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アルヴィナ、或いは友人語り

「アルヴィナの事か」

 おれも周囲を見渡しながら、そう呟く。

 いや、語るのは簡単だ。だが……

 

 「シロノワール、居ないのか?」

 そう、アルヴィナ・ブランシュという魔神の少女について語るには、流石にその兄の許可が必要だろう。勝手におれがぺらぺらと情報を漏らしてはいけない。

 それが分かるから呼んでみるんだが……

 「……呼んだか」

 

 ぬっとおれの影から姿を見せるのは黒い礼服に身を包んだ魔神王。喪服かよと言いたくなるが、タイの色は白いしタキシードみたいなと言うべきか?

 「何だ、ずっと影の中に居たのかシロノワール」

 「まあな」

 微笑んで、ふわりと一度浮き上がり八咫烏たる青年はリリーナ嬢の正面に降り立つ。

 「アルヴィナの事か。語るのは……まあ、良いか」

 その言葉に頷いて、おれは話を始めた。

 

 「リリーナ嬢。アルヴィナという名前に聞き覚えはあるか?」

 「えっと、全然」

 出会ってる筈なんだがな。忘れられてるのか。後はゲームではモブっちゃモブなんだが、小説版とか何処かで出てきたりしてないかと思ったんだが……

 どうやら、リリーナ嬢の知る限りではそういったものは無いようだ。

 「では、屍の皇女や屍天皇という称号は?」 

 「何か格好いいね」

 無邪気ににこりと笑う少女に、ああこれは全然知らないなと理解する。

 

 「じゃあ、リリーナ嬢。原作のゲームには、魔神王テネーブル以外に魔神王の一族は出てこなかった?」

 ちなみにだが、先代のアートルムは出てこない。

 「えっと、名前とかはほぼ言われてないから覚えてないんだけど、妹が居た筈。

 シロノワール君は出てきてないから、確かその妹だけ」

 むーと唸りながら絞り出される声に静かに頷く。

 

 「え?ひょっとして……アルヴィナってその子なの!?穏健派と言われてるけど四天王ゾンビにして蘇らせたりしてるあの!?」

 「……多分」

 いや、恐らく間違いはないんだが、誤魔化すように曖昧に頷く。あれだけ言われてもおれが真性異言ではないと勘違いしてくれているのだから、悪どい考えだが利用させて貰う。

 

 「え?え?えぇ!?」

 目を白黒させるリリーナ嬢。

 「いや確か小説版だと確かゼノ君が決戦前に穏健派と聞いて保護しにいったら『ボクのものになって』と告白されて、でもヒロインが居るからって断ったとかそんな話はあった気がするけど……

 もう出会ってるの!?」

 いや、何だその話。アルヴィナは確かにおれの眼を気に入ったと言ってたが……普通殺されないかそれ?

 

 「……何だそれは。そもそも、何をほざいているんだその話のおれは」

 「ん?」

 首をこてんと倒す少女。その桃色のふわふわの髪が小さく揺れる。

 「聖女が天狼の花嫁となる道だと聞いていたんだが、何だその言い分は。醜い横恋慕にも程がある」

 ラインハルトルートで何で彼氏面してるんだそのゼノ。アホか、アホなのか。恋は盲目にでもなったのか。可能性無くなったエッケハルトってるのか。

 

 「……あ、あはは……ゼノ君って一途で頑固だから諦めないし……」

 少しの口ごもりの後、歯切れの悪い苦笑いを返される。

 いや、良いんだが。

 

 「というか、リリーナ嬢も出会っているぞ」

 「え?嘘!流石にいくら私でもそんな怪しい人が居たら分かるよー」

 またまたーと手を振って否定するリリーナ嬢。

 シロノワールと目配せして大丈夫か確認して、更に一歩話を踏み込む。

 

 「リリーナ嬢。おれと初めて出会った日は覚えているか?」

 「うん。私がリリーナ・アグノエルになってる!って気が付いたゼノ君の元婚約者との婚約のパーティでの事だよね」

 ちょっと言い方に刺がある気がするがまあ良いかと頷き、話を続ける。

 「その時、君は何をした?」

 「え?ゼノ君に話しかけたよね?」

 「その時、おれに怒られなかったか?」

 いや、おれ自身はアルヴィナの存在を認識できている。だからこそ他人はどこまで記憶が曖昧なのか分からない。これでその辺り消えてるとお手上げだが……

 

