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説得、或いはパレード

「シエル様」

 しっかりと距離を取って、ふらっと王城の中に顔出しした少女の方を見る。

 ひょっとして偽者か?とは一瞬思ったが、最初に出会ったあの時は侵入者だったが今は違う、腕輪の聖女様だ。

 予言にあるのは天光の聖女の事。されど予言外で間違いなく存在する龍姫の腕輪を持つもう一人の聖女様。恐らくエルフの秘宝だからエルフに予言があったのだと教会からは言われ、エルフ代表として折衝してくれているノア姫当人は特にそれを否定していない。

 結果的に今のアナって滅茶苦茶に偉いのだ。王城だってフリーパス、何なら皇族に混じってパレードだって参加出来るレベル。

 

 「アナです」

 「あーにゃんはシエルなんて変な名前じゃない」

 アルヴィナからすら何か否定されてちょっと沈む。

 

 「いやアルヴィナ、彼女はアナスタシア・アルカンシエルって」

 「あーにゃんはあーにゃん。ボクの友達」

 取り付くしまも無いとはこの事だろうか。ばっさりと切られて話が続かない。

 

 「シエル様」

 「ごり押しですか皇子さま?」

 「対外的な話もある。シエル様で通させてくれ」

 ってか、まあこんなんなのはおれが悪いんだけどな。たまにうっかりアナって呼ぶからそれを責められる。

 

 「それよりあーにゃん、何で?」

 信じられないといったようにアルヴィナがアナを見る。恐ろしい魔神の筈が、その姿は飼い主に捨てられそうな幼い飼い犬のようにも見えた。

 

 耳は伏せられ、縮こまって見上げてくる友人に、優しく銀の聖女は左手でその頬に触れながら微笑む。

 「アルヴィナちゃん、わたしだって本当の事を言えば皇子さまとアルヴィナちゃんと班組んだ方が楽しいって思います」

 「おう、それを言及されると俺様困るんだが?」

 「えへへ、ごめんなさいロダキーニャお兄さん。でも、わたし自身のちょっとした楽しさより優先したいことがあるんです」

 「ボクには無い。あーにゃんが嫌なんじゃないなら」

 「アルヴィナちゃん」

 

 華奢な白い指がアルヴィナの頬を伝い、伏せられた白耳に触れる。

 「わたしと皇子さまは良いんです。アルヴィナちゃんが……怖いところもあっても、皇子さまの為に頑張ってくれるちょっと良い子なんだって分かってます」

 いやフォロー微妙だなアナ!本当は凄く優しいとかそういった……

 うん、アルヴィナじゃないなそれ。普通の女の子だし仲良く出来るとは思ったけど、別に聖人とかそんな感じの人格してないのは認めるしかない。

 何なら聖女だって原作リリーナは兎も角今のリリーナ嬢って割と普通の女の子だし良いんだが。

 

 「だからこそ、わたしはアルヴィナちゃんにリリーナちゃん達の班で頑張って欲しいんです」

 「なんで?」

 「アルヴィナちゃんって大事な友達が、わたしと皇子さま以外からはずっと疑われてるのって、友達としてやですから。

 本当のアルヴィナちゃんを他の人にも知って貰って、仲良くなって欲しいんです」

 「躓く石も縁の端くれ、共に歩めば紡がれる縁。広まる事こそ縁の輝きって事か。

 成程成程、分かりやすいな聖女様」

 うんうんと頷くロダ兄。

 

 「んで、結果的にそれで大好きなワンちゃん一号と離れるのは良いのか?」

 「あ、別に良いです」

 いや良かったのか。


 「そこで大事なのは皇子さまが楽しく幸せな事ですから。わたしのちょっとした喜びより優先です」

 ……重いんだが!?

