表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

296/687

誘い、或いはゲーム

「……ステラ?」

 天狼の放つ活性の桜雷。それを受けて立てるようになったらしい桃色聖女が小首を傾げる。

 

 そういえば、リリーナ嬢は出会ったことが無かったか。

 私は転生者で皆を幸せにしたいの!と端から見ればお花畑丸出しの発言を大真面目にされたカミングアウト以降はそこまでだが、当初はおれもリリーナ嬢が転生者丸出しでちょっと警戒してたからな。

 おれ自身は全然読んだことがないけれど、世界にはおれの蔑称でもある【悪役令嬢】ものとか、ゲームヒロインが悪役って作品もあるらしい。リリーナ嬢……(れん)がその悪役みたいな事を考えてるんじゃないかと思い、距離を取っていたんだ。

 

 リリーナ嬢は時折昔からおれに接触をしてきてはいたものの、アステールと関係のあった時期にはおれは警戒をまだ解いていなかったから、あまり他人を巻き込まないようにしていた。だから、会ったこと無いし紹介もしていない。

 

 これからも紹介するタイミングは来ないと思っていたんだが……

 

 「は?転生者なら知ってんだろ」

 「……えっと、誰?あのゲームにそんなの出てきたっけ?」

 ちらりと目線を向けられるのはおれではなくエッケハルト。

 

 案外騙せてるんだな……と内心でほっとする。普通は転生者かつアステールと関係のありそうなおれに尋ねるだろう。それを転生者だから知ってそうとエッケハルトに目を向けるということは、おれはただのゼノだと思われてるということだ。

 散々ユーゴ等がネタバラシしてる割に、斜め後ろに立つ聖女様はそれを信じていないらしい。

 

 「いや、俺はアナちゃん目当てだから……アナちゃん主人公で全ヒーロー攻略する事以外全然やってないっていうか……全ヒーロー視点であの子とイチャイチャするので満足したというか……

 ステラだの何だのサブ女キャラの話なんて知るわけ無いだろ!ゼノに聞けよ!」

 ごもっともである。

 

 「……お前クソザコっぽいけどこっち来ない?」

 ぽつりと呟くのは呆れ顔のユーゴ。

 「ルートヴィヒの奴死にやがったから、席今なら空いてんぞ一応」

 ま、こき使うけどなと告げ、重力を緩めるユーゴ。

 立ち上がれるようにしたのだろう。おれはそれでも隙を伺うに留めて動かない。

 おれに放てる中でユーゴの障壁を越えられうるものは【似絶星灰刃・激龍衝】のみ。【迅雷抜翔断】はデュランダルを一旦投げ捨てて月花迅雷を握って一拍の溜めから放つ関係で重力を元に戻されたら発動を潰される。たった一つの切り札は確実に意味を持つタイミングまで切るわけにはいかない。

 

 「魔法なら殺せんだろ?そこのクソ半殺しにしたら認めて許してやるよ」

 「断る!俺は……アナちゃんに嫌われる事をして手に入れても嬉しくない!

 自力で!アナちゃんの味方をして!惚れて貰う!」

 「……良く言ったエッケハルト!」

 頑張れ、応援してるぞ割と真面目に。

 

 おれじゃあ、誰一人幸せになんて出来る筈もないからな。おれだってアナにもアステールにも皆に幸せになって欲しいし、その為には幼い憧れからの勘違いなんて、お前が覆してやれるならそれが良い。

 

 「……これだから優遇メインキャラ様は、恵まれてるからアホ言いやがる」

 はっ!と金髪の青年は唾を地面に吐き捨て、ぱんと手を叩いて重力を再度強める。

 

 「んで?ステラが誰かって?」

 「それもそうだけど、どうしてこんな……」

 すっとユーゴの青い目が細くなる。

 

 「ってか、同じ転生者なら分かるだろ?いや優遇されたヒロイン様は何もしなくても勝手にイケメンがホイホイ寄ってくるからわかんねぇか?」

 

 嘲るような口振りだが、一つ心の中で吐かせてくれユーゴ。

 勝手に寄ってくるとか言ってるが原作でもアナザー編のゼノくらいだろ何もしなくてもルート入れるの!

 原作リリーナは聖女って特別な力を持ってはいてその結果として優遇されてるし聖女様だからって補正もあったろうけど、恋愛面はヒーローの為に無私で頑張った結果告白されるパターンしか無いわボケが!

 今のリリーナ嬢がお花畑風味で目指してるかもしれない逆ハーレムとかその延長、皆のために必死に動いたから緩く皆から好かれてるけどその分特定の誰かと深い関係ではないルートだしな!