 「あ、言われた言われた。自分のためには怒らないけどちゃんと他人が巻き込まれると怒るのはゼノ君だなーって思った。

 あれ?でも何で怒られたんだっけ?何も私悪いことしてなかったような……」

 瞳を閉じてむむむ……と唸る桃色聖女。唇をきゅっと結んで必死になるが……

 「そう。本来君はおれに話しかけていた少女をうっかり突き飛ばしているんだ」

 「そうなの?」

 こくりと頷く。 


 「恐らく、転生に気が付いて、しかもおれという知っている存在を見て周囲が見えてなかったんじゃないか?」

 昔はなんだこいつと思ったものだが、今はちょっとお花畑だが悪い心の持ち主ではないと分かっている。だからちょっとフォローを加えておく。

 

 「うーん、そうだったのかな?

 で、え?パーティに来てたのあの魔神の女の子」

 「いや、その時におれも出会っていたんだが……。それ以来、そこそこ縁があった」

 「え?小説版みたいにゼノ君に一目惚れでもしたのその子!?」

 

 いや、そうじゃないだろと苦笑しながら続ける

 「いや、多分元々は影というゴーレムみたいなものでこの世界を偵察していたらしい」

 「この皇子に近付いたのは、忌み子故に地位が低くて簡単に周囲に入り込める割に皇族という最大の敵になりかねない相手の内情を知れたからだ」

 と、付け加えるシロノワール。いや、そんな理由もあったのか……

 

 「うわ、普通にスパイ。というか、シロノワール君よく知ってるね?」

 「アルヴィナ・ブランシュは姉だ」

 いや妹だろ。と言いたいが、姉ということにしたいのは分かった。出来る限り合わせよう。

 「まあ、そんなスパイだったアルヴィナなんだけど……最終的に、円卓の(セイヴァー・オブ)救世主(ラウンズ)の中の二人と対峙しなければいけなくなった時、魔神としての力を使ってまでおれ達を助けてくれた」

 「うんまあ、分かるよ」

 分かるのかよ!?と眼を見開く。

 

 「良く簡単に納得するな……」

 「いやだって、小説版でさくっとゼノ君に惚れてた子と同じなら、当然ゼノ君が頑張れば惚れると思う」

 その発言に、シロノワールが額を抑えていた。

 

 「まあ、それは兎も角だ。多分そういう惚れた腫れたじゃなく、単純に友情だとは思うんだが、一応そんな子だ、アルヴィナというのは。

 死霊術の使い手だからか、屍の皇女と彼等は呼んでる。ついでに、そんなアルヴィナに協力していたからおれも屍なんじゃないかと思われていて、その際の名称が屍天皇」

 「へー、でも、ゲームだとスパイ活動なんて無かった気がするんだけど……」

 じーっとした視線がシロノワールを射る。

 まあ、この中で一番物を知っているのはシロノワールだからな。

 

 「ああ。魔神王テネーブルは、真性異言(ゼノグラシア)だ」

 と、ぽつりとシロノワール/本来のテネーブルは告げる。

 「真性異言ならば、未来を知るからこそそれを変える者が居ないか確かめようとするだろう」

 うんうんと少女が相槌を打つ。

 

 「その為に、彼は色々な事をした。魔神の為にもならないことを。

 アルヴィナ姉の想いに水を差し……」

 ぎりり、と歯ぎしりの音が聞こえる。シロノワールの拳は、固く握られている。

 そうだ。だからおれは彼を信じている。少なくとも、対テネーブルにおいては味方に違いないのだと。

 

 「だから、私は貴女を護るために此方に来た。最早、あの魔神王はアルヴィナの害でしかないと理解して」

 「あ、そういう事だったんだ……」

 納得したように、ぽんとリリーナ嬢がひとつ手を打った。

 

 「で、私はどうしたら良いのかなそのアルヴィナ関連は」

 「とりあえず、おれが何とかするから下手な刺激をしないでくれると助かる。特に……元々はアナと潜入中のアルヴィナは仲良しで、その記憶もあるだろうから、今のアルヴィナ潜入中の記憶の無いアナを近付けさせたくない。手伝ってくれないか、リリーナ嬢」

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