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X、或いは魂の繋がり

「へぇ、でも」

 即座に余裕の笑みを浮かべて翼をはためかせて、言いかけたヘルの顔が驚愕に歪む。

 鮮烈な銀の輝きを纏う光が、翼を射抜いたのだ。

 

 ナイスだリリーナ嬢!あんまりまともに戦ってるのを見なかったが、それが此処での一撃を、確実に当てさせる!

 「……封杖レヴァンティンっ!忌まわしき……」

 

 三日月を重ね描く二条の魂の剣戟。三つのアバターが人の姿から更に各々の亜人のモチーフたる獣に近い形へと変貌しての爪、翼、そして拳の三方向同時攻撃がそれに更に波状として襲い掛かり……

 

 「斬!」

 持ち前の赤い銃から白いオーラの刃を迸らせた本体たる人アバターが追撃をかける。

 それに合わせ、おれも横凪ぎに魂の刃を振るい、空間に見える形で刻み込んだ三日月の軌跡を断ち切った。

 更には、山なりに放物線を描いてシロノワールの一撃が、青い肌の龍人を穿つ。

 

 「華と散れ!」

 三日月が砕け、奥義に耐えきれなかった刀身ごと粉々に砕けて舞い落ちる。それはあたかも桜の花吹雪の如く。

 が、そんな雪那月華閃の余韻など吹き飛ばし、三角形を描く三獣の同時攻撃跡から吹き上がる桃の意匠のオーラに閉ざされた龍人を、桃の拘束毎白き刃が一刀……というか一桃両断した。

 

 「ん、ぐっ!きゃはごぁっ!?」

 声にならない悲鳴。宿敵たる聖女の杖への怨嗟すら中断させられ、二つの奥義(+魔神王の軽い手助け)がその体を蹂躙する。

 

 「ルルガァッ!」

 流石に部下相手のそれを見逃せば怪しさが限界を越えるからか、屍狼がおれへと牙を剥く。しかし……

 『キュウ!ガゥ!』

 白獄龍が解き放たれたということは、それを止めていたアウィルも自由になったということ、降り注ぐ赤雷がその行く手を阻む。

 

 「ちょ!?」

 焦るのは助けられた側のロレーラ。といっても、出来ることは多くはない、懸命に目線を向けるのは銀の聖女とその横のエッケハルト。

 「わたしは、皇子さまを傷付けません!絶対に!」

 「俺は、もうアナちゃんを悲しませたくないんだよ!」

 が、魅了の波動は二人に纏わり付くや清浄なる青き光に消し飛ばされる。アナの置き回復魔法だ。ちょっとした回復でも何でも、あらゆる異常を払う龍姫の使徒たる極光の聖女の力が、精神をかき乱し幻惑する魔の力を完封する。

 

 そのまま、青き巨女は纏う衣をボロボロにされながら宙を舞い、一つの石造りの民家に突き刺さって止まった。

 

 うん。目に毒だ。ズタボロのスカートが捲れあがり、その下の下着……は尻尾が邪魔だからか身に付けていないからか素の下半身が露出している。

 そこに二本の尻尾が見えた。いや、一本は言葉にしたくない象みたいな奴なんだが……

 

 「……おねにーさんを、あまり舐めるなよ人間風情が」

 突き刺さったままくぐもった音だというのに、底冷えのする声が響き渡る。

 空が暗くなり、空気が震える。

 

 ……そういや天獄龍って一度HP0にしても復活してきたっけな!片割れの白獄龍でも本来の姿に近いドラゴン形態変身が……

 

 「ヘル」

 「……と言いたいけど、止めたわー」

 シロノワールの小さな一言で、その空気は一気に霧散する。何事も無かったかのようにひょいと尻尾で壁を押し出して頭をすぽっと抜いた彼女(かれ)は、けらけらと笑う。

 

 「何と!」

 「お姫ちん、後はしっかりねー」

 そのまま結晶化し、その体は粉々に砕けた。

 

 あいつあれでアルヴィナの作った影だったのか……いや何となくそんな気はしてたが。

 

 と、そこで漸く思い至る。

 竜魔神王。テネーブル第三形態とは、魂で結び付いた伴龍ヘルカディアと合体した形態だったという事実。つまりだ、その半分であるヘルとも当然魂で結ばれてる筈なのだ。

 そして、魂を操り死霊を従えるアルヴィナが違和感に気が付けてはいたように、彼女(かれ)もまた、此処に居るシロノワール=本来のテネーブルと理解していない筈がない。

 

 ということはだ。

 「シロノワール、お前最初から一言かければヘルを下がらせられたな?」

 お疲れ様と言いたげな雰囲気を纏わせて金髪魔神王の肩を叩き、耳元で小さく問い掛ける。

 「……それが?」

 「もっと早くにすれば、皆は死なずに済んだ」

 「私が知るか。アルヴィナの為、私の目的の為、聖女達と貴様の身柄だけは護ってやる。他の人間など、寧ろ死んでくれるなら好都合」

 そのまま、彼は烏に戻って翼を打ち振るわせおれの影に飛び込んで行く。

 

