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桃色聖女と転生者会議(side:リリーナ・アグノエル)

呼び出されて、私は少し悩みながらも二人と一頭の元を離れる。

 でも、二人ともこちらを一瞥するけど何も言ってこないし、良いんだよね?

 

 前は森だったけど、今はもう荒野。身を隠す場所なんて無くて、あまりにも開けた場所。

 

 と、突然空が翳る。シロノワール君が翼を拡げ、烏姿でこちらに飛んできていた。

 「聖女よ、流石に大丈夫だとは思うが、あまり離れないように頼む」

 「何だよ、俺が何かするって?」

 不機嫌そうにひび割れた木々の破片を踏むエッケハルト君。

 

 でも、言われても仕方なくない?頑張ったのゼノ君とシロノワール君だよ?エッケハルト君は誘われたくらいしか無い。

 

 「単純に、離れすぎるとあの時止めに囚われそうになった際に、対応できないからな。

 そちらがどうこうというのは気にしてもいない」

 あ、そっか。ゼノ君が側に居たからゼノ君は時が止まらなかったんだよね?じゃあ離れすぎたら本当に時止めに対して間に合わない。

 「あれ?でも……シロノワール君よく知ってるね?」

 

 「実は飛び去ってすぐ、あの狼に捕まってな。ずっと甲殻の中に仕舞われていた。

 時を止めても共鳴で動いていたようだが……」

 何なんだあの狼……と呟いて、けれども警告はしたからなと飛び去っていくシロノワール君。

 

 それを見送って視線を移す。ゼノ君は時折何か起きないか此方をその血色の右目でちらちらと見ながら、体を丸めて椅子みたいになった大きな白狼にもたれ掛かり、角付近をずっと撫でていた。

 

 「こほん」

 その掌の指が二本ぷらーんとしていて、明らかに毛にちょっとからめられただけで曲がっちゃいけない方向に曲がる辺り完全に折れていて。

 火が消えたなら治してあげられないかな?と思ってた私に向けて、大きな咳払いが聞こえた。

 

 「あ、ごめんエッケハルト君。ちょっと考え事してた」

 それで、と私はスカートに付着した土埃が突然気になって裾を摘まみぱたぱたと振りながら答える。

 杖?今は要らないって念じたら何処かに消えちゃうんだよね、あれ。とっても便利。

 「考え事……は良いんだけどさ、(れん)ちゃん」

 

 その言葉に耳をぴくっとさせて、私は姿勢を正す。彼が私をそう呼ぶってことは、ゲームの話とかしたいんだなって分かるから。

 「ねぇエッケハルト君」

 「どうしたんだよ」

 「その辺りの話、ゼノ君達にも聞かせて良いんじゃないの?」

 って、ごそごそと呼んだ馬の鞍に積んだ荷物をちょっと顔をしかめながら漁るゼノ君を見てそんな風に言う。

 あ、干し肉かな?を取り出したらぱくって狼がそれを咥えてる。いや、私にはぜんっぜん関係性が分からないんだけど、直ぐに順応している辺り本当に知り合い同士なんだろうなーって。

 直ぐにゼノ君に懐いてる辺り飼い犬……あの頭に乗ってた小さな毛玉の成長姿というのは良く分かる。

 

 私はラインハルト君は一途なのは良いんだけどちょっと苦手で。ママってつい主人公の事を呼ぶことがあるのとかもそうだけど、何というかヤンデレ味があったからかな。そのせいでちょっとねーと天狼については避け気味だったんだけど。寧ろもう一人限定だとゼノ君の方狙ってたんだけど。

 でも、大型犬みたいで可愛くてちょっと勿体無かったっていうか私も撫でてみたいなーとか、

 

 って、それは良いかな、今は。

 そもそも、私が転生者なんてゼノ君知ってるわけで。エッケハルト君については本人が言ってたし。

 「私達が転生者……えっと真性異言(ゼノグラシア)って存在なこと、理解されてる訳だよね?わざわざ隠す必要なくない?皆で話して良くない?」

 仲間はずれはいけないよ、ふんす!

 って私はちゃんと主張する。

 

 「……転生者会議ならゼノも入れるべきだとは俺も思う」

 複雑そうに友人である筈の隻眼の青年を何とも言えない渋そうな顔で見ながら、赤毛の青年はぼやく。

 「でも、此処からの話はゼノに聞かれたくないんだ」

 「ゼノ君へのサプライズ?」

 あ、そっか。頑張ってくれた御褒美とか、相談してるの聞かれたくないよね。私、夜中に両親がクリスマスプレゼント何にするかの話し合い聞いちゃってサンタさんって親なんだってがっかりしちゃったことが……この場合とは違うかな?

