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決意、或いは狐娘の正体

存在の消えたアステールの居た場所を、血色の瞳で眺め続ける。

 

 「皇子さま……」

 何処か不安げなアナと、

 「皇子、ボクの言いたいこと、分かる?」

 得意気におれの背を擦るアルヴィナ。

 

 「ああ、辛かったよな、アルヴィナ」

 「ん」

 満足げに眼を細め、魔神少女はぴとりとまたおれの背に耳をつけた。

 

 「アルヴィナちゃんと皇子さまだけで納得しないでください。

 アステール様、どうしちゃったんですか?」

 辛そうに可愛らしい顔立ちを歪め、少女はおれに問い掛ける。

 「明らかに変です。そもそも、わたしにアステールって呼んであげて欲しいって言ったの、皇子さまですよね?なのにどうして、あんな発言になるんでしょう……」

 「仮説は一つだけある」

 あまり、嬉しくない仮説。正直当たって欲しくないが……

 

 「アルヴィナ、一つ教えてくれ」

 その仮説が正しいとすれば、恐らくは原因となり得る事象についてアルヴィナが知っている筈だ。だからおれはそう背でくつろぐ少女に言葉を投げる。

 「ティア……龍姫様の化身から、魔神王が世界の狭間にまで出張ってきた事があるって聞いた」

 『はい、私の持つカラドリウスに渡した物騒な触媒を取り返しに、馬鹿みたいな行動しに来てましたね』

 と、おれの記憶をフォローしてくれるのは神様。だが、彼女は最後まで見ていない。だから確信が持てない。

 

 「その際、魔神王は後でアルヴィナに何か言っていなかったか?」

 どう具体的に言えば良いのか分からず適当そうな言葉を探って口にする。

 だが、恐らく多分これで……

 

 「結構愚痴ってた」

 つまらなさそうな言葉が返ってくる。

 「具体的には?」

 「アガートラームが動けないなんて嘘だとか、大怪我しながらボクに文句付けてきた」

 ボク自身そんなの知らないと、不満を隠さずにおれの背に鼻を埋めて怒りを発散する少女。

 それは良い好きにしてくれ。

 

 だが、必要な発言は取れた。


 「……やはり、か」

 「必要な情報だった?」

 すんと鼻を鳴らし、アルヴィナが申し訳なさそうに背からおれに声をかける。

 「ボク、皇子が聞きたいって知らなくて」

 「いや、良い。どっちみちアステールに来て貰わなければ確証が持てなかったから今聞ければ大丈夫」

 そうして、おれは遠くを見るように眼を凝らした。届かないアステールの影を追うように、はぁ、と息を吐く。

 

 「皇子さま、仮説は」

 「ほぼ確実になった。彼女は恐らく……ユーゴに囚われて記憶を一部喪ったアステールだ」

 『記憶を、ですか?兄さんどういった理屈で』

 始水、本来AGXは大事な人を棺に閉じ込めて、自分との絆を燃やして力に変えるらしいが……ゼロオメガの影響があれば、他人との記憶を燃やして覇灰の力を捩じ伏せ制御する事って出来たりしないか?

 『何ですかその地獄そのものみたいな不正。馬鹿にしてるんですか……と言いたいところですが、彼等の黒幕がAGX乗りではなく覇灰の力そのものに干渉しているゼロオメガならば不可能な話ではないと思います』

 おれよりは詳しいだろう神様の裏付けも取れた。やはり……あのアステールは、おれとの絆を焔に変えてユーゴが魔神王と戦った結果、あの日の記憶を欠落させたアステール。本体が棺に閉ざされたが故に、ゴーレムか何かで仮初めの体を作っているから、誤魔化せない筈の眼が誤魔化せるようになっている。

 

 「地獄か」

 「皇子さま、アステール様は助けられないんですか?」

 銀髪の聖女の上目がおれを見つめる。

 「……助けられる……かは分からない」

 オーウェンに聞くしかないな。おれ達の中で今アステールが囚われているだろう状況に一番詳しいのはAGXが出てくるという続編(多分これもこの世界のように所謂世界枝の一つの歴史を別世界の住人が前世の記憶か何かからゲーム化した物)をプレイしていたオーウェンだ。

 

 いや、無理みたいな事言ってた覚えはあるが……そんなもの、他に何か無いか可能性を探って限界まで足掻いてから絶望すれば良いだけの話。ゲームじゃ此処マギティリス大陸も七大天も聖女も出てこないだろう。それがきっと解決の糸口になると信じる。


 「わたしに出来ること、あれば良いんですけど……」

 ぎゅっと胸元で手を組むアナ。

 

 その瞳は真剣で、強い光を湛えていた。


 「アナ」

 「あんなの、明らかに普通のアステール様じゃないですから」

 「ある意味、おれにとっては理想のアステールではあるけれど」

 「皇子さまの変な理想なんて知りません。酷い人だったってわたしに震えながら言ってきたユーゴって人に、何故か懐くアステール様はもっと知りません。

 あんなのアステール様じゃないですし、皇子さまは幸せになるべきなんです」

 「皇子、ボクはあの狐嫌いだけど、魂片耳は痛そうだから見たくない」

 強い声は背後からも聞こえた。

 

 アルヴィナがこうまで他人の為に何かを言うのは珍しい。大概あまり興味無さげにしてるイメージがあるが、本当に変わり始めているんだな。

 

 「ああ。そうだな。

 絶対にアステールを助けなきゃな」

 そんな二人に合わせるように、おれは小さく頷きを返した。

 

 「……はい、それじゃあちょっと冷えてしまいましたけど、改めてあーんですよ皇子さま」

 「忘れてくれなかったか!」

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