 「忘れるな、私は貴様等の死。馴れ合うものか」

 ……静かに拳を握り締める。

 

 ふざけるなと言いたいが、その通りだ。本来敵だと分かっていて、それでも共闘して貰っているに近いのは此方だ。向こうに誰も殺させないよう動くべきはおれだった。

 シロノワールに文句を言う事は流石に間違ってないが、責任は彼を動かす理由を早々に用意できなかったおれにある。

 

 「おう、大丈夫かワンちゃん一号!」

 と、そんなおれに声を掛けるのは犬耳のアバター。残りはというと、とっととロレーラの行動を監視し始めている……というか、恐らくは仕掛けるタイミングをおれに任せようとしている感じか?

 「自業自得、問題ないさ」

 「はーっはっはっ!自省も良いが、袖振り合うも多少の縁、笑いあえばそこは楽園!

 悩みなんて吹き飛ばしな!」

 「そうだな、悩んでても仕方ない!挽回するまでだ!」

 

 「オーケイ!じゃぁ改めて行こうか御供達!」

 「いや、ゼノ君!?気が付くと私の居る立ち位置乗っ取られてない!?」

 やりとりに目を見開くリリーナ嬢。

 

 そうだよな、ワンちゃん一号ってヒロインの事だものな……

 「おれにも良く分からん!」

 「うん、分かる!」

 「はっは!それでも縁だ!付いてこれれば問題ない!」

 その勢いに任せておれはロレーラとアルヴィナを睨み付ける。

 

 ……さて。

 「ロダ兄」

 「……終わらせるか?」

 「いや、違う。相手はトリニティと言って三人来てる筈」

 「ああ、あの犬ころ以外にまだ居ると!

 そういえば一人男が居たな!本性がぼーっと見てたから良く顔も知らんが!」

 「ああ、だから……」

 「ならば来る前にすっきりさせなければな!」

 

 叫ぶような宣言と共に、本体たるアバターが銃を構えた。

 その周囲を取り囲む三体のアバターが光となり、完全にオーラの獣といった趣となる。

 犬、猿、雉、三つの獣が、銃の周囲をふよふよと浮かびながらサークルを描いて回る。

 

 「ざこざこじゃないワンちゃんからの超必殺(プレゼント)、受け取りな!」

 「ぶー!」

 「……ロレっち、後は任せるべき」

 「そ、そっか!」

 何処か逃げるようにゲートらしきものを開き、幼い少女の姿が消える。それを、白桃色の青年は静かに見詰めて……

 

 「おっと、逃げたか」

 きっと撃てたろう。届くかは微妙だが……

 しかし、撃つことなく、青年はその背を見送った。

 

 何か思うところがあるのだろうか。性格というか、アバターの有り様からして可笑しい気がするんだが

 本性が止めたとかか?確信はないが。

 

 そうして残るは屍の狼と、取り巻きの無数の骸骨兵のみ。

 まともな戦力となるのはアルヴィナ単騎。となれば、カラドリウスが戻ってくるか?

 或いは、と気を引き締め直したその瞬間、上からふわりと長髪を靡かせ、一人の男が民家の屋根の上に降り立つ。

 

 「夜行、遅い」

 「姫様。己しか頼れず」

 それで良いのかトリニティ!?

 姫が賊に襲われてから助けたら姫に惚れられるかもしれないから賊が他の近衛を倒すまで待ったとほざく近衛騎士が居たら一発でクビだろ普通。

 顔は中々に彫りが深くて渋い男なのに中身が残念すぎる。

 

 「はっ!本当に頼れるかは……」

 「笑止」

 くつくつと笑みを浮かべる夜行なる魔神。

 その手には、一つの小鎚。青い結晶体の着いた合成な金色の……

 

 何だろうか、とてつもなく嫌な予感がする。

 同じような色合いのもの、見たことないか?10年前……

 

 「エッケハルト!」

 言いながら刀を全力投擲。予備の刀を一本無駄にすることになるが、おれの予想が正しければ……

 ガキン!という硬質な音と共に男の前に発生するのは、幾度となく見た青き結晶壁。

 

 そう、ユーゴそしてマディソンが使ってきた……精霊障壁!

 こいつ、円卓の(セイヴァー・オブ)救世主(ラウンズ)が持つだろう三機目のAGXの所有者か!

 

 だが、腕時計が……

 『違います兄さん!』

 脳裏に響く幼馴染の声。

 

 『あれはAGXではありません!寧ろ彼等が魂を燃やして立ち向かった敵……』

 「終末将来!人理結すべし!陰陽滅ぶべし!」

 シャン!と槌が降られ……

 

 同時、ヒロイックな機械神ではなく、何とも形容しがたい怪物が空から降り注ぐ。

 『仮称:X!此処とは異なる人類史の否定者、裁きの天使です!』

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