再会、或いは猫耳
もう一度言いますが、アルヴィナは狼耳です。主人公が間違えているだけです
「ようこそおいで下さいました、ニコレット様と……」
出迎えの男が怪訝そうにおれを見る。いや、付き添いにしてはちみっこい。といっても皇族だし飯は高級で量は十分なので発育は良い方ではある……のだが所詮は6歳の体だ。一年が365でないことを考慮してもあんまり差はない。ちょっと贔屓目に言って小学4年くらいにしか見えない、端から見ればあまりにも子供だろう。精神年齢はそれより多少マシだが。
ついでに火傷跡あるしで引くのは分かるけどさ……露骨に嫌な顔されるのもどうかと思うぞ?
「そちらは?」
「ちょっとミスったドジな執事みたいなもの?」
適当にカマをかけてみる。最弱の皇子を知っているかどうか、わざと嘘を言ってみる。
「あまり騒いで迷惑をかけぬように」
……あ、こいつ駄目だ。さらっと流しやがった。貴族の子供なら6割くらいはおれの顔知ってるんだが、さてはこいつおれがあの忌み子クソザコ火傷皇子だと気がついてないな?
自分で言っててへこんできた。
まあ良いや。その方が動きやすい。
軽く金属探知と魔術探知を掛けられてから中に通される。背中に仕込んだ短刀は取り上げられず。
…おい、この刀は確かに師匠がくれた骨製のもので金属部品は一個もないが、雑だな検査。
因にだが、この刀は骨だけあって何時も使ってる良い金属製の刀と比べてかなり脆い。打ち合うようには出来てない。お前は刀を自分から鍔迫り合い仕掛けに行く等強引な振るい方をし過ぎだ本来の使い方を学べと押し付けられたものだからな。ゲーム風に言えば、耐久がゴミだ。
鍔迫り合い等の耐久消費する行動を仕掛けたりすれば即座に壊れる。なので耐久を無駄に減らさないように、敵の装甲の隙間を通して斬る、本来の刀の使い方をしなければならない難儀なもの。
とはいえ、金属武器なんて持ち込めはしないからな、これでもあるだけ良い。アイアンゴーレムを斬るとかあんな無茶は出来やしないが…出てこられた時点でヤバいから仕方ない。
なんてやりつつ、テントの中に通される。仮設のものだからな、立派な建物で行われる訳ではない。とはいえ、テントとはいってもかなり豪華なつくりだ。金の装飾も多く、紫が基調。
潜る際に見えた布もかなり分厚い。こんなに金かけるのか?と言いたくなるような豪華さで、どことなく違和感がある。案内人も見たことがない顔だし、大きく広場に色々と広げてたからしっかり仮設テントを見た訳ではないが彼等のってこんなに豪華なものだったか?もっと持ち運びを考えていたような。
なんて疑問を抱きつつも、中を見回す。
全体的に幼い子供が多いな。何でだろうとなる。付き添いだろう執事やメイドは居て、それらを平均年齢に含めると30は越えるだろうから子供ばかりって程ではないが、10歳前後の貴族の子弟……とかが多いな。そんなに高位は居ないが。
こういう時に高位貴族を呼ばないのは何となく珍しい。まあ、怪しさの塊だしな、高位貴族の家に招待なんて送ってガサ入れされたら困るとか、そういった理由なのだろう。疑いすぎるのも良くないが、疑わしすぎるからな元々。
見回す限り知らない男爵辺りの貴族ばかり。そんな中、テントの端に知り合いの姿を見つける。
ちらり、と婚約者を確認。選ばれし者というところに興奮している。いや、多分カモって意味だぞそれ。
証拠は無いし事前行動出来ないからこうして見に来てるだけで。
皇族って別に事件が起こる前に防ぐ存在じゃないからな……。民の最強の剣であるというのは、あくまでも起きてしまった事件を叩き潰してくれるってだけで探偵的な力はないのだ。証拠もないのに潰せる強権は……いや父皇にはあるけどさ、おれには無いしな。
「アルヴィナ」
声をかけてみる。
その声に気が付いたのか、テントの中は結構暗いってのに手元に魔法の灯りを浮かべて本を読んでいた少女は、目線を上げて此方を見た。おれが被せてやった黒い帽子がちょっとだけ揺れる。まあ、子供ものとはいえ男用だけあって小柄な同年代の少女にとっては結構ぶかぶかだしな。
リリーナ=アルヴィナ男爵令嬢。まあ、男爵家だしカモとして呼ばれてても可笑しくはないか。って疑いすぎか、これで本当に何もない単なる特別展であった場合はまさに笑い者だわおれ。
「んっ」
軽くこくりと一礼。垂れた前髪の間から金の眼が見え隠れする。でもしっかり帽子を被っているあたり、気に入ってくれて何よりだ。いや、良くないぞおれ。正直男物だから似合ってないぞアルヴィナ。
「アルヴィナも来てたのか」
「珍しいの……見れる」
そういう触れ込みだったな。罠感溢れてたけど
「そっか。面白いもの見れると良いな」
「もう、見れた」
「見れたのか」
……いや、特に面白いものなんて。
「来るとは思わなかった、友達」
「あ、そうか。
ってそれ、おれが珍獣扱いされてないか?」
いやまあ、忌み子って珍獣なのかもしれないけどさ。出来かたこそ解明されているが突然変異ではあるし、大概は育たずに死ぬからな流産だ何だで。ある意味、忌み子とはアルビノと似たような貴重な珍種……って嫌だな。
「……友達、貴重、特別」
「いや、別に良いんだ。おれがちょっと過剰反応しちゃっただけ」
と、そこで婚約者様がやってくる。
「わたくしを放置して、良いご身分ですわ!」
「……そりゃ、な。一応皇子さまだ」
「そういう詭弁を聞いてはいませんの!」
詭弁。詭弁か。
いや、詭弁だな、うん。婚約者放置して他の女(友達)と話していた、だからな。それを言うならばパーティでそそくさとおれの横から逃げてったお前はどうなんだニコレットと言いたいが、男女で批判の度合いは違うし仕方ないな。
肩を竦め、ご免なと謝る。いや、謝る必要あるか?となるがご機嫌斜めなのは宜しくない。
「ごめんなアルヴィナも。今回のおれはこの婚約者の付き添いなんだ」
「んっ。珍しい」
「……アルヴィナ?お前と出会ったの、一応婚約披露のパーティだったはずなんだけどな……」
まあ、お互いに結婚する気が欠片もない事があのパーティの時点で見てとれそうな酷いものではあったけどさ。
と、始まるようだ。果たして、まともなものかな?