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アルヴィナ・ブランシュと参謀ゴリラ(side:アルヴィナ・ブランシュ)

「……アルヴィナ様」

 部屋の外から響くノックの音とそんな声に、ボクは不意に顔を上げた。

 窓一つ無い、大きな部屋。今のボクの部屋

 またの名を屋内墓地。ふかふかしていない踏み固められた地面と、無数の魂が蠢く墓標が並ぶ他とは隔絶された土地。

 

 かつて人類相手に世界を得ようとして死んでいった者達を、ボクが産まれる前に戦った皆を祀るための場所。肉体はあの皇子みたいに死んだら崩れ去るのが普通だから、あくまでも墓という物理的なものは霊を慰める意味しかない。

 寧ろ、人間は遺体を埋めると聞いてへーと思ったことを覚えている。魔神により近くなる……つまり人の殻を捨てて人であって人でない超人にならない限り肉体が死んでも残る事自体、ボクからしてみれば不思議なことだったから。

 

 そんな場所に半ば閉じ込められて、ボクはひたすらに作業を進めていた。

 自分で望んで、皇子が見たらアルヴィナには合うかもしれないけれどと不安にさせてしまうような此処でずっと、死霊術を使い続ける。

 

 皇子は魔神であっても殺すことを気にするだろうけど、本当は問題ない。違う、問題なく今している。

 だって全部、ボクの死霊だから。彼らはもう死んでいるから、殺すもなにもない。それに、お兄ちゃんも皇子達の味方を遠慮無くすることが出来る。

 魔神王として導く皆を殺すなんてお兄ちゃんはやりたくないだろうけど、これなら大丈夫。

 

 その事、お兄ちゃんは分かるかもしれないけれど……皇子は分かるだろうか。

 ボクの死霊くらいしか、まだ光溢れる世界には送れない。それくらいしか、まだ封印は緩んでいない。

 四天王を送ったりボク自身が出向いてみたり、影みたいなものなら送れていた事は知ってるだろうし、気が付くかな?

 

 そんなことを思っていると、遠慮無く扉が開く

 其処に立っているのは、フードを目深に被ることが多い、三編みの女の子。四天王ニーラ・ウォルテール。

 「アルヴィナ様、テネーブル様は何と」

 と、お母さんの親友は直接聞けば良いような話をわざわざボクに訊ねる。

 

 「アルヴィナが本当にやりたいなら、って」

 ボクはぽつりと言って、亜似から渡された許可を見せる。

 それを、マジマジと三編みの少女魔神は見つめていた。まるで、信じられないものを見るかのように。

 

 実際、信じられないと思う。ボクだって、お兄ちゃんがそんな事言い出したら耳を疑って耳掃除する。

 「ボクがあの泥棒を許さないと言ったら、こうして此処に閉じ込めたし」

 戦力を整えるんだと、ボクが一番得意なこの場所に入れて貰っている時点で、そういうこと。

 「アドラーを殺し、その翼を強奪して使う相手……

 それを、ボクは許さない。だから、戦力を整えて滅ぼしに行く」

 殺すとは言わない。ボクにとって死は友達。死霊としてボクと一緒に居るようにすることも示すから、"滅ぼす"という強い言葉を使う。

 一見すると皇子の事を言ってるように、わざと変な物言いをする。

 

 「テネーブル様がそれを許したなら、参謀として作戦を立てるだけ」

 「……良いの?」

 ボクは相手を見上げる。ニーラだって、分かると思うから。

 「親友の仇を、テネーブル様が他人に取らせる筈がない。有り得ない、率先して自分が殺しに行く」

 その言葉には、ボクも深く頷く。

 

 そう、魔神王テネーブル・ブランシュとは、そんな性格。大事なものは本当に大事にするし、それを奪ったものは絶対に許さず直接的に動きたがる。

 だから、本当に皇子が彼を殺したなら、親友の仇をボクに取らせるなんて、有り得ない。そんな性格なら、お母さんの事で人間と和解など無理だまで言いきらない。


 「……ニーラ・ウォルテールは、初恋の相手であるテネーブル様を疑わない。目の前に居たら、言われたことは何でもする」

 ぽつりと呟かれるのはそんな言葉。

 

 ……自分の事を客観視するような物言いに、ボクは上機嫌に耳をぴこっと動かした。

 その言い方は、自分がそうあるように操られている事を自覚している証拠。

 ボクだって直接言えないから、自分で気が付いて貰うしか無かった。だから、嬉しい。

 

 「でも、私はスノウの友達。友達の娘の為にもちゃんと動くのは普通の事」

 「ボクは、本当は……」

 「大丈夫です、アルヴィナ様」

 優しく微笑まれ、ボクは……

 

 「有り難う、ニーラ」

 その手を握り、初めてそう呼んだ。

 「はい、アルヴィナ様。必ずや。

 ですので、可能な限り相手の戦力を語っていただけますか?そうでなければ、アルヴィナ様の願う通りの作戦を立てることが出来ないので。」

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