表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
366/688

顕現、想いを束ねし百獣王(side:竪神 頼勇)

やはりか、と無理に呼び出した愛機の中で私……竪神頼勇は燃え上がる焔を静かに見下ろした。

 

 そう、焔。幾度か見て、共に立ち向かったゼノ皇子の振るう伝説。本来は彼の父の神器たる帝国の象徴、不滅不敗の轟剣。

 敵として対峙するのは初だ。あの神器はゼノ皇子のものではなく、訓練だ何だで好きに振るうことは出来ないのだから。

 

 だからこそ、理解できる。皇子の言葉は恐らく真実だ。

 少なくとも、彼は心からそれを信じ、帝国の剣もその想いを認めている。彼等は、屍の皇女アルヴィナを信じている。

 

 だが、だ。

 もう違和感のない筈の左腕、機械の腕との接合部が疼く。感覚そのものは無い機械腕の内に本来の腕の痛みを幻視する。

 

 四天王エルクルル・ナラシンハ。そして、四天王アドラー・カラドリウス。故郷を蹂躙した『砕崖』と私達をATLUSと戦わせ終わらせんとした『暴嵐』。彼等を送り込んだのは屍の皇女だ。

 誰が何と返そうと、友であるゼノ皇子がどれだけ力説したとしても、証拠そのものを見せ付けられても!

 私自身が、魔神王に連なり大きな被害をもたらした屍使いの魔神を!実はそこまで悪くないし味方なんですと言われて頭ではその可能性を理解できても魂が納得出来はしない!

 

 『お兄ちゃん、助ける』

 通信装置を通して響く殿下の声。ゼノ皇子を強く想う、兄には優しい姫の落ち着いた叫び。

 声音で分かる。冷静さを欠いている。アイリス殿下も、兄が魔神の味方をすることへの疑問を晴らせていないのだろう。

 

 戦況は確認してきた。その際、確かに私から見ても屍の皇女はゼノ皇子等を寧ろ庇うように行動していたと思う。恋人を殺され怒り心頭で乗り込んできた……という話で宣戦布告までしてきた割には、明らかに態度が可笑しかった。

 

 「竪神、おれは……」

 「私の敵は、世界を滅ぼす魔神だ」

 「今のおれの敵は、未来を閉ざそうとする相手だ」

 「それが私だと?」

 寂しげに目を伏せ隻眼の王子は赤金の刃を掲げる。

 「今は」

 

 「魔神族を打ち払った伝説の七天御物を携えて魔神を護る者、か。ある種の悪者になった気分だ」

 だが、止まるわけにはいかないと一人頷く。

 

 そうだとも。私がそうしなければ誰があの自己中の皇子を助けてやれるだろう。

 アイリス殿下も、銀の聖女アナスタシアも、エルフであるノア殿下も、転生者として特別扱いのアルトマン辺境伯ですら、その実彼から信頼されていない。だから彼は今も一人で、自己中ゆえに損な役回りすらも他人に回さずに背負い込んで一人で戦い続けようとしている。

 

 それは英雄的とすら言えるし、私自身似たようなものかもしれないとたまに自分を顧みる。欠点ではあるが、輝かしくもある。

 だが、だ。だからこそ彼は騙されやすい。いや、一度受け入れれば相手に騙されても良いと思っている。

 

 真に警戒すべきは、そうした相手だというのに。

 

 故郷を直接滅ぼしたのは確かにエルクルル・ナラシンハだ。だが、四天王たる彼がただ突然現れたのではない。その実、彼を召喚した者が居た。

 それは、顔を怪我したと包帯を巻いた異様にひょろ長いフードの女で、白い猫耳を揺らす亜人だった。いや、亜人に似た姿を持つ魔神か。

 彼女は憐れっぽく自分を襲った理不尽を語り、お人好しが多かった故郷は彼女を保護した。大変だったろうと街中に招き、休ませた。

 そしてその夜、アレはナラシンハを招来したのだ。そうして、この地の人々のように逃げる暇すらなく、多くの民がナラシンハを筆頭とした魔神の牙に命を落とした。

 

 そう、真に恐ろしいのはナラシンハよりも、そうした策士だ。ただ荒れ狂う暴虐よりも、一見して味方面や被害者面する獣心こそが厄介。

 そして私は……眼前の屍の皇女が、自身を危険に晒さず、部下をけしかけてから自分が庇うことで味方アピールに余念がない彼女が、そうした策士側であるように思えてならないのだ。

 

 ふわふわと揺れる耳が、奴に繋がる証拠に見えて仕方ない。

 

 今までの全てが演技で、実際は皇子等を騙して味方のフリをしているのではない、とはとても信じられない。

 皇子は信じるだろう、逆に簡単に信用してくれる。誰も信頼に値しないから、何を言っても納得する。そんな阿呆を、アイリス殿下が心配する兄を、私が何とか護らなければ!

