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祝祭日、或いは少女の問い

『兄さん、黒いタイはマナーがなってない証明ですよ?青いものに変えるべきです。まだ時間はありますからね』

 なんて忠告してくれる幼馴染の言葉を聞き入れ、おれは礼服の胸元のネクタイをほどく。

 この世界のネクタイは、女性は胸元をリボンかアクセサリーで飾るが男性もそれに合わせる何かをというところから50年くらい前に発達したファッションらしい。

 

 始水、別の色でも良いんじゃないか?

 『まあ、選択肢は3つです。白地に白は似合いませんからそれは無しとして、私の色である青、あの聖女の髪の色に合わせて桃、或いは瞳の色の緑。

 でも、婚約者に合わせた色の方が露骨に意識してますといった面持ちで問題が起きそうでしょう?だから青が安牌です』

 いや、アドバイスは有り難いんだが、母親か始水。

 『いえ、単にお嬢様な幼馴染で神様ですよ、兄さん。

 私としても兄さんの失敗は聞きたくありませんからね。ただでさえさっきも愚痴ったように兄さんが真性異言ではと疑っていた魔神王が襲ってきて大変でしたし、これ以上頭を悩ませたくない訳です』


 うん、そうなんだよな。ユーゴとの時に始水の力を借りて~が出来なかったのは、そのタイミングでカラドリウスが持ってた謎の羽根を回収しようと魔神王テネーブルが急襲してきていたから、らしい。

 おれより大変な事になってるならあれはもう仕方ない。寧ろ無事で良かった。

 遺跡の防人としての役目を一度捨てて世界の外にあるというパターラ側に飛び込んで、そこから追ってくる魔神王を振り切れずに……世界の狭間に潜航しているらしい円卓の救世主の母艦?に神としての龍姿で突っ込み、魔神王の相手を擦り付けることで何とか事なきを得た、と聞いたが……うん、ヤバイな。

 

 『兄さん、とりあえずあの魔神王は……今兄さんの影を我が物顔で借りている方ではないアレがその世界の中に直接来れるような存在ではありません。少なくとも、ゲームシナリオのように小刻みな襲撃で侵食を続けた後でなければ。

 だから、今はまだ無視してください。兄さんの知らない神器を持つ片剣翼の魔神王だからこそ、まだこの世界にとっては異形に過ぎます』

 そう幼馴染でありこの世界の神の一柱の心だという少女は言うが……それでも不安は消えない。

 

 何たって、ユーゴはあの槍を放った奴がリリーナ嬢を殺す気がないからすぐに消えたと言っていたが……その直後くらいに、『ATLUSを達磨にしてコクピットを粉砕しようとした』魔神王の前に同一機体だろう小型のAGXが襲来し何とか修復したATLUS含め2vs1で良い感じにやりあっていたというのだ。つまり、原作ではいくらなんでもAGX複数と単独でやりあうのは無理だろうってスペックな魔神王が、そこまで強力になっているという事である。しかも、最終形態である竜魔神王無しで、だ。

 とても、幾ら直接対峙する事はまだ無いとしてもとても忘れてはいられない。だっておれ達は……何時かアルヴィナの為にもその魔神王を倒さなければならないのだから。

 

 『ルクゥ!』

 と、吼える声に意識を戻し、とりあえずお嬢様のアドバイスに従ってネクタイを青いものに変える。いや、七大天に合わせた色なら女神に合わせた色を……ってそれはそれでノア姫が馬鹿にしてるの?って呆れるか。

 

 「じゃあ、行儀良く待っててくれよアウィル?」

 『「アウィルは賢いのじゃよー」』

 と、流石に連れ込めない狼にそう言い聞かせておくと、白い巨体は一声吼えて応えた。

 今日のアウィルのご飯は……自分で狩ってきた猪のような魔物のシチュー。アウィルが頑張って臭みが消えるまで煮込もうとしていたのをアナが見付けてシチューにしてくれたので安心と信頼の出来だ。

 そんな聞き分け良く自分で火の番も出来る万能狼をそう心配せずにおれは一週間泊まった騎士団の部屋を出た。

 

 いや、いくらおれでも一週間は安静にしたし、それでノア姫特製包帯も巻いておけば大体治った。相も変わらず意味不明の回復力である。

 

 ということで、男子寮を出て空を見上げる。

 そろそろ龍の月が終わり、入学から一ヶ月経とうとしている空は……雨の多い月だけあって今日も曇っていた。

 というか、新入生が学園に慣れてから歓迎会って結構珍しいな。なんて思いはあるが、まあ良いや。

 

