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ステラ、或いは変装狐

「アステール様」

 昔の関係はもう関係ない。おれは体を強張らせ、きちんとした礼を取る。

 

 「むー」

 それに不満げな声を、赤と緑、左右で色の違う瞳を持つ少女はあげた。まあ、何時もの事だが。

 

 「ステラで良いのにー」

 瞳の中に文字通り星の浮かぶ少女に言われ、膝を折ったおれは狐少女の顔を見上げ……

 キラキラしたその瞳をじっと眺める。

 

 「ステラ様」

 「もー、酷いよおーじさま。様じゃぜんっぜんステラの思ってること分かってない!敬意が要らないよーって事なのにー」

 「ステラちゃん」

 「おっけー!よーやくステラの言うこと分かってくれたんだー」

 ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべる狐娘に対して作った笑みを浮かべながら、おれは立ち上がって改めて五年ぶりに再会した少女を観察する。

 

 ノア姫より濃い金の髪と、ノア姫よりちょっと淡い赤い左目。その二つまでは魔力染まりで似たような色だが、右目は風の緑。背はそこまで伸びていないが……大きな狐の耳と、五年前はなかった大きな二つの膨らみが眼を引く。

 顔立ちはちょっぴり大人びたがまだ童顔、ふわふわしてそうな尻尾をゆらゆらと揺らすのが中々に愛らしい。

 そんな体を覆うのは、ほぼ形状がアナとお揃いの神官服。腰に巻かれたリボンだけは龍姫の色である青ではなく女神の黄色。そして特別なのだろうか、服自体も白ではなく薄桃色だ。本来の女神はもっと金なのだが、桃に合わせて薄い黄色という事だろうか。

 

 「ふっふっふー、どうかなおーじさま?」

 くるっとターンして神官服を見せ付けてくる少女。ワンピースだからか尻尾を出すスリットが……普通に背中側にあってスカートが捲れないようになっていた。いや特注なら当然か。

 

 「似合うと思いますが」

 「もー、もっと砕けた声じゃないとステラ怒るよ?」

 「いや、シエル様と同じような神官服だな、と」

 「ふっふっふー、似合うよねー?」

 「まあ、可愛いとは思うんだけれども……」

 

 少し周囲を見回して、「アイリス」とその名を呼ぶ。

 結構すぐになーごという鳴き声と共に、オレンジの毛並みの猫が青赤のリボンを咥えておれの肩に登ってきた。

 そして、そのまま頭の上へ。何時もそうだが、そんな場所定位置にしてどうするんだろうな?

 

 それはそれとして、妹からリボンを受け取ると、おれは少女を手招きする。

 そして、頭ひとつとは言わないが低い背丈の少女の頭を少しだけ胸元に抱き寄せて……先だけが白いふわふわの毛並みの耳からさらりとした金髪への境目が分からない美しい頭を見ながら、その左耳にリボンを軽く巻いて飾った。

 

 「おー、プレゼント?」

 「昔から綺麗な髪だと思ってたからさ。今度会ったらと用意していた」

 嘘である。本来はアウィル用に用意してたリボンなんだが……アイリスはホント、良くおれの意図を分かってくれた。後でお礼を言わないとな。

 

 「あと、ステラちゃん」

 更に人気の無くなった周囲を警戒しながら、おれは胸元から小さなケースを取り出す。

 「どうしたの、おーじさま?」

 「いや、周囲に今は人が居ないけれど、聖女様方の帰りが遅いと問題があったのかと誰か来ると思う。

 その際に、その色違いの眼(オッドアイ)だと目立つから」

 そう言ってケースを開ければ、そこにあるのは赤く透き通ったコンタクト。

 

 そう、カラコンである。

 最近のおれ、何かあるかと警戒している時は何時もカラコン入れるしで持ち歩いてるんだよな。

 先祖返りをしなければならない場合、魔神に近くなるせいでおれの血色の瞳が蒼く染まる。というか、血が蒼くなる。それを誤魔化すためのカラコンという訳だな。

 「ちょっと合わないかもしれないけれど、誤魔化すためにこれを付けてくれないか?」

 「おっけー、確かにステラ目立つもんねぇー」

 と、少女は割と豊かになった胸を小さく揺らし、耳をそれより大きく揺らしながらおれの手からコンタクトを取ると、そう悩まずに目に填めてくれた。

 

 「どうかな?」

 見返してくる瞳に星は見えない。魔力染まりによる緑も無い。ちゃんと両目ともノア姫っぽく赤いな。

 「有り難う、それはそれで綺麗だ」

 

 それを確認して、おれは横でじっと事態を見守る少女へと目線をずらす。

 「ノア姫。おれはステラと暫く話すから、先に寮に聖女様方を送ってくれないか」

 「皇子さま?わたしもアステールちゃんと……」

 恩もあるのだろう、ちょっとだけ食い下がるアナを手で制しながら、おれは首を横に振る。

 

 「頼む、シエル様。寮の方がまだ安全だ。魔神族の襲撃が終わったとはいえ、警戒に越したことはない。

 おれ一人では全員を護れない。だから……」

 にゃっ!と頭皮に立てられる爪。だが、ノア姫は何時もならワタシは役に立たないというの?と噛み付きそうだが今日は大人しく従ってくれた。

 

 というかアイリス分かってくれ。必要な事なんだ。

 頭の上の猫ゴーレムを撫でて宥めていると、不意にわかったと言いたげに尻尾をくゆらせて妹猫がおれの頭を降りる。

 

 「ゼノ君」

 「リリーナ嬢。話があるにしても後で」

 「うーん、分かった!行こっか、ちょっと話し合いたい事もあるしね」

 一番聞き分けの無いアナも、リリーナ嬢が引っ張っていってくれて。

 

 漸くおれはステラと二人きりになった。

 「じゃあ、ちょっと行こうか、ステラ。君が来てくれた理由とか、色々と話そう」

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