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銀髪聖女と乙女ゲーム(side:アナスタシア・アルカンシエル)

「そう言えばさ、アーニャちゃんはどうして此処に?」

 「えへへ、どうせ貴女が必要になるわよってノアさんに忠告され皇子さまのお父さんにもあの阿呆についていてやってくれって資金をちょっぴり貰って、追いかけてきたんです」

 何時もと違って長い髪を一つくくりのポニーテールにしているリリーナちゃんにわたしはお茶を用意しながら語ります。

 

 「うわ、親公認。

 ……何か気まずいよ、一応婚約者のはずなんだけど私の方がお邪魔虫感あるっていうか」

 「いえいえいえ、リリーナちゃんが皇子さまの事を助けてあげたいって思ってくれて本当に心強いんです大丈夫ですお邪魔どころか聖女さまみたいに見えます!」

 言いながら、まるで聖女って本物の聖女さまじゃ誉め言葉にならないですよねとわたしは困ったように笑った。

 両手は塞がってますし、頬を掻いたりは出来ないですけど。

 

 「えへへ、今日のお茶は教会の秘蔵のもので、お菓子は奇跡のお野菜?らしいですよ」

 聖女様の為ならって皆さんが下さったものを自慢げに言いつつ、わたしは淹れ終わったお茶のカップをソーサーごと机の向かいのリリーナちゃんに差し出しました。そうして自分も教会の一室の椅子に腰掛けます。

 本当は懺悔を神様と神官が聴くためのお部屋なんですけど、今はお茶に使わせて貰っています。

 

 「奇跡のお野菜……確か、あの泥棒さんも食べたがっていたものですよね?

 楽しみですけど、悪いことしてまでってどんな味なんでしょう?」

 ちょっと畏れ多いですと思いながらも、わたしはお茶菓子を真ん中に置きます。

 さっくりと植物の油で揚げたお芋にとってもしょっぱい湖のお魚さんをぐつぐつと身が崩れるまで煮込んで粉末にしたトリトニス名産の魚塩を振り掛けて完成。薄く衣をつけたルビーのようにマッシュポテトのフライはこんがりと揚がり、赤い断面と黄金色の衣が輝いています。ついでに赤身のお魚も小さく切って幾つか揚げてあります。

 

 美味しそうなんですけど、お茶と合うかはちょっと悩ましいです。

 

 「あ、皇子さまにもお裾分けしないと」

 と、タイミング良く入ってくるのは赤髪のエッケハルトさん。

 「アナちゃん、貰っていって良い?」

 「あ、みんなで分けてくださいね」

 「そりゃアナちゃんの料理は独り占めしたいし毎日食べたいけどさ、こういう時は流石にやらないって」

 って言いながら、彼は半分くらいを持っていきました。きっと外で警戒しながらこの先……恐ろしい化け物である屍の皇女から皆を護るために頭を捻っている皇子さまとシロノワールさんに分けに行くんです。

 

 そんな彼の背中を、複雑そうな眼でリリーナちゃんは見つめていました。

 「リリーナちゃん?」

 「いやー、露骨だねアピール」

 そんな言葉に首をかしげます。

 「あれ?自覚ない?毎日食べたいって告白の典型的な台詞なんだけど」

 「そうなんですか?」

 じゃあ、毎日ご飯作ってってアイリスちゃんの言葉、わたしへの告白……な訳はないですよね?

 

 「あー、この世界だと貴族社会もあるし、女の子が手料理ってそこまで一般的じゃないし……」

 街の人々の中には自分のお家に料理が出来るスペースも無い人も居ますし、火属性魔法が使える人が作ったものを買えば良いって家も多いです。

 「少なくともさ、私や隼人君……あエッケハルト君の元々生きてた世界ではその言葉は告白なんだよね」

 へー、とわたしは頷きます。

 

 「えっと、そして……おとめげーむ?でもあんなんなんですか?」

 困ったようにわたしは呟きます。

 悪い人じゃないんですけど……

 「いや全然?あんな露骨に君が欲しいしてこないよ」

 「……そっちの方が、いえなんでも無いです」

 ちょっと苦手で思わずそのゲームの彼の方がと言いかけますが、流石に嫌いじゃない彼を否定する気にまではなれなくて慌てて言葉を切ります。

 

 「うーん、私だったらドン引きするかなぁ……恋愛感情も性欲もオープンで怖いもん。鳥肌立っちゃうよ」

 「好いてくれるのは嬉しいんですけど……その気持ちには応えられませんし」

 「まぁ、ストイックだったり欲望露骨じゃないパターンだと勝てるはずもないからあっちで勝負するしかないのは分かるんだけど、原作とキャラ違いすぎるの未だに違和感拭えないっていうか止めて欲しいっていうか」

 「その辺り、わたしは分からないから教えて欲しいです」

 世間話を切り上げて、わたしは本題に切り込みました。

 

 「オッケー、あ美味しい」

 ホクホクしたお芋が確かに美味しいです。美味しすぎるほどに。でも、魔法で洗っても毒とか何にも無かったから美味しすぎるだけなんですよねきっと。

 

