらアホみたいに強いっていう話とか。

 もしかしたら、この初等部に来る攻略相手とフラグ立てたいとかで何か潜り込んでたりするんじゃなかろうか、とか思ったんだが、普通に落ちてた。


 因に、ヤバいとは思いつつ、時折それとなく夜会で見てみたりと監視はしている。

 あんなんでも、聖女の可能性高いからな。当然、原作ゲームでは主人公である聖女が死ねばゲームオーバーだし、この世界では流石にそんな事は無いだろうが詰みかねないから見ておくべきってのがある。

 

 「マジでか。

 結局出会ってないからなんとも言えないんだが」

 「あいつはマジものだ。お前並に分かりやすい」

 「ちょっと待てバカ皇子」

 「何だよ、ミスター七色の才覚。

 固有スキル変わってる時点で偽物かチート持った転生者確定だろお前」

 なんて、不毛な争いは置いておいて。

 

 『にゃっ!』

 「悪い悪い。

 行こうか、アイリス」

 頭に爪を立てられて、おれは友人から離れる。


 因にこの猫ゴーレムだが、向こうに声は通るようになっている。なので、おれが転生者目線で話しているってのは聞かれてるんだが……

 実はおれ、別人だったって夢を見たことがあるんだ、と言ったら納得された。

 ってそれはどうなんだアイリス。言っちゃなんだが、普通にヤバい発言だぞあれ。というか、おれも転生者だと明かす明かさないの基準がかなり雑だな。

 おれは単なる第七皇子、転生者じゃない。そう思われている事が何処かでアドバンテージになる事を期待してる割に、隠しきれてない。

 アイリスは、ずっとお節介で時折邪魔な性格が変わってないと気にしなかったが……  


 そもそも、妹評がそれって結構アレじゃないか、おれ?あとゼノ自身も。

 

 「と、そろそろ入部式だ、行かないとな」

 「おう、頑張れよ」

 エッケハルトと別れて塔へと歩みを進める。

 当然だがおれはアイリスの付き添いである。その為、おれと同い年の彼は既に先輩側だ。入部式に出る必要はない。但し、初等部生代表だけは別だが……それはもう一個上の人だな。

 

 大丈夫、覚えている。そう、代表の言葉はまず兄のおれから代理で喋ることへ謝罪しつつ、猫ゴーレムには自分が喋る力か聞いたことを自分の耳に届ける力かまだ片方しか選べなくて、その場の空気を感じるために後者を選んだが故だと弁明することから初めて……



 「この初等部で過ごす三年間が、わたしたち、そして未来にとって大いに実りあるものである事を切に願います。

 新入生代表、第三皇女アイリス。というか、その代理、第七皇子ゼノ」

 ……こんなんで良かっただろうか。

 ぶっちゃけ妹にはこういった代表挨拶なんて縁がないからおれが昨日まで考えて、そしてアイリスからすきにしてと許可を貰った新入生の言葉を言い終えて、辺りを見回す。

 ……式に参列する者からの拍手は、まばらだ。いや、ほとんど無い。

 ってか、普通にヘコむなこれ。何が悪かったんだろう。


 で、拍手してくれている珍しい人は……

 その方向に注目し、そして、変なものを見た。相も変わらず似合わない帽子がトレードマークな、白に赤色の糸で刺繍の入った制服に黒が映える少女。

 アルヴィナじゃんあいつ。何で居るんだ。後で聞いてみよう。

 

 と、マイク……も拡声魔法の為おれには使えず、声を張り上げるしかなかったものの形式的に持っていた拡声魔法の道具を突然ひったくられた。

 「ご苦労!

 とまあ、お前何で居るの?ってのが先行され過ぎて拍手は無いが気にするな代理」

 ……親父である。暇なのか皇帝。

 

 「ということで、学長のシグルドだ」

 ……そういえばそうか、と軽く頷く。国立だけあって、初等部は皇帝が学長なのだ。変な偏向基準などが無いように、と。


 いや、昔あったらしい。基準をねじ曲げたりして、次の皇帝の側近になれるようにと自分の血の入った子供を思い切り送り込むとか。結果、一定数値の基準ラインを本当に満たしたかどうかというのは、そういった思惑が介入しえない皇帝が判断する事となったのである。

 因にだが、基準は割とフレキシブルに変わる。絶対値で幾つってやると、2人しか居ない学年とか出るからな、逆に低すぎると数百人出るので、そこは皇帝の裁量だ。

 

