救いの手、或いは異端抹殺官
こんなんで良いのかと思いつつ、アナ(+竪神)と合流。仲直りさえ出来ればいっそエッケハルトに任せるって事も考えたんだが、護衛は折角アイリスがもぎ取った以上騎士団メンバーにせざるを得ない。よって最初に一緒に行くパートナーは竪神固定という訳だな。
いや、竪神が最初からパーティーに出席していたらそれはそれで酷いことになってるだろう。それに、何か理由がないと出席しない気がするからちょうど良いと言えばちょうど良いんだ。
そうして、入学式も行われた大講堂の扉を開いて足を踏み入れるや、大音響が鼓膜を叩く。
部活……では無いが、芸術活動を行うサークルみたいなものは幾つかある。そのうち一つが集まって演奏する曲だ。
確かシルヴェール兄さんが顧問兼パトロンのサークルだっけな。
とりあえず、中々豪華。
いやおれは音楽なんて小学校の時評価1だぞ1。今日は習い事が無いので家に遊びに来ませんかした始水が音楽の補習食らったおれを見て呆れながら溜め息ついたレベル。その上教育を受けるより戦闘に明け暮れた今のおれなんて、語彙力小学生の感想しか出せるはずもない。
「わ、これは何なんですか?聖歌とは全く違いますけど」
と、同じく音楽には疎いアナが横で耳を澄ます
「不思議な音です……」
「弦楽器。聖教国で使われるのは笛の類と鍵盤主体だっけ?」
「あ、わたし歌は結構得意です」
と、銀のサイドテールを跳ねさせて少女は少しだけ自己主張にはにかむ。
「でも、あまり歌主体じゃないかな、これは」
「で、ですよね……」
「そもそも、七天教の聖歌ってかなり魔法で電子音出す前提のアニソン……」
と、何とも言えない表情で呟くのはリリーナ嬢
ただ違うぞリリーナ嬢。アニソンなのは道化と龍姫に関する聖歌くらいだ。いや2/7がアニソンなのは何なんだよ七大天!?
「それは今は良い、皆が待っている」
と、青髪の青年だけは冷静に手を引かず軽く上向きに手招きして皆を先導する。
それに合わせて、ホールに出た。別に下駄箱とかある訳じゃないんだけどな、入り口近くの両脇に一拍置かせるためか小さな倉庫があるんだよな
と、明るいシャンデリアが照らす空間に出た瞬間、黄色い歓声が上がった。
「頼勇様!」
「聖女様!」
の二つの歓声が。うん、そりゃおれへの歓声なんてある筈もない。基本的に聖女様!というのは男性の歓声が殆どなんだが……頼勇に関しては女性多めながら結構男子からの声も混じるのが差すがというか。うん、LI-OH格好いいもんな、憧れるよな。
ということで、おれを蚊帳の外に一気に人が入口付近へと密集する。
そう、だからお前ら後な、されたのである。普通は歓迎会で初期から居るなされるなんて可笑しいんだが、聖女様なんて男子生徒がこうして大っぴらに絡める場所を用意したら群がるに決まっている。同級生を主とした生徒交流の場として、徹頭徹尾二人が華となってしまうのは好ましくない。主に交流が進まないという意味で。
故に、最初は皆で交友を深める時間を用意して、ダンスパーティーの時間になった辺りで飛び入り参加という形になったのだ。
なお、忌み子は壁のようなものである。居ても居なくても変わらないというか、居ない方が多分良い。
長蛇の列みたいにはなっているが、予め何らかの合議はあったのだろう。口々に話しかける生徒達の中から、二人の男性が進み出る。
「アナちゃん、踊ろう!」
片方はエッケハルトだった。
そしてもう一人はオーウェン、な訳もなく
「踊っていただけますか、預言の聖女様」
恭しくシルクに覆われたリリーナ嬢の手を取るのは艶のある黒髪の青年。色合い的に魔力染めが起きているし、影属性だろうか。瞳はオレンジで、多分属性は土/影だろうな。
服装は白基調。どことなくアナが良く着ているワンピース状の神官服に近い趣がある。いや、アナすらちゃんとしたドレスで出席してて、ドレスじゃないのは礼服が制服しかない平民達とかそんな状況なのに神官服って何か浮いてる男だな。
