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窮地、或いは分担

『ルルゥ!』

 10mを越す巨体に撥ね飛ばされたものの、空中でくるりとローリング、おれもたまにやるように雷鳴を足場にして体勢を整え白狼が舗装された地面に着地する。

 

 「あ、え?」

 「アナ、リリーナ嬢!どうやらレベリングしてる暇はない!生き残ることだけを……」

 目線は正直逸らしたくない屍の軍勢とロダキーニャではなく、アウィルと聖女、そしてその先の騎士団側へ。

 

 「考えろ!」

 2m近い長身で、優雅に足を組んで凍りついた兵士の頭の上に腰掛ける魔神王トリニティの一角、白獄龍ヘル。

 既に氷像の彼の首にはヒビが入っている。折れるのも時間の問題だろう。

 

 この手に七天の息吹はない。あったとしても使えない。いや、そもそも……一々使っていたら即刻金が尽きてしまうから使ってやれない。

 もう助からない。凍ってしまった彼等は、このまま砕けて死ぬ。死体すら残るかどうか怪しい。

 

 っ!

 

 「デュランダルぅぅっ!」

 

 激情のままに叫ぶ!おれでも白獄龍の名は知っている。帝国建国話で、そもそも聖女リリアンヌ伝説で良く出てくる名。

 轟火の剣によって引き裂かれた天獄龍の片割れ!ならば、轟火の剣でもう一度、今度こそ何も出来ないまで引き裂いてやる!

 

 が、

 『駄目ですよ、兄さん』

 耳元で囁く幼馴染の声。叫ぶおれの音だけが空しく凍てつく大地に響き渡る。

 始水! 

 『だから駄目です。カラドリウス相手ですら時間ギリギリだったんですからね?

 間違いなく持ちません。先に兄さんの限界が来ます』

 

 なら、どうしろというんだよ!?

 正論で、おれの身を案じていて、それでも認めるわけにはいかない消極策に噛み付く。此処で民を護らなくて、何が皇族だ馬鹿馬鹿しい。

 

 気迫に押されたように、巨大狼がおれと少しの距離を取る。適度に敵を演じつつ何とか手助けしてくれる気なのだろう。使うと言っていた目の前に居るのに記憶が欠落して存在を認識できないあの力も使ってこないしな。

 

 「竪神ぃっ!」

 アイリス謹製のバッジに叫ぶ。

 『今向かっている!皇子、少しだけ持たせてくれ!』

 ……希望は見えたが、今それじゃあ困る!

 

 と、

 おれの視界を遮るように、黒い羽が舞い落ちる。シロノワールだ。

 「私の敵だ、あの龍に手出し無用」

 「あらあら?テネーブル様の真似っこかしら?」

 愉快そうに、軽い足取りで腰掛けていた人間の氷像からひらりと青肌の龍人は地面に飛び降りる。本来ならば着地の隙をとばかりに魔法で攻撃してほしいが、兵士達は突然の事に完全に恐怖に囚われており、逃げるようにスペースを空けてしまった。

 

 というか、兵士が半分くらいに減ってる。さては逃げたな?

 が、責めはしない。元々骸骨の死霊群の為に連れてきたものだ。ステータスがものを言うこの世界において、天獄龍の半身なんて、騎士団ひとつを一人で逃げ出す者含めて全滅出来るだろう四天王本体クラスの怪物だ。本体が出てきていたらまず間違いなく下級職の彼等では傷ひとつ付けられない。

 仮初めの体なら魔法防御は0だろうからダメージは通るし対抗は出来なくもないが、多少の傷を負わせる代わりに死ねとはおれはとても命令できない。一気にトリニティが来た時点で、清流騎士団兵士の役目は終わっていたのだ。

 

 「ってお前は逃げ……いや、逃げて良い!」

 同時、アナの手を引いて離脱を謀るエッケハルトや機虹騎士団のメンバーに突っ込みかけるが、奥歯を噛んで言葉を変える。

 今やるべきは、アルヴィナが何とかフォローしてくれることを期待しつつ頼勇を待つこと。アイリスがHXSに乗せ飛んでくれているし、恐らくは1/6刻程度(30~40分くらい)を凌げば良い。

 完全に調整出来たわけではないが、それでもダイライオウならばきっと閉塞した事態に風穴を空けられる。

 

 ならば、逃げてくれた方がアナ達を護るには寧ろ好都合!

 「臆病な『迸閃(ほうせん)』は逃げたか」

 自分のペットの筈の龍と対峙しながら、ぽつりと黒槍を構える魔神王が呟く。

 

 成程、ニーラが消えたのはシロノワールが姿を見せたからか。本来の最愛の相手が何処に居るのか分かって、けれども真性異言の方の魔神王に忠義を誓わされている呪いを受け、消極的に理由を用意して奴を裏切らない範囲で手助けしてくれたってところか。少しは希望が増えた。

 

 いや、ならそもそもアルヴィナの為にもっと簡単に負けられる作戦を……

 立てたけど無視してトリニティ送り込まれた、とアルヴィナが光でメッセージ送ってきた。うん、なら仕方ないがお陰で大変なんだがな!?