 

 どうしてこうなったんだアナ。もっと幸せになれるだろう運命の人(攻略対象)が君を待ってるだろうに、何でこんなにおれだけ救われる救済措置クソルート方向が強いんだ。

 教えてくれアナ、始水は何も答えてくれない……

 「……んでワンちゃん一号。お前さんこれをキープして他の聖女様と婚約してて、犬っころ連れて、滅茶苦茶可愛いエルフに面倒見られてんの?」

 何かロダ兄が呆れた顔しておれの脇を小突いた。

 

 ってか、原作だとそこまで女の子の好みが出ないし、もう一人編のおれと同じようにリリーナ編救済枠なんで他キャラと割とくっ付けにくいロダ兄自身の好みってその実ノア姫とかそういうタイプなのか……。あそこだけ可愛いって形容詞が付く辺り多分そう。

 

 ……リリーナって原作からして結構ノア姫とキャラ違わないかそれ?

 

 「……一応」

 「それも縁だが、責任は考えな。

 俺様に後で言われても悪縁は絶つしか出来ないぜ?」

 「だから、何処で死ぬかも知れない忌み子なおれは、誰とも……」

 「そーいった責任の取られ方、俺様だと正直他人に負けて振られるより嫌だがねぇ。

 ま、そこはワンちゃん自身の考えの問題か」

 けらけらと笑い、青年はこれ以上深入りしないぜとばかりに距離を取った。

 

 と、アナ達の話もさくっと終わったようだ。

 「……あーにゃんがボクを想ってくれるなら、ボクも応える」

 あ、納得してくれたみたいだな。

 

 「皇子、仕方ないから、あの桃色聖女側で良い」

 「それにアルヴィナちゃん、別にずっと別行動って訳じゃないですし」

 「それもそうだな」

 班メンバーとしか行動が駄目とか、ゲームでも困るし。

 「だから許す」

 何とか納得したようにアルヴィナは頷いて……

 

 「それよりシエル様、何故此処に?」

 「あ、それなんですけど……皇子さま、わたしと一緒にパレードに参加してくれませんか?」

 と、きゅっとノア姫の包帯のお陰もあってまだ痺れはあるが生えてきたおれの左手を柔らかく握ってくるアナ。

 

 ん?いや待て。ゲームではそもそもそんなルート無いのに何でだ?と首をかしげる。

 

 ゲームではそもそも、新年のパレードには聖女様もということでヒロインも参加する事になるんだが、その際に直接共に参加する相手にゼノを選ぶ選択肢は出ない。そこは正規ゼノルート目指しててもそうだ。

 好感度が高い3キャラ(ゼノ以外)から一緒に参加する相手を一人選ぶんだが、好感度一位と選んだ相手の好感度差が大きすぎると相手が来れなくなるハプニングでゼノが仕方ないと代わりに参加するイベントが起きるんだよな。

 ゼノルート?正規で目指しても好感度があまりに上げやすすぎてこのイベントこなすまでもなくルート入れるからマジで只の地雷イベントだ。

 一部のゼノ推しお姉様以外、ゼノとパレード行く価値なんて0。参加義務の無いパレードイベントに参加してくれたからと報酬が出るんだが、ゼノが代理するイベント起きると報酬のランク落ちるんだよ。だから本気で起こす利点が無さすぎる。

 

 「いやそれは」

 「えへへ、駄目……ですか?」

 駄目に決まってる。だが、潤む瞳で見上げられて、おれは……

 

 「いや止めんか」

 轟く声に救われた。

 

 振り返れば、完全に呆れた顔の父皇。

 「え、皇帝陛下?」

 「常々思っていたがな、皇民にして聖女アナスタシア。貴様馬鹿息子ならぬ馬鹿義娘(むすめ)か?

 一応天光の聖女と婚約しているこの阿呆がそんなものに付き合わされたら嫉妬を集めて社会的に殺されるわ。いや、物理的に暗殺者送られかねん。気持ちは分かるが、自身の人気と忌み子への扱いを解して大人しく女性人気のあるあの馬鹿息子の拾い物と……

 いやそれも違うな。折角二人居るのだ。聖女同士で組んで参加せよ、良いな?」

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