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対話、或いは罪

「でも、変な呪いがなければ腕輪の力である程度治せる筈なんですよ?

 それが効かないってことは、貴重な七天の息吹すら無駄になる可能性もあるんです。あんな高いの、確実じゃないと……」

 尚もむーとする少女を何とか説き伏せて、おれはエドガー……あ、違ったエドガールの名を持つ異端抹殺官(サバキスト)の前に立つ。

 

 エドガール……江戸ガール……うん、覚えやすいけどそれっぽさが無いな。

 というか、緊張感も無いなしっかりしろおれ。幾らおれ自身魔法が使えないから一切やることが無いって言ってもだ。

 

 あとなアナ。性能も原作ゲーム準拠なら七天の息吹は万全な状態に作り直すみたいな力で、回復不可の呪い状態なんかは普通に貫通するんだが?ちなみに、おれの呪いは知っての通り貫通できない。

 かつて裏切ったおれの先祖への神の恨みって恐ろしいな。いや、そもそも魔神族がこの世界を滅ぼしに来るのも大元はと言えば虹界が自分から切り開かれたこの地を自分に還したいからって理由で送り込んだからだしさもありなんだが。

 

 『ええ、私達の世界に惚れて、此方に与したが故の【虹への反逆者】の勲章です。辛いとは思いますが、その分誇りにも思ってくださいね兄さん。

 貴方はその血を色濃く発現したんですから』

 と、戻ってきた神様の声が脳裏に響く。相変わらずタイミングが良いと言うか……

 『ええまあ基本定期的に見回れば他に見るもの無いのでずっと兄さん観察してますからね。

 はい、必要なら脳裏で呼んでくれれば繋ぎますので、では』

 あ、切れた。何だかんだ疲れてるのかもしれない。

 

 そんな脳裏の一幕……少しの時間の間に、呻いていた青年の冷ややかな目線がおれを射る。

 「貴様」

 「エドガール……」

 あ、えーっとだ。何て呼ぼう。敬称付けなきゃ文句言われる事は確かだが、様付けは下手になりすぎて皇族として不味い。殿下とか猊下とか使える地位でもないし……

 『殿が万能ですよ兄さん』

 サンキュー始水。いや考えれば当然か。

 

 「失礼、エドガール殿」

 キッ!と睨まれる。

 「敬意が足らん」

 「いや皇子さまの方が偉いですよ?

 この国の皇子さまなんですから」

 「……」

 と、真顔を崩さない銀の聖女に言われ、青年は押し黙った。

 

 最近アナが怖いんだが、早く昔の良く微笑む可愛くて優しい心の頃に戻ってくれ。君は人を威圧するような残酷さ持ってなかった筈だろう。

 「えーっと、呪いは……」

 「ちょっと待ってねー、封光の杖よ、私に太陽のごとき全てを照らす力を!」

 リリーナ嬢も神器の杖を手に参戦。というか、そういや今まで持ってなかったなと改めて思う。

 

 「最初から使ってやってくれ……」

 「諦めろ。皇子のその考えの方が可笑しいんだ」 

 溜め息を吐くおれの肩を、慰めるように頼勇が軽く叩いた。

 「いや目の前で人が傷付いてるんだぞ、出し惜しみなんて」

 「皇子。例えば人殺しが目の前で防犯に引っ掛かって体をバラバラにされ苦しんでいたらどうする?

 彼は『助けてくれ……頼む……』と呻いているが、これまで何人もそうして命乞いをした罪の無い人間を殺して金を奪ってきた」

 「助けるよ。生きていなければ、後悔も反省も出来ない」

 そう、おれのように。

 

 「皇子が助けることで、更に凶行を繰り返す可能性があるのにか?」

 「当然人を殺してきたのは悪いことだ。許しちゃいけない。だから助けるにしても、当然騎士団に引き渡して裁きを受けて貰うさ。

 でも、自分も味わったことでそれを理解してやり直せるならやり直させてやりたい。反省しないならば、そのまま裁かれるだけだろう?」

 「それなら助けた意味はないと思わないか?

 裁きを下して死をもたらすためにわざわざ助けるなんて、無駄も良いところだ。払う労力分だけ損になる」

 「助けた意味なんて、どんな時でも基本無いよ。相手が助けられた……いや、命を拾った事に意味を作るだけだ」

 

 小さく唇を吊り上げて自嘲する。おれはまだ、万四路を死なせて命を拾った意味を見つけられていない。

 いや、見つけずに死んだ。そんなおれが言ったところで……

 

 と、こんな思考してたらシロノワールにまた蹴られるなと頬を叩いて気持ちを切り替える。

 

 「そうね。だからワタシはエルフを助けたという意味に値段を用意してこうして居る訳だし、ね」

 と、聖女ではないから手持ち無沙汰なのだろう、ひょいと顔を出した金髪エルフが告げた。

 

 「そういう考えか。ならばまあ良いんだが……」

 くい、と顎を引かれる。

 「ならば、アイリス殿下等に様々にお世話になっている私が、支援された意味を作る。それを止める事はないな?」

 「無いさ、竪神」

 それには静かに頷く。

 いやそりゃそうだ。おれなんかに勿体無いと思いつつ、ノア姫に頼りがちなのもそういうことだしな。

 

 「了解した。皇子、後は任せて良いか?」

 と、青年は寮の方を向く。

 「竪神?」

 「襲撃があってすぐだ。しかも一ヶ月のうちに二度もとなれば、多くの不安があるだろう。

 誰か居てくれと皆思っているだろうから、私は寮に戻る。大丈夫か?」

 「ああ、頼む」

 言いつつ、ポケットから抜き取った手紙を青年の左手に託す。

 

 「あと、アイリスの代行としておれから頼む。シルヴェール兄さんの言葉的に、恐らくは皇狼騎士団との共同作戦になると思うので、この手紙に記された情報を元に良い感じに作戦立ててくれ」

 「了解した。皇子の言葉通り、必ずあの屍の皇女を終わらせる。被害を出来る限り少なくしてな」

 ……力強く頷かれ、あれこれ駄目じゃね?と思い直すが……

 今更止めると怪しすぎるな、うん。流石におれとアルヴィナの間には仇だ何だのかなり深い因縁があるって(実のところ完全に間違った)印象付けたし、アルヴィナを拐ってくるだけの隙があると信じよう。

 

 手紙をちらりと見てから手を離す。

 いや、実はロクな事書いてないとかいうオチだったら渡したら終わりだしな、確認は必要だ。

 

 「……はい、終わりました。

 腕の方は動きますか?」

 と、そろそろ終わったか。去っていく青き青年を見送って、改めて色々言いたいこともある青年の方を見た。

 

 「さて。とりあえず事情は聞いてないけれど、どうせロクでもない事だけは分かるわ」

 「いや、酷くないかノア先生」

 「あら、事実でしょう?教員代表として同席させて貰うから、アナタもきちんとしなさい」

 「ああ、心強いよ」

 いや本当に助かる。

 

 そう告げて、おれは結局まだ腕を庇っている青年の前に立った。

???「むー、ステラ人選間違えたかなー

おバカな異端抹殺官って問題起こしてくれてちょーど良いと思ったんだけどー、ごめんねおーじさま」

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