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迷い、或いは転生者

「……気配が不思議だな」

 周囲を飛び回っていた三本脚のカラスがおれの肩……に止まるのは嫌なのだろう、肩を掠めてマントをかっさらうと人の姿を取る。

 

 「シロノワール、魔神のような気配はあるか?」 

 「異様な気配はあるが、これは残り香か?

 魔神というよりは、あの機械どものように感じるが」

 その言葉に、遠くを見る。


 残り香と言うならば、恐らく襲撃してきた際の成果を確認する等の理由だろう。とすれば、その異様な気配はきっと、あの沼付近に。

 

 「だが、私は雨が苦手だ。湿っぽくて翼が湿気る」

 と、天を仰ぐシロノワール。同意するようにリリーナ嬢を森の中でも乗せたままな白馬が鬣を震わせた。

 

 確かに、と空を見る。

 まだ時期は龍の月。つまりは始水の月であり……雨季だ。水属性の力が強く、全体的に雨が多い。

 この先に魔の月と日照が少ない時期が続いて土地が肥え、そこから日照が増える温暖期が三ヶ月続く。そして土属性が強いタイミングが収穫期というのが自然作物のサイクルだな。

 だから雨が降るのは今の時期当然極まるという話だが……

 

 「もう第六週、そろそろ月末だぞシロノワール。影属性の八咫烏としては魔の月が近いと嬉しいんじゃないのか?」

 「私は導きの太陽だぞ?

 影であり闇だからこそ、光に焦がれる事もあるだろう」

 少し目を流すシロノワール。


 「あ、カッコいい」

 に、目をキラキラさせるリリーナ嬢。

 確かにカッコいいというか、聖女を魔神側に落とすと言ってるんだからその為にわざとキザったらしくしてるんだろうが……

 

 シロノワール、お前は影/天のアルヴィナと違って影/影/影属性では?

 寧ろアルヴィナが可笑しいだけなのかひょっとして。天属性の魔神……いやでも、七柱の神が混沌から世界を切り開いたから大枠が七属性な訳で、混沌の中には当然光も混ざってるから天属性が居ても……

 

 って考えてる場合かおれ。

 頬を叩いて意識を戻す。ユーゴみたいな相手と鉢合わせしないとは限らないんだから、ぼうっとしている時間はない。

 

 「エッケハルト」

 「あー、はいはい」

 やる気ないなこいつ。

 そんな気だるそうな態度だがやることは確か。おれ以外をふわりとした温風が包み込む。

 火属性の魔法だな。暖かな風のドームが雨を避ける。皇帝シグルドともなると、下手しら雨雲を叩き切って晴らすとか言われてるんだが、そんな無茶な事はしない。

 ついでに忌み子なおれには掛けられないから雨が降ったらおれだけ濡れネズミという訳だ。

 

 『ちなみに降るのは止められませんよ。単純に世界の秩序を維持する為の魔力の巡りですから、私が降らせてる訳でもありませんし』

 知ってるぞ始水。

 というか、神様が馬鹿みたいに話しかけてくるんだが寂しいのか。

 寂しいんだろうな。何かとニホンのおれに携帯電話を新機種のテスターとして支給しましょうかと勧めてきたし。

 

 寂しがりじゃなければ、おれと契約してでも外に出たがったりしないだろう。

 

 そんな事を思いつつ、走らせると転びかねないと馬上から降りたエッケハルトに速度を合わせて森の中を進む。木の根も何もかも軽やかに避ける辺りアミュは流石のネオサラブレッドだな。

 そろそろ復帰戦もやって良いかもしれない。人気の馬がレースに帰ってきた、って。

 

 「……それとね、ゼノ君にエッケハルト君」

 曇ってきた空で少し重い空気のなか、ぽつりと少女が語る。

 

 「実はね、二人を連れてきた一番の理由は……不安だったからなの」

 「不安?」

 「うん。私……本当はリリーナちゃんじゃない。

 転生したゼノグラシアってことは、本当の聖女の肉体を乗っ取ってる……ん、だよね」

 重々しく呟かれる言葉は、この場の全員に関わる言葉。

 加害者三人と、被害者一人。シロノワールの目が鋭くなる。

 

 「本当のリリーナって、私よりもっと明るいんだ。エッケハルト君は知ってると思うけど」

 いや、おれも知ってるが。


 それを語ったとしても、その不安は晴れないだろう。だから言葉にはしない。

 

 実際、原作リリーナってもっと明るくて社交的なのは確かだ。そうでなければあのシルヴェール兄さんを含めて沢山の人を引き込めない。

 「確かにキャラ違うよな」

 「うん。エッケハルト君もそうだけど……」

 「ゼノとか怖いくらいにほぼそのまんまなのにな」

 と、エッケハルトがぼやく。

 

 「そりゃ単なるゼノ君だもん、境遇がちょっと変わっても中身は変わらないよね?

 そうじゃなくて、魂からして違う私が……本当に、主人公(リリーナ・アグノエル)の代わりをやれるのかな」

 いやおれも別人なんだがな!?

 

 魂は同じというか、始水と最初から契約してたのを見るにおれ=記憶を無くして地球に転生したゼノの魂が成立するのかもしれないが、記憶が違う以上別人っちゃ別人だ。

 

 「つまり、俺を呼んだのは……」

 「うん、私と同じ境遇のエッケハルト君なら……隼人くんならきっと、優しい言葉を掛けてくれるからって。

 ごめんね?」

 「……ま、ならしゃーないか」

 折れたように、青年は自分の髪をくしゃくしゃと掻いた。

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