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朝霧、或いは未来展望

「……案外さくっと終わったな」

 新年を迎えた夜明け前の露を含む湿気た空気を喉奥に吸い込みながら、おれはぽつりと呟いた。

 

 ああ、空気が旨いってこの事か……

 横でアルヴィナも唯の空気を吸って美味しそうに微笑んでいたりするし……

 

 「皇子。やっぱりボク、世界って結構好き」

 「ああ、だから護るさ、護らないと」

 時は人の月。龍の月や魔の月といった雨が多く寒冷化する時期を越え、溜まった肥沃さを生かして虹の月に蒔いた作物の種が発芽する時期だ。いや、魔法ありきなら一年中季節に関係なく色々作れるんだけど、一般的な話だとそんな時期。

 新年が春に近い気候っておれの知識からすると少し違和感あるが、この世界の季節は七大天の影響が強いからそんなものだ。

 

 「謹慎、終わり?」

 「ああ、もう反省したろって事なんだろうな」

 にしても、何で新年一発目におれを解放するんだあの皇帝は!?

 パレードか、新年にある皇族等のパレードを見ろってか。

 

 「ボク、反省なら皇子側に付く時にした」

 ふふん、と自慢げなアルヴィナの耳が……被った帽子で見えない。外に出て良いぞと父が告げに来た時にぬいぐるみを返して貰って、被せてた帽子(おれがあげたものではないが同じ材質)をそそくさと被っていた。

 

 「アルヴィナ」

 「耳、皇子以外に見せたら文句言われる」

 「そうだな。気にする人は居るだろう」

 「何処も駄目な奴は駄目。自衛」

 

 もう自身の死霊術を隠す気もないのだろう。ぶかぶかのマントにくくりつけられた骨の腕で地面に置かなくて良いように天狼ぬいぐるみを代わりに抱えさせて、アルヴィナは両手できゅっと帽子を更に深く被った。

 

 「アルヴィナ」

 「ボクはもう皇子のもの。この力も、今もボクに応えてくれる死霊達も全部皇子のために」

 「……良いのか?」

 死霊術はそこまで便利な万能魔法ではない。あくまでも死者の側の想いが重要とはアルヴィナ自身の談の筈だが。


 「そもそも、今ボクの元に居る魂達は、『皇子や聖女様方の為に』って人間が主」

 ……つまり、あの日おれとアナの盾になって死んでいった彼等みたいなのが大半か。

 全く情けない。まだおれは護るべきだったのに護れなかった者に護られているって事か。

 「有り難う、皆」

 だが、手を貸してくれるというならば有難いとおれは頭を下げて告げた。

 

 「……にしても、今解放されてどうしろと……」

 きょろきょろと見回すが周囲はちょっと活気が遠くに感じる程度の静寂。新年ということもあり眠らずの民はそこそこ居るが、王城の端にまでその活気は届いては来ない。


 「あのいけすかない狐を助ける?

 あーにゃんと一緒に」

 いつの間にかアナの呼び方があーにゃんになっている。うん、仲の良い事は良いことだが……

 

 「いや、まだアステールというかユーゴに手出しはしない。

 ってか、あーにゃんなのか」

 「ボク、アルヴィニャ」

 「何猫っぽく渾名使ってるんだアルヴィナ」

 「アルヴィニャとあーにゃん。あの妹なんかに猫の座も皇子もやらにゃい」

 ……いや何を張り合ってるんだよアルヴィナ、無駄じゃないのか。

 

 「……にゃあ」 

 「鳴かなくて良い」

 「ボク、あいつは狐娘並みに嫌いだから。

 あーにゃんはロレっちくらい好きだから良いけど、他の女と近づけないで」

 と、アルヴィナからちょっと厳しいお達しが来る。

 「ノア姫は?」

 「殺すほど好きになれないけど何処かで死んで欲しい」

 「物騒だな本当に!?」

 ノア姫、何だかんだ優しいと思うんだけどな。

 