 「さて、新入生とその周囲の諸君。

 代理が忌むべき者だからといって、それで拍手を止めるのはどうだろうか。あくまでも彼は代理だ。

 と、小言を言う気はない。だが、礼儀は守れ。


 さて。わざわざ今年オレが出向いた理由だが……」

 一拍置いて、わざとらしく左手を上げる。


 そして、指を弾くや、塔二階の部屋に掛かっていた垂れ幕が燃え上がる。

 そして、その向こうに居たのは、多分此処で見ている皆と同い年の少女であった。


 まず目を引くのは、グラデーションカラーの髪。ツインテールに結いあげられたその髪は、ストロベリーブロンドとでも言うべきだろうか、赤っぽく鮮やかな金から毛先につれて色が薄くなるという結構特徴的な色合いをしていた。毛先はほぼ銀だ。それも、おれみたいな灰に近い汚い色ではなく、輝かんばかりの美しい色。

 アナも似た色だな、いや、グラデーションしてない分銀の綺麗さはアナが上。

 次に目を集めるのは勝ち気そうなエメラルドの瞳。吸い込まれるような綺麗さは、ってそんな感想アルヴィナでも持ったな。

 

 感嘆の息だけが流れ、講堂が静まり返る。

 当然だろう。グラデーションストロベリーブロンドの髪にエメラルドの瞳。割と魔力の影響か特殊な髪色が出やすいこの世界において、グラデーションというのはとても貴重だ。

 特に、先が白くなるのはたった一つの一族にのみ発現する特殊色。

 聖教国のトップ、いや実質的トップの地位を代々受け継ぐ一族。枢機卿(カーディナル)の一族の証である。その上(便宜上)である教皇一族だと、リアルに星が浮かんだ瞳をしてたりする。

 因みに家の皇族補正のようなもので、オリハルコングラデーションと呼ばれる先が銀になる髪色が子供に受け継がれるのはあくまでも枢機卿になった者の子のみだったりする。

 恐らく、片親の職業が枢機卿、という発現条件があるんだろう。皇族のチートスペックも、皇帝or皇太子の子限定だからな。

 後に皇帝になる者でも、皇帝か皇太子の地位を得てその職にクラスチェンジするまでに仕込んだ子には皇族補正がない。だからたまーに産まれるらしい、皇族扱いされない長子とかいう可哀想に過ぎるものが。

 忌み子とどっちが辛いだろう、あれ。自分だけ弟や妹と違って、スペック一般貴族だとか……吐きそう。

 

 閑話休題。とりあえず、見て分かる隣の国のお偉いさんの娘である。そりゃ突然お出しされたら空気も凍るだろう。

 アルヴィナだけは眠いのか小さく口を空けてあくびをしているが、あいつ勇気あるなとしか言いようがない。

 

 そして……

 おれは、彼女を知っている。正確には、そのストロベリーブロンドのオルハリコングラデーションというこの世界に一人だろう髪色のヒロインを知っている、というべきか。

 

 まあ、当然だ。そんな感じの奴、ゲームに居たらそりゃ攻略できる。

 アルヴィス編での攻略ヒロイン。2年になると聖女とは聖教国の私こそがそうなるに相応しいはず!とリリーナに対抗するように押し掛けてきて……という形で追加されるはずの相手だ。

 女主人公編でもツンデレやってくれたっけ?


 ……だから、違和感がある。アルヴィスと同学年、つまりおれと同い年のはずなんだ、彼女。それに、幼少にどうこうは起きなかったはず。彼女のシナリオにもそんな感じの言及は無かった……と思う。

 

 「ごきげんよう、皆さん。そして、猫の後ろの貴女。

 わたくしはヴィルジニー。見ての通り、聖教国の枢機卿の娘ですわ。この度、帝国とお父様との話し合いの結果、わたくしがこの国の初等部に留学、という形の和平が考えられましたの。

 元々は、皇子と婚約等も一手と思っていたようですが」

 エメラルドの瞳が、おれを見る。

 「出せるのが、忌み子では」

 小馬鹿にしたような、言葉。

 

 『にゃっ』

 「良い、アイリス。ふざけた話なのは、事実なんだ」

 むくりと起き上がろうとする猫のゴーレムを軽く右手で抑え、おれは首を振る。

 「……とりあえず、これから宜しくお願いしますわ」

 毒気を抜かれたのか、それともそもそも何も喧嘩売りに来たのではないのか。あっさりと、ブロンドの少女は一礼して引き下がっていった。

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