 そうして歩いて、待ち合わせた聖女様と合流する。

 「おっはよー!って、ゼノ君普通に帝国風の礼服なんだ」

 なんか意外、と会うなりしげしげとおれを眺めてくるのに苦笑しながら、おれは手袋を填めた手を差し出す。

 「それではもう少し行こうか、リリーナ嬢」

 「おっけーおっけー!って言いたいけど、ゼノ君って礼服は和服……じゃ分からないか。西国の服って印象だったんだけど……」

 ほら、前に祭の日に出会った時とかそうだったじゃん、と続けてくる少女に、おれは左手の袖を軽く振って応えた。

 

 「ああ、あれは目立つし袖が周囲に当たりやすいんだ。今回のパーティの主役はおれではいけないから、こうして他の皆と合わせた服にしているという形」

 「へー、そうなんだ」

 ふんふんと頷く少女の胸元には太陽のような宝石飾りのアクセサリーが揺れる。

 ちなみにだが、おれのプレゼント……な訳はない。騎士団の運営費用、障害を負った子供の為の基金費用等でおれの財政は常にカツカツだ、宝石なんて買ってる余裕はあまり無い。

 

 「良いアクセサリーだな、リリーナ嬢」

 と、とりあえず誉めておく。本当はドレスとかも誉めるべきかとは思うが、おれにそんな才覚ある訳もなし。下手なこと言うくらいなら当たり障りの無いところを誉めるのだ。

 それを聞いて、少しだけむーと唇を尖らせて、けれども直ぐに気持ちを切り替えたのか桃色聖女は胸元の太陽のネックレスの宝石を繋いだ紐を指先で持ち上げて此方に見せつけた。

 

 「えっへへ、ありがとねゼノ君」

 「誉めただけなんだが?」

 「え?これゼノ君のプレゼントだよね?」

 ……初耳だ。

 

 呆けるおれに、少女のあれ?という声が届く。

 「昨日、シロノワール君が置いていってくれたんだけど、ゼノ君からだよね?」

 「いや、おれじゃない。シロノワール個人からの筈だ」

 「え?そうなんだ、じゃあ……」

 にっこりと笑って手を差し出してくる聖女。

 

 「ゼノ君からもなにか無い?」

 「おれにそんな金あると思うか?」

 肩を竦め、困ったなと苦笑いしながらおどけてみせる。

 寧ろシロノワールが何でそんなネックレス持ってたんだって話なんだが。流石におれの財布から金抜いてる様子はないし……

 いや魔神王だしな。幾らか自分のものだから持ってきてるのか?

 

 「あはは、うん。ゼノ君からはお金以外に色々と助けて貰ってるし、そこまでして欲しいって期待してないよ」

 「ああ、助かる」

 「いやいや、私が乞食してるだけだからねこれ。ゼノ君は畏まらなくて良いって。

 ……で、そのシロノワール君は?」

 きょろきょろと周囲を見回すリリーナ嬢。主役は遅れて登場するべきだということで、結構後から来るように言われている。そのせいか、周囲には全然人が居ない。

 皆は既に大講堂の中という訳だ。だから人影が居れば直ぐに分かるんだが……居ないな。

 

 「そのうち来るさ。わざわざ贈り物までしたんだから」

 「ゼノ君は行方知らないの?」

 「シロノワールとは同盟関係だからな。あくまでも協力して貰っている立場、縛ったりは出来ないよ」

 「……信じて大丈夫かな?ほら、魔神であることは確かだし」

 少し不安げに揺れるエメラルドの瞳に、おれは火傷でひきつった笑いを返す。

 

 「少なくとも、おれは信じてるさ。魔神な事は確かでも、あいつの思いを」

 「それで……なんだけど」

 と、袖を引かれる。

 「ねぇゼノ君、まだ時間はあるよね?」

 言われてポケットから取り出した一本針の時計を見てみる。

 昼前から歓迎のパーティは始まっているが、おれ達が入るのは昼過ぎだ。具体的に言えば水の刻の終わり。日本で言えば大体午後3時。

 で、今は水の刻で針が7割回った頃だからまだ早い。

 

 「……まあな」

 「ちょっと早すぎたかな……」

 あははと笑う少女。言われてみれば同じ時間に来るように言われた筈のアナはというと……まだ来てないな。

 「まあ、遅れるよりは良いだろ?」

 「お陰でゼノ君とも話せるしね」

 「おれより、他の攻略対象と話すべきじゃないのか?」

 実際、どのルート目指すにしても協力するとは言ったが、まだあまりそれっぽい事をしてないんだよなリリーナ嬢。

 いや、まだ出てきてないキャラも多いから一概に言えないが、逆ハーレム目指すなら早めにシルヴェール兄さんに取り次いでくれとか言わないと時間足りなくないか?

 そう思って聞くが……

 

 「ま、今は私達の為に頑張ってくれてるゼノ君と情報共有とかの時間かなって。

 それで、なんだけど」

 真剣な表情に変わった少女がおれを上目に見上げる。

 「……ゼノ君。結局ボロボロのゼノ君にはって気後れしちゃったからまだ聞いてないんだけど、あの人達が言ってたアルヴィナって、誰?」

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