 

 ……おれとしては特定の誰かのルートに入ることを薦めるんだが。

 

 「分かんないよ!私には全然分からないから聞いてるの!」

 頬を膨らませ、乙女ゲーヒロインは小さく怒った。

 「あの子をファンの良く使う愛称で呼ぶし、私を……ちょっと気にしてるんだけどキャラ違う偽物って酷いこと言うし」

 ……気にしてたんだな、偽物発言。確かに酷いと思うが。

 「それに、ステラちゃん?って私も知らない子の話まで知ってるくらいにゲームのファンなんだよね?

 なのに何でこんな酷い事が出来るのか、分かんないよ!」

 「黙れ、お花畑」

 降り注ぐ青き落雷。

 

 「っ!ユーゴ!」

 『グルゥ!』 

 天から落ちてきたのは、良くバリアに使われているアレと同じ材質の槍。エクスカリバーでも刀身に採用されていたから分かっていたが、殺傷力もあるらしい。

 それを何とか咄嗟に動きを合わせてくれたアウィルの右前足と交差するように剣を振るって軌道を逸らす。

 っ!重い!

 

 「直接は……何だって?」

 カウンターは出来ると言われてたが、降ってきたのは完全にリリーナ嬢を殺せる一撃だった。

 肩で息をして重力に抗いつつ、その疑問を思わず口にする。


 「ま、我一人じゃない訳よ。このゴミが勝手に死んだまま生き返らねぇから、我や他も出向いてくるしかない訳。

 いい加減起きろボケが」

 何時しか吹き飛んだ筈の頭が再生している青年の顎をブーツで踏みつけるユーゴ。

 

 「……ちっ、あいつ何だかんだルートヴィヒ居なくなればリリーナ狙いするかとか言ってたし、一発で義理は果たしたとばかりに直ぐに帰りやがった。今度ぶん殴る。

 自由にまともな火力撃てるのてめぇくらいだって自覚持てよ」 

 そして次いで空を見てはぁマジと呟く青年ユーゴ。それでも警戒は解かない。解くわけにはいかない。

 それが真実だなんて保証はないのだから。


 ……それが真実なら、正直助かるのだが。

 

 「ま、良いや。で、何でとかアホ聞いてくんなお前。

 『ゲームはプレイヤーが遊ぶもの』、だろ?」

 

 ……分かっていた。そんな答えだと、分かっていたんだ。

 それでも、唇を噛みしめる。


 「ゲームって……」

 唖然とする少女が、手にした杖を取り落とす。

 「此処はゲームの世界で、我は好き勝手望むように生きれる力を与えられた転生者(プレイヤー)で!

 だから、くだんねぇゲームシナリオなんて運命をぶっ壊して!気に入ったキャラと面白おかしく生き(プレイす)る。当たり前だろ?

 此処は、円卓の救世主(プレイヤー)の為の世界(ゲーム)だろうが。

 ま、本当は我とあと一人だけで良いから残り全員死んで欲しいが」

 見下ろす冷たい青の瞳に、桃色の聖女は小さくその翠の眼を伏せた。


 「あとステラの話?我が嫁だよ。原作の記念ブックにあった小説のな。

 ユーゴ・シュヴァリエに一途だし地位高いし狐耳だし、結構好きだしちょうど良いから正妻にくらいしてやろうっての」

 「そんなの、生きてる人への……」

 「ゲームキャラだろ、結局」


 ああ、違う。昔からリリーナ嬢を疑っていたおれは節穴かと自嘲する。

 決定的に違う。オーウェンも、リリーナ嬢も、勿論エッケハルトも。此処がゲームの世界だとしつつ……現実だとも認識していた。そこに生きる者達を生きた人間だと思っていた。

 そういった根本から、この世界を玩具だと見下している彼等とは違ったというのに!


 「だからよ、ステラは我にぞっこんな嫁でなきゃ可笑しい訳。それが何だよあのバグ状態」

 バグというか、アステールがちょっと可笑しいのは認めよう。だけれども、アレはまだおれの駄目さに気が付いていないとはいえ、自分で考えて、思って、苦しんで、おれに助けてと手を伸ばした結果だ。

 それを……

 

 「好き勝手遊ぶって、シナリオなんて知るか壊してやるって、それなのに!シナリオで好かれてるからこの世界でもって!

 そんなの、都合の良いところだけダブスタじゃん!」

 「ユーゴ、お前はもう!喋るな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