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オーウェン、或いはゼーレ

「ふぅ」

 二人が去り、おれは残された黒髪の少年の前で息を吐いた。

 

 「巻き込まれたか、オーウェン」

 「僕はゲームはやってたけど、実物の知識は……」

 俯いて元気なく呟くオーウェン。

 まあ、そりゃそうだって話だな。例えばロボットのアニメが好きでそのゲームをやりこんでいたとしてだ。作中で全部のシステムの原理だ何だが解説されてパーツ一つ一つ全ての形や組み方が載ってればまた違うんだろうけれど、普通は無茶振りにも程がある。

 例えばおれでも名前を知ってる人類が宇宙進出し宇宙世紀と呼ばれる時代に良くロボットで戦争やってる作品郡のコアな大ファンだったとして、その世界に転生したからといってZが重なる名前の三機合体するモンスター級の機体とか変形して突如赤やら緑やら青やらに発光する機体なんて作れないだろう。

 

 「割と災難だな」

 「うん……何にも意見が……」

 「気に病むなって。竪神だって悪気があるとかじゃなく、単純に意見できる事があったらってくらいの思いなんだと思うからさ。使えないとか罵倒するつもりはないと……」

 『「びみょーにつかえないんじゃよ?」』

 「こらアウィル。手を貸してくれてる相手に酷いこと言わない」

 『ワフゥ……』

 しゅんと耳を倒して項垂れる幼狼。可哀想にはなるが、あまり相手を煽るように育って欲しくはないから心を鬼畜生にする。

 

 「……僕は、あんまり使えないから……」

 ほら、オーウェン落ち込んでるじゃないか。

 

 「いや、オーウェン。お前にしか出来ないことはちゃんとあるから自信持て。

 例えば……」

 まあ、切り出して良いだろうな。そう考えておれはステラと呼ぶことにした偽アステールの言っていた言葉を口にする。


 「魂のゼーレって何だ?オーウェンなら知ってたりしないか?」

 ゼーレ何ちゃらチャンバーってシステム名、謎の電子音で聞いたことがあるんだよな。確かATLUS戦の時だ。

 何とかSEELE drive modeとLI-OHが叫んでいて、そして……ATLUS側の使う雷槍ブリューナク・トゥアハ・デ・ダナーンがさっきのゼーレ何ちゃらチャンバーによる機能の筈。

 

 「SEELEっていうのは魂の意味だけど……」

 びくり、と肩を震わせるオーウェン。その瞳の奥には、明らかに怯えた光が見て取れる。

 ってそんな怯えるようなものか?縮こまるなんて……

 

 「いや、おれは対峙したAGXからその名を聞いた。

 魂という意味なのは分かったが……決してそれだけの意味じゃないんだろう?」

 きゅっと少年の目が、聞きたくないとばかりに閉じられる。

 

 「オーウェン」

 「止めて……止めてくれ!」

 酷い怯えよう。これは何かある。

 だからこそ聞き出さなきゃとは思うんだが、下手に刺激もしたくない。

 

 どうしたものか……と思うが、答えなんて簡単だ。

 「頼む、オーウェン。おれは君に何もしない。これ以上頼まないから、情報だけを伝えてくれ。

 アステールの為なんだ。おれは……」

 奥歯を噛み締め、拳を握る。

 

 おれはあの日アステールに約束した。彼女を振る際に、『もう一度会うとしたら、立ち向かうべき彼等が貴女に魔の手を伸ばした時だけ』と告げた。

 敵の可能性は高いと思っている。だから、罠にかからぬようにアナやリリーナ嬢を守るために友人になれたのだろうアナを無理矢理にでも来るなと遠ざけて話した。

 けれど、だ。もしもあれが……自身の肉体を捕らわれて必死に違和感に気が付いて欲しそうにしていた「他人に怪しまれないようにゴーレムの体を普段通り動かすことを強要されている」アステール自身だったとしたら。おれはあの約束を果たす。果たさなきゃいけない。

 

 始水との休みの約束もすっぽかした。万四路へのお兄ちゃんの約束は最悪の形で裏切った。

 もう、どんな約束も破りたくない。そんな救われる価値もない芥を更に下限突破したくない。そんな奴に生きてる価値なんて……って思いに押し潰されてしまいそうで。

 

 「お願いだ、オーウェン。君に何も背負わせない、だから!」

 「……魂のゼーレっていうのは、二つ意味があるんだ」

 おれの叫びを受けてか、ぽつりぽつりと少年は語りだした。

 

 内容を要約すると、苦しみ泣き叫びながらそれでも戦うための力の一つという感じだな。

 「ああ、有り難うなオーウェン」

 蒼白な顔に精一杯笑いかける。

 

 「もう一個聞かせてくれないか。お前のAGXに、ALBIONにもそのゼーレ・コフィンは付いているのか?」

 曖昧な顔で頷かれる。

 

 ……ん?何か歯切れが悪いな。間違ってる気はしないんだが……

 

 「そっか。話をしたら……大事な人を、多分お母さんをコフィンに埋葬して、お前もAGXで戦えって言われそうで怖かったんだよな?」

 ちょっぴり首を回し、火傷痕が見えにくくしながらおれは語る。

 「……うん」

 「言わないさ、オーウェン。君も君のお母さんも、おれが護るべき民だ。

 お母さん向けの眼鏡を贈った時に言ったろ?だから心配しなくて良い。皇族は君達の平和で豊かな生活を護るために普段偉ぶってんだからさ」

 ……だが、分からない。

 

 ゼーレ・コフィンシステムについては分かったんだが……それとあのアステールについての関連性が無くないか?

 万が一ユーゴがアステールのことをアガートラームのコフィンに閉じ込めるとして、だ。何でそんなことが必要になる?

 アガートラームを使ってなお、おれに負けたから?

 それならば最初からというか、五年前の時点でやってるだろう。ってか、傷一つ付けられてないのはあの二回目も同じだってのに今回はやらかす意味が到底想像もつかない。

 

 自分が死にかけただけでアガートラームは負けてないんだから、早急に動く必要なんて無い。

 寧ろアステールを拐う意味もない。だって普通に嫌われてるだろ、すぐに燃やし尽くして殺してしまう。そんなこと、多分ユーゴだってやりたくない。

 

 ……始水?

 『すみません兄さん、二機がかりになったところで逃げ帰ったのでその先は分かりません』

 ……万が一があるとすれば魔神王襲撃だとは思うが、その辺りは不明か。ってか、おれの知るゲームの魔神王テネーブルならATLUSだけで勝てそう感無くもないというか、二機がかりなら勝てるだろって話だからな。チート込みでもフルパワーアガートラームが必要ってそんなに化け物になるか?

 っていうか、確か4機のうち所在不明だが恐らく円卓が持っている最後の一機って……AGX-15(アルトアイネス)じゃなかったか?14B(アガートラーム)より上の。

 

 ますますワケわからなくなってきた。

 即座に撤退したあの一機がアルトアイネスだとして、即座に消えた理由は分かるが……だとしたら何とでも対処できそうだしな。

 

 ……いや、そもそも……

 「なあ、オーウェン。お前の機体って……

 AGX-ANC11H2Dだよな?」

 いや、何か考えれば違和感あるんだよなと思いつつ、ふと問い掛ける。

 

 「オーウェン?大丈夫か?もう帰るか?」

 「あ、だ、大丈夫疲れてぼーっとしてただけ

 うん、僕の与えられた機体は……ALBIONだよ」

 曖昧な笑みで、少年はおれの疑問にそう答えたのだった。

 

 「じゃ、帰るか」

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