何か変だと感じて構えを取るが、流石に物騒極まりないので愛刀は手元にない。というか、鞘の修繕に時間が掛かっていて、抜き身の刀身だけをアウィルが咥えて常に漏れ出す雷の調節してくれている危険なブツ過ぎて持ち込めない。
というか、流石に斬るのは不味いしな。何か違和感を覚えつつもいざとなれば取り押さえるくらいに意識を留めてさりげなく構える。
横で頼勇も同じことをしている辺り、やはり変だ。
「え、でも……」
と、桃色聖女はおれの方を振り返る。
「ダンスって、婚約者と踊らなきゃ駄目じゃないかな?」
「貴女の御手をおぞましい忌み子に汚させるなどとんでもない」
……オイ。
半眼になるおれを無視して話が続く。
「聖女よ。もう忌み子に縛られる必要など無いのだ。貴女様は既に預言の聖女、皇族とはいえ忌み子等遥か下の存在」
と、膝を折ると青年は取った右手に口付けた。
うん、イケメンだけあって絵になるが……
正直絡みに行くか悩む。おれはこの彼を知らないし、知らないということはゲームに出てきてはいない。となれば、彼は円卓の救世主の誰かか?という疑問も湧くが……
違ったら失礼に過ぎるから待つ。
というか、リリーナ嬢が割と引いてるな……
「あ、あのっ。えっと……わたしと同じく七大天様に仕える方ですよね?」
と、おれより先に切り出したのは銀色の聖女。頼勇を一歩半離れたところに従えて、困惑しながらも助け船を出す。
その言葉に、青年は立ち上がり真面目そうな顔で頷く。
「はい、腕輪の聖女シエル様。
貴女様とお話しするのは初めてでしたか。我が名はエドガール・S・ミチオール。七天教聖教国枢機卿アングリクス猊下に従う者」
恭しく礼をする青年を見て、何とか立場を理解する。
つまり、ヴィルジニーの家に代々仕える家系の出って事だな。って聖教国の人間じゃないかそれは!?
「聞いていないな」
「黙れ忌み子。貴様に生きることを許している事そのものが神々の慈悲の深さ。身の程を知れ」
と、割り込もうとするもばっさりとおれの言葉は切り捨てられた。敵意しかない瞳がおれを見て、即座に逸らされる。
言動に可笑しなところはほぼ無いな。アステールの恩人として多少柔らかかった教皇猊下や昔のアステールを除くと、聖教国では大体こんな扱いだ。
「酷くない?」
ぽつりと呟くのはリリーナ嬢。それにその通りとばかりに深く頷くのはアナ。
けれど、二人の聖女にちょっぴり咎められながらも、自分には神々が付いているとでも言いたげな彼は止まらない。
というか、何で居るのか、それくらいは教えてくれ。
「お優しいのですね、聖女様。されど今や貴女様方は神に選ばれし者。貴女の行動の全ては七大天、そして我等が保証いたします」
ですから、と大袈裟に手が振られる。
「忌み子との婚約関係など、続けさせられる必要はないのです」
「随分な言いようだな」
「ヴィルジニー様から、散々貴様がどれだけおぞましいか聞かされたもので。
貴様を呪い殺さない神々の慈悲と、死を命じない聖女様の優しさに平伏しろ」
ステイ、ステイだ始水。
耳に何だか不穏なというか口汚い罵倒が聞こえてきて慌てて脳内で念じる。
いや、実際の七大天がおれを呪っている訳ではない事は重々承知だ。ただ、端から見ればという話を否定する力を今のおれは持たない。
「そんなことありません!」
きゅっと手を握りしめ、銀の聖女が叫ぶ。
「どうしてですか!皇子さまは確かに忌み子って呼ばれる存在です。
けど!だから何が悪いんですか!どうしてそこまで酷いこと言われなきゃいけないんですか!」
「忌み子。呪われた子、おぞましき怪物。産まれてきた事が、生きている事が罪なのだ。
我はサバキスト。聖教国より、来年留学に来るヴィルジニー様を帝国が迎えるにあたっての内害を予め廃する異端抹殺官である」
そうして、青年は恭しく二人の少女へと礼をした。
「貴女方を、罪から救いに来ました」
「じゃあ、わたしも異端で良いです」
「ちょ、アナスタシアちゃん!?」
その言葉に反射的にか叫ぶ少女。不満げに踵を返し、唇を強く結び肩を怒らせた銀の聖女がおれの服の袖を掴む。
「変な人がいるパーティーは危険です。行きましょう、皇子さま」
「いや待ってくれ、シエル様!?」