 

 だからこそ、私は獅子の機神の中で、ゼノ皇子に心配げに寄り添う黒髪白耳の魔神を睨み付ける。

 

 「平行線か」

 「平行線だ。絶対におれは折れないし、竪神もそうだろう?」

 折れる筈がない。魔神を信用して良いとはとても思えない。

 

 『タテガミ』

 私を呼ぶ殿下の声。

 「アイリス殿下。体調の方は」

 私達の話を、皇子は待っている。本来時間制限があると言っていたし、実際少しずつ彼の体は待っているだけで端から燃えていく。それでも待つ彼は、やはり決して正気を喪っては居ないのだろう。

 

 『だい、じょうぶ……

 辛いのは、他の皆も、同じ……』

 そんな私達を、静かに見上げるのは私の知らない男、ロダ兄と呼ばれる見ず知らずの彼。

 

 「何もしないのか」

 「はっは!しないとも!

 喧嘩は絆の華、譲れぬ燃える心の(えん)、剥き出しの心をぶつけ合う(えん)、終わればそれも強き縁!俺様が口出しする事ではないともさ!」

 バン!と銃口から火花を放ち、私の知らない白桃の男は派手に見栄を切った。

 「故に!此度に出番は無し!俺様個人はワンちゃん一号を応援しているが、決着は当人達でつけなければ意味もあるまいよ!」

 はーっはっはっと高笑いして、青年はほれと銀髪の少女が戦いに巻き込まれないように前に立つ。

 

 「……ボクは?」

 「屍の皇女!ワンちゃん一号よりも当事者だろう?」

 「ぶー」

 むくれながらも皇子に寄り添う黒髪の魔神。何というか、そうした絆を見せられると悪に思えてならずやりにくいが……

 

 その絆が本物だと安易に信じては、足元を掬われる。あの日のように!

 少し学ぶだけでも解る。皇子の理想系が帝祖皇帝。より多くを救える可能性に懸け、皇子と共に騙されないとは限らない。

 

 ならば、芝居がかって違和感のある立ち回りをしてくる皇子に合わせて……本音を隠せない危機を、薄暗い本性をさらけ出して逃げるか皇子を盾にするしかない死を突きつける!

 味方だというのが本当だと言うならば、極限の中でも命を懸けて貫いてみせろ。それだけが価値ある証明だ。

 

 「アイリス殿下」

 『……お兄ちゃんの為なら』

 「タテガミさん!皇子さまを騙す悪い奴、やっちゃって下さい!」

 大切な人を恋でなく奪われようとする嫉妬からか、或いは自身が聖女の紛い物?として聖女伝説を読み込みおぞましさを知るからか。何時もよりかなり当たりの強い聖女の応援と、あれどうやって変身するんだあれ?とブンブンと片手斧アイムールを振って困惑する辺境伯。

 そんな二人を尻目に、左手の甲を目線に合わせて掲げ、叫ぶ!

 

 「ダイナミックフォーメーション!」

 機体が緑の燐光を放ち、光の導線が3つの力を呼び起こす。

 HXS、そして二つの増加パーツ。ジェネシックとは異なり本来の姿として完成しないパーツの寄せ集め。それらが紋章の元にバラけ、周囲に集まる。

 

 『世界を護る特命の元に!』

 『お兄ちゃんを護り、悪を()つ願いを束ね……』

 「超特命(エマージェンシー)合体(フュージョン)!」 

 静かな焔を湛えた彼は動かない。ただ傍らの魔神を抑えて合体を眺めるだけだ。

 合体妨害、出来ない事はない筈だ。彼の放つ切り札は纏うフィールドを突破して合体最中の機体の隙間を狙える火力がある事は重々承知。その火力に、ATLUSを貫く金焔に一度助けられたのだから。

 それでも待つのは、本気の私とやりあわなければ意味がないと、皇子自身が判断したからなのだろう。

 

 ならば、乗ってやるまでだ。屍の皇女、その正体、暴いてやろう!

 「タテガミさん!皇子さまは殺され……ちゃってない可能性もありますから!あんまり怪我させないで下さい」

 「……殿下からも、言われているさ!」

 だが!横の化け物は別だ。


 さぁ、本調子ではないが、殿下達と紡いだ願い束ねる百獣王、昏い野望を隠して勝てる力とは思うな。

 「野望諦め逃げ惑え、安易に勝てると思わば魂消(たまげ)よ」

 全てをさらけ出し祓われよ、おぞましき屍の魔神よ!

 「『『ダァィッ!ラァイッ!オォォォォォウッ!』』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