 

 しょげて地面向いている屍で出来た恐狼外装が何となくシュールだ。主成分が骨と腐肉だっていうのに。

 

 「シロノワール、行けるのか」

 「誰に言っている」

 魔神王だが?

 「そちらこそ、私と」

 『ルゥ!』

 「私も居るからねゼノ君!逃げてられないし、そのトリニティってまだ見えてないのも居るから、離れない方が良いと思うもん」

 と、杖を掲げるのはリリーナ嬢。

 

 「と、これならば抑えられるが貴様に残りを押し付ける形になる」

 と、金髪に染めた魔神の瞳がじっと逃げかけた赤毛の青年を見据える。

 

 「俺かよ!?」

 驚愕の顔を浮かべるエッケハルト。

 いや、頼りたいのは山々なんだすまんエッケハルト。

 

 「トリニティの中でも、ロレーラは直接戦闘は強くない」

 その辺りは姉のニュクスと同じという事か。いや、強くない(HP250防御70、難易度HARD時)のは相対的な話ではあるが……

 「いや、普通に俺よりは強いだろ!?しかも向こうにはロダのやつ居るし!」

 「それくらい何とかしてみせろ」

 ピシャリと告げて、黒烏は白狼と共に龍へと槍を突き付けた。

 

 「頼めるな、アウィル、シロノワール!」

 「俺は!?」

 「やれるならやれ!」

 言いつつ、白獄龍は完全にシロノワールに任せて気持ちを切り替える。本来は騎士団の人々を凍らせ殺した彼女(かれ)を何とかしたい気持ちだが、月花迅雷も不滅不敗の轟剣(デュランダル)も無ければおれが勝てる相手でもない。だから、円卓から奪った槍を持ち込んでワンチャンある彼に賭ける。

 

 それに……

 「屍の皇女まで任されんの俺!?」

 「ロダキーニャ含めておれが纏めて相手をする!お前はロレーラを何とか止めてみてくれ!」

 「いや洗脳関連お前の方が耐性高いだろ!?」

 ぐわっと袖を掴むような抗議。だがそれを振り払いおれは歩みを進めて敵と距離を詰める。

  

 「なら、お前ロダキーニャに勝てるか?」

 「え?いや初期から上級のトラジェティファントムだろ?」

 またまた冗談をとばかりの声。

 ちなみに、凄い名前だが義賊系職の汎用上級職の一つだ。『悲しみを奪うもの』の名前の通り速度と技を重視し裏方に向く義賊系職にしては直接戦闘に向くステータス方面をしている。が、ゲームでは正直な話義賊系で戦うなら暗殺型のアサシンとかの方が強かったっけか。

 閑話休題。

 

 「だからだ。好き勝手遊ばれるから逆に殺されなさそうな相手の方がまだ良い」

 「いや俺魅了される前提かよ!?」

 「扱いに不満があるならアナへの想いで耐え抜く姿を見せてみろ!」

 「鬼!悪魔!ゼノ!」

 「何とでも言え!」

 

 そうして、穏健で人間からかって遊んでくれるらしい少女の相手をエッケハルトに投げ、おれは一人で魅了されたという攻略対象と対峙する。

 アルヴィナ?じゃれてくるだけなので敵には数えなくて良い。なにもしないと怪しいから攻撃っぽいことはしてくるが……

 ぶるりと体を震わせて黒屍狼が撃ち出してくる骨を刀の腹で受け止める。

 

 やはりだ。ロクな火力がない。

 そもそも鍔迫り合いにすら向かないのが刀だ。まともな攻撃と打ち合ってたら直ぐにダメになるというのに全然そんな気配がない。

 

 なので、有り難くアルヴィナとはじゃれさせて貰うが……

 バキュンという音と共に放たれる銃弾。おれの横をすり抜けんとするそれを横凪ぎの抜刀術で切り落とす。手首を軽く捻って弾の勢いを殺すのも忘れない。

 

 問題は眼前の一人桃太郎だな。まさか殺すわけにはいかないし、スペック面はおれより下だが油断できるほど弱い筈もない。

 そして、魔神に魅了された彼は、おれを攻撃しつつ時折周囲のおれの味方を狙いに行く。そこが厄介だ。

 

 「助太刀をしようか」

 あ、飛び入りだから戦力を一人忘れてた。

 「いや、おれは良い。団長、エッケハルトのフォローや聖女様方の安全を重視してくれ!」

 とは言うものの、このまま頼勇が来るとロダキーニャが魔神の一味かと思われてLIO-HXで倒しに掛かりそうで困るしな。どうしたものか……

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