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屍の皇女、或いは宣戦布告

猛る頼勇をステイ!しながら、愛刀に慣れすぎて少し不安になるただの鉄刀を手におれは地面に座り込む少女と対峙する。

 周囲に骨がバラバラになっているし、最初は骨の魔物に乗ってアピールしてたけれど頼勇に叩き落とされた感じだろうか。

 

 いや、頼勇の思いは分かるのだ。基本はスパダリ過ぎて折角攻略対象に昇格したは良いものの恋愛相手がヒロインでなきゃいけない理由が無さすぎるって不満の声があったらしいくらい完璧超人な彼だが、唯一魔神族……特に四天王ナラシンハには並々ならぬ敵意を燃やす。

 逆に言えば、父親含む故郷の人間を皆殺しとまではいかないが多数殺された相手と対峙した時にキレて冷静さを喪うって当然の事が欠点と言われるくらいにはスパダリなんだが。

 

 だから、魔神たるアルヴィナへの怒りは分かるが……悪い頼勇、止まってくれ、アルヴィナ実は二重スパイなんだ。

 

 と言いたいが、それを此処で口にして良いことなんてある筈もない。だから、せめてアルヴィナとは因縁の敵ですよーというアピールをかます。

 ログ取れるようになってるらしいし、わざと因縁を徳盛に語ることでアルヴィナのサポートにもなるだろうしな!

 

 「……あ、やっぱり?」

 と、少し前にアルヴィナの話をしたこともあって即刻納得してくれたらしいのはリリーナ嬢。これは茶番だと簡単に分かってくれたようだ。

 

 だが、分かってくれたのは彼女と後は最初から分かりきってるシロノワールだけ。残りの二人はおれの言葉を聞いておれの前で座ったままのアルヴィナを遠くから睨み付ける。

 いやエッケハルト!?遠く行ってくれ頼むから。

 

 「用があるのはおれだろう?」

 少しの怒気を込めて威圧的に言葉を紡ぐ。

 ふつうにやったら怖がらせるようなやり方だが、それで問題ないようさっき打ち合せした。

 

 ただなアルヴィナ。人を傷付けるのはやりすぎだ。

 アルヴィナ的にはおれに酷いこと言った罰とかで優しさのつもりかもしれないが、隻腕の辛さはおれにだって分かる。何度も腕折れたり溶接されたりで片腕使えない時間は体験してきたからな!

 

 「そう、あなた」

 と、おれの意図は通じているのか、アルヴィナも今度は四足歩行の怪物の死骸を召喚しながら告げる。

 天狼……じゃないな。熊みたいな生き物だ。流石にアルヴィナもあの狼の遺骸を死霊として使う気はないだろうし当然か。

 というか、デカイなこの熊。全長4m、生前の体重600kgってところか?


 「ボクの婚約者を殺した、最大の敵」

 ところでアルヴィナ?目線おれからずれてるんだが、睨んでるつもりなのかそれ?

 いや、睨んでないというか、テネーブル(真性異言)に向けて怒りを顕にしてるのを、おれに向けてるように見せかけてるだけだろうな。前にアステールがユーゴ相手にやってたような感じ。

 

 「……分かった。フォローに徹しよう」

 おれ達の茶番を受けて、はぁ、と息を吐いた青髪の青年は少しの未練を感じさせながら一歩下がった。

 「私だって、ナラシンハ相手に任せて下がれと言われたら同じ思いだろう。

 だが、勝てよ皇子」

 その言葉に頷いて、鞘を強く握る。

 「ああ、分かってるさ竪神」

 

 「あ、あの……」

 そんなおれの背後からかけられるのは、鈴の鳴るような透き通る声。

 「わたしに出来ることは」

 「シエル様、エッケハルト!

 下がって、彼の治療を」

 「でもっ!」

 アナ!?いや腕がないとか辛いのは分かるだろ!治してやってくれよ手遅れになる前に。

 

 「リリーナ嬢!前に何かあった時にという七天の息吹の使用を許可する!