 「皇子。あのエルフが優しいのは皇子にだけ。ボクには優しくない」

 何か説教されたんだが。


 「……兎に角、まだユーゴとやりあう訳にはいかない」

 「何で?」

 「あいつはアステールを棺に閉じ込めて、アガートラームで戦ってくる。

 ということは、棺の中のアステールの記憶を燃やして力に変えてくる」

 「あ、だから」

 納得して頷くアルヴィナに言葉を続ける。


 「そう、正直セレナーデの翼を組み込んだGJ(ジェネシック)X(クロス)は完成の目処が立っている。そのジェネシック・リバレイターと後はエッケハルトのジェネシック・ティアラーがあれば勝てない事はないと思う。GJT-LEXだけだと機動性で勝てないが、アレならワンチャンある。

 幾ら相手がアガートラームだとしても、勝ち目はある」

 「それは、だめ」

 「ああ、駄目だ。アステールの魂を燃やさせて何とか相手の機体を倒したとしてアステールは帰ってこない。

 だから、瞬殺出来なきゃいけないんだ、あの……おれの知る限り最強のAGXを」

 

 そう、そしてその為には……

 

 「ジェネシック・ルイナー。どうやって作れば良いのか、設計図が訳の分からない解読不能状態のあの機体を何とか完成させて、ジェネシック・ダイライオウで挑める状況になるまで。

 或いは、オーウェンが覚悟を決めてALBIONで一度で良いから戦ってくれると言ってくれるまで。おれ達はユーゴと正面から戦うわけにはいかないんだよ」

 「……面倒」 

 「ああ、面倒だな」

 特にジェネシック・ルイナー。モササウルスっぽい姿をした、海のジェネシッククロスに関しては、本気でどうなってるのか頼勇やオーウェンまで呼んで首を捻っても全く分からない。動力源とか一応日本語で書いてる筈なのに何言ってるのか解読不能だしな。

 

 いや、そんな事言ったらプテラノドン型のリバレイターのエンジンであるレヴ・システムに関してもナニイッテンノコイツしてたが、あれは最近漸く精霊を生きたまま突っ込んで動力にしろという修羅みたいなシステムだと理解出来たので、一応セレナーデの翼からエンジン作る目処は立ったんだよな。

 

 いや言わせてくれ何なんだよあの修羅みたいなシステム!?ヤバすぎるだろもっと穏便なシステムは……

 それじゃセレナーデ等に滅ぼされてたんだろうなぁ……うん。

 

 と思っていたら、不意に肩を叩かれた。

 

 「シロノワールか?」

 「いやさ残念、俺様さ」

 朝霧の中から顔を覗かせたのは白桃の髪の青年であった。

 

 「あ、ロダ兄」

 「久し振りだなワンちゃん一号とそのワンちゃん」

 「おおかみ!」

  がるる!とアルヴィナが吠えるのを、愉快そうに手で制する制服姿のロダ兄。

 

 相変わらずマイペースというか、自分のペースしか無いなこの攻略対象。

 とある種感心しながら……

 

 「いや制服着てるの早くないか!?」

 原作だともっと後では?

 「ん、早いか?」

 「おれの知ってるゲーム知識だと、ロダ兄が学園に来るのって新年の強制イベントが終わると直ぐに来る強制の長期イベントな修学旅行の後なんだ」

 修学旅行で出てくるからな。それが終わって暫くすると縁を辿って来たぜワンちゃん一号!とヒロインの前に転校して来て挨拶するんだよな。

 で、そっから攻略のために色々出来るようになる。ぶっちゃけた話リリーナ編でのおれ枠だからまともに攻略しなくてもルート入れるけど、救済措置じゃなく条件満たして正規に攻略しないと見れないイベントやCGはそこそこあるって感じ。

 

 つまり修学旅行前に出会ってたから一年目から参加するのかロダ兄……ん?ちょっと待て。

 「そう、だから俺様が来たのさワンちゃんズ」

 「あー、修学旅行の話?」

 「そう、新年の宴、縁拡がる時にお邪魔は良くないからな!」

 

 もうそんな時期か……

 って待て、ロクロク主人公勢の育成進んでないのにこんなイベントまで進んでて大丈夫かこの世界。

ということで、次から修学旅行です。ちょっと新キャラ(実は既出)のヴィルフリート君が出てきたりしますが、基本はほのぼの交流編となります。まともなボス戦はありません。

ユーゴ君とアステールは……王都決戦編まで待ってろお前等。

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