 

 と、そんな私を見て、彼は君もかと言いたげに大きな溜め息を吐いた。

 「何となく理解した。ただ、確認として聞きたい」

 真剣な青い瞳が私を見詰める。

 

 やだ、告白?……って茶化せる辺り、本気じゃなさそうだよね。私が身がすくんじゃうような恐怖を感じてないってことだし。


 「君は、さっきのゼノを見てどう思った?」

 「さっきの……って、変に時が止まってからの事?」

 

 言われてんー、と唇に左手人差し指を軽く当てて思い返す。

 「怖かった」

 「だろう?」

 大きく頷くエッケハルト君。その瞳にはちょっとした怖れ……かな、怯えるような色が見え隠れする。

 

 「正気じゃない」

 「……うん、そうだよね」

 私、ゼノ君に護られながら殆ど何にも出来なかったもん。良くあんな相手に対して勇気を出して戦えるよねみんな。

 

 「怖いだろ?」

 「エッケハルト君、ユーゴ?って人に反応してたし知ってたんだよね」

 こくりと頷く青年。


 「ああ。実はさ、ヴィルジニー分かるよな?」

 知ってると言えば知ってるかな。私はやっぱり乙女ゲーとしてプレイしたかったから全然あの子使ってないんだけど、聖教国からの留学生の女の子。何人かとペアエンドとかあった覚えがある。

 内容知らないけどね、くっつけたこと無いから。一応ガイスト君とかエッケハルト君とかと支援S行けるんだっけ?

 

 最推しの頼勇様と絶対恋愛にならないよねこれ!?って気になったゼノ君は全部シナリオ見たい!って他キャラとのペアエンドとかやったんだけど、他はね……攻略対象にヒロイン以外と恋愛とか御法度って無視してたから。

 こんなことならやってたらある程度皆の事解ったのになーって残念にもなるけど、此処はもう現実だし、ゲームの知識で考えすぎなくなるからそれはそれで良いのかな?

 

 「教皇の娘だよね?」

 「その子とユーゴが婚約するってパーティーに呼ばれて、あいつと出会ってたんだ」

 「え?婚約?あの人ステラがーって言ってたよ?」

 ヴィルジニーとステラって愛称が結び付かないけど、別人だよね?

 

 「二股!?」

 ハーレムはいけないよ!むん!

 勢い良く私は突っ込みを入れる。

 「……二股、なんだろうかアレ。そんな態度でアナちゃんも良いとかあいつ本当にクソが」

 と、口汚く語るエッケハルト君。

 

 「実際酷いと思うけど」

 「そんな時も、婚約を潰してくれって言われてゼノが来てたんだ」

 「へー、私と同じように、じゃないよね?」

 私の婚約というか結婚は自分が婚約したで潰してくれたけど、その手って幾らでも使えるわけじゃないし。

 

 「ああ、ホスト国の皇族として、国賓を望まぬ婚約含むあらゆる不利益から救う必要があるとか何とか」

 「ご、ごり押しだー!」

 いや、凄い主張だねそれ!?ごり押しにも程があるっていうか、それをやるからゼノ君っていうか……

 「あいつ、昔からあんなんなんだよ」

 「いや、そりゃゼノ君だよ?昔はゼノ君じゃ無かったら困るよ」

 

 はぁ、と何度めかの溜め息。

 うん、何でだろうと首をかしげる私に、真剣な目線が突き刺さる。

 

 「……まあ、それは良いんだ。多分同じぐらいの強さで、全部ゼノが引き受けていたから。

 同じく轟火の剣を呼び出して」

 そうなんだ、って私は聞き続ける。

 「その時はさ、ぶっちゃけ俺まともに対峙してなかった。だから、結構軽いこと言えたんだけど……」

 何となく要領を得ない言葉。

 

 「結局何が言いたいのさエッケハルト君」

 「リリーナちゃん、俺がアナちゃんを……って理由、これでしっかり分かってくれたと思う」

 「え?全く?」

 それとこれと関係あるのかな?って私はちょっと額に手を当てるも想像つかないっていうか……

 

 「あ、そっか。あの子の事狙ってる酷い人達が居るから、頑張らないと……」

 「いや違ぇよ!?」

 叫ぶような否定。顔を赤くしての大声にびくりと跳ねる肩と心臓を宥めながら、私は上目に恐る恐る相手を見る。

 

 「直接対峙したら流石に分かるだろリリーナちゃん!」

 「えっと、何が?」

 「あいつらだよあいつら!円卓の救世主!あいつらを見てどう思った?」

 ……ゼノ君と関係あるかな?いや、あるよね。

 

 「酷くて怖くて……」

 「そして、完全に世界観違うんだよあいつら!」

 と、青年の見据える先にあるのはとりあえずとばかりに地面に突き刺された青く透き通る槍。ワケわかんないけど、とりあえず滅茶苦茶な事は分かる武器。

 

 「狂ってるんだよ!あいつらも、それに立ち向かうって馬鹿ほざく奴らも!」

 「……そうだな、エッケハルト」

 その声に、びくりとエッケハルト君は肩を震わせ、ぎこちなく首を回した。


 「げっ、ゼノ……」

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