 シエル様と共に使ってやってくれ!」

 「そんなお金かけてまで……」

 「外交問題になるんだよ!」


 うん、そうなんだよな。おれ自身は単純に治してやれるならって気持ちなんだが……万が一こんな奴と思っていても治さなきゃいけない。

 一応彼は聖教国から来た異端抹殺官(サバキスト)らしいからな。その彼が大怪我したままだったら、うだうだ言われる隙になる。実際、兄の第三皇子はヴィルジニーの心の傷が云々で人質に送り出された訳だし。

 いや、勝手に来て勝手に怪我したのは確かなんだが……素性とか聞いた以上見過ごす選択肢が消えているのだ。

 

 「アナ!」

 おれの叫びに、はっとしたように銀の少女は唇をきゅっと結び……そして、エッケハルトの手を引いて外へと出ていった。

 

 「茶番、終わった?」

 手持ち無沙汰そうに待っててくれたアルヴィナが何処か寂しそうにアナの消えた方向を眺めながら問い掛けてくる。

 

 「そちらこそ、懺悔は済んだか四天王」

 「復讐に来たのか、屍の皇女」

 凄む頼勇と、話を進めるおれ。

 今まではおれと魔神は基本的に敵対していたから良かったんだが……裏で示し合わせているとなると、頼勇は恐ろしい。

 

 「そう、復讐のために」

 「させると思うか、私とL.I.O.Hが!」

 そんな叫びに、熊の上のアルヴィナはというと、やりにくいとばかりに助けて欲しそうな視線を向けてきた。

 すまんアルヴィナ、おれにも何ともならない。

 

 緑に輝く石と共に、おれの一歩半後ろで青年が吠え、熊へと斬りかかる。

 「竪神!」

 「本体は任せる!行くぞ皇子!

 復讐だとしても、誰も傷付けさせない。これ以上!被害は出させやしない!」

 ……やるしかないか!

 

 覚悟を決めて、エンジンブレードが切り裂いた事で体から離れて小山のように横たわる巨熊の前肢を蹴って跳躍。そのまま抜刀術……なんて使わずにアルヴィナの首筋に抜き放った刃を突き付けた。

 

 「それで、良いの?」

 「皇子、決めろ!」

 「いや、こいつは……あの時のナラシンハ等と同じだ、本体じゃない」

 冷静に落ち着かせようとするおれ。

 

 「だとしても、倒せば被害は今は止められる」

 「本当に、良いの?」

 「何がだ、魔神」

 その言葉に、アルヴィナは漸くといったように言葉を紡ぐ。

 

 「このボクの体を今殺したら、パーティーの場所が分からなくなる」

 「パーティー、だと」

 「そう。全てをボクのものに変える魔女祭(サバト)

 唇を噛む竪神と、アルヴィナの言葉を聞くおれ。

 

 「ボクは、カラドリウスを殺した相手を許さない。そして、魔神王の妹として聖女を倒す必要がある。

 ……だから、全部一気に終わらせることにした」

 「本当の場所を言うと、私に信じろと?」

 「……竪神」

 首筋に突き付けた刀はそのままに、おれは静かに青年を諭す。いくら頭に血が上っていようが、竪神頼勇というスパダリなら分かってくれると信じて。

 

 「ボク、仇を殺すために待ち構えてる。

 来てくれないと……困る」

 「なら、今此処で襲わない理由が」

 「準備しないと、殺せない。

 彼を殺した相手が強いことくらい、ボクにも分かる」

 淡々と告げる少女がぱちんと指を鳴らすと、少女の纏う黒霧の中から執事のような服を纏う獣人のゾンビ(顔が真っ青だからゾンビだろう)が現れ、恭しくおれへと手紙を差し出した。

 

 「誰も傷付けさせないというなら、必ず来て。聖女諸共に殺してあげるから」

 「皇子!」

 頼勇の叫び。聞くべき事は聞いたと言わんばかりの怒号。

 それに合わせ、黒髪の少女はこくりと頷いた。

 

 もう良いというのだろう。

 だが、流石に分かっていてもアルヴィナを斬る自分を見たくなくて。

 「もう十分だ。首を洗って待っていろ」

 背を向けるように体を捻りながら、小柄な少女を首から斬り捨てる。

 「必ず、お前を終わらせてやる。屍の皇女」

 

 ……良いだろう?茶番なんだから……罪から目を背け逃げたって。

 

 手紙を胸元のポケットに捩じ込んで立ち去るおれの背後で、頼勇の振るう光を纏った刃から放たれる砲撃のような一撃が熊の胴を貫き、その背の上で頭が転がった少女の体は結晶となって砕け散った。

 

 って、感傷に浸ってる場合か!

 「竪神!置き土産が来る可能性が!」

 「ああ!そうだな皇子!だとしても……食い止める!」

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― 新着の感想 ―
[良い点]   [気になる点] ゼノ君もやっぱり罪から目を背けたいっていう思いはあるんだなぁ。やっぱ救われてほしい…。 聖女と来いって言われてるけれどもそれは建前ですよね。実際そんな危ないところに国の…
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