 「で、乙女ゲーの話だよね、オッケー」

 「まず、わたしがヒロイン?ってエッケハルトさん達が呼んでて、聖女だって言ってて……

 でも、聖女ってリリーナちゃんの事ですよね?わたしはエルフの皆さんから借りている腕輪の力使ってるだけですし」

 そんなわたしの疑問を受けて、リリーナちゃんは話してくれます。

 

 「乙女ゲーの基本は分かってるよね?」

 「あ、そこは何とか」

 「なら、ヒロインの意味も……ってこれは割と分かるよね。恋愛小説とか結構あるし」

 こくりと頷きます。

 

 「で、元々は私……リリーナ・アグノエルが主人公だったんだけど、完全版移植の際にアーニャちゃんが聖女の場合が追加された感じかな」

 「つまり、二人の聖女さまですか?」

 「ううん、リリーナの場合はアーニャちゃん居ないし、アーニャちゃんが選ばれる場合は私が居ないよ。設定の上ではどうなってるか知らないけど、恋愛ゲームとして同じくらいの立場の女の子二人も居て、しかもライバル関係じゃないなんて困るもん」

 

 その言葉に、わたしはぐっと掌を握り締めます。だって、単純に皇子さまの為に頑張れる聖女さまが増えてるってことですし。

 「じゃあ、いまは……」

 「アーニャちゃんが腕輪の力って言ってるけど、結構異例かな。ゲームじゃ有り得ない状況」

 ふにゃっとした笑い顔を桃色の聖女様は見せます。

 「っていうか、そもそも私がゼノ君と婚約してるのが有り得ない状況なんだけどね」

 「そうなんですか?」

 「うん、私の場合ゼノ君ってモブ……つまりさ重要じゃない人って扱いで全然関係できないんだよね」

 その言葉にわたしは首をこてんと倒しました。

 

 「え?でも……」

 「うーん、ここで言う私リリーナ・アグノエルって今の私と結構性格違うからね。

 今の私はゼノ君と関わらないーなんてやらないよ、推しだし」

 「推しですか?」

 「うんうん、攻略対象って分かんないか、ゲームの中で主役が恋愛出来る相手をそう呼ぶんだけどさ。

 その中でもお気に入りの事を推しって呼ぶんだ。ま、攻略出来ない相手が推しでも良いんだけど」

 ちょっと目線を遠くして少女は語ります。

 「例えば、エッケハルト君にとってのアーニャちゃん」

 「え?そんなに皇子さまの事好きだったんですか?」

 驚愕に眼を見開きます。

 

 リリーナちゃんはちょっとだけわたしも昔から見かけたことがありますけど、そこまで皇子さまが好きには見えませんでした。そんなに想いが強ければ、もっと昔から……

 「いや、そんなアーニャちゃんみたいに自分の命を懸けてってくらいの好きじゃなくても良いからね?」

 「あ、そうなんですね」

 「否定しないんだ……頭アーニャちゃんの語源は伊達じゃないなぁ」

 どこか納得した感じにしみじみと呟かれて、わたしはどう返して良いのか分からなくてとりあえず誤魔化すためにお茶を一口飲みます。

 

 ……えっと、アイリスちゃんの茶葉ってとても高級だったんですね……香りの華やかさがあっちと違います。美味しくないってほどじゃないんですけど、美味しすぎる奇跡のお野菜に合わせるにはちょっと物足りないです。

 

 「……えっと、タテガミさんは?」

 ふと、でもリリーナちゃんってあの方を様付けしてたようなと思って話題を変えます。

 「ん、推し?」

 「はい、あの人が推し?なのかなーって」

 「あ、最推しは頼勇様だよ?正確には頼勇様、ゼノ君、後はルーク様の三推し」

 「推しって複数居て良いんですか!?」

 「一途貫く必要があったら別のゲームで別の推しすら作れないよ!?」

 

 その言葉にわたしは「あ、確かに」と頷きます。

 確かにそうですよね。わたしだってかつての聖女様を題材にした恋愛小説でこんな言葉を皇子さまに言われてみたいなーとかドキドキしたりしますけど、その気持ちが駄目って事は無いはずですから。

 

 「キャラ推しが頼勇様とルーク様で、ストーリー推しがゼノ君かな」

 「それでなんですけど、皇子さまも攻略対象ってエッケハルトさん言ってましたけど……」

 「え、言ってたの?墓穴じゃない?」

 心底意外そうなリリーナちゃんに首を傾げます。

 

 「そうなんですか?」

 「うんまぁ、ゼノ君って攻略対象なのは確かなんだけどさ。それ言っちゃったら絶対に諦められないでしょアーニャちゃん。

 自分から自分の勝ちを無くしていく辺り、どこか抜けてるよね」

 「そりゃ皇子さまの幸せを諦めるなんて出来ませんけど……

 そもそも、そんな嘘をつかれたら怒っちゃいます」

 「言えてる」

 

 そうして、少し考えます。あと聞きたいことは……

 「えっと、誰がわたしやリリーナちゃんと恋愛する可能性があるんですか?」

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