困惑、或いは型式番号
「修……繕?」
目をしばたかせる黒髪の中性的な顔立ちの少年に、おれは頷いた。
って駄目だな、ぽろっと漏れた言葉を聞くに彼はその顔立ち等にコンプレックスがあるみたいだから、変につつかないように気を付けないと。女の子みたいだとか可愛らしいとかじゃなく、カッコいいとか男らしいといった言葉が欲しいんだろうし。
おれみたいに、かつての自分のトラウマもあるのかもしれないしな。同じ真性異言として、その辺りを分かってやるべきだ。
「というか、そこまで直っていたのか」
剣の柄を見て、ぽつりと呟く。
おれが轟火の剣でぶっ壊したから良く覚えてるんだが、砕け散ったというか、柄飾りが粉々に10パーツくらいになって、柄本体も真っ二つになってた筈だ。
頼勇に見せた時点ではパーツ同士を単純にテープというか粘着するし魔力を流せば取れる素材で貼り付けて形を整えただけ。強い力を込めると分解する程度だったんだが……
「ああ、アイリス殿下の協力もあって、何とかな」
と、蒼髪の青年は少しだけ顔ごと視線をずらして、ふふん、としたエルフの姫の方を見る。
「勿論だが、エルフから提供して貰った合金を中心にヒヒイロカネや一部には魔導性を切るためのオリハルコンといった希少金属でそれっぽく直している以上、エルフの協力無くしては此処まで辿り着けなかった」
「そっか、こいつは……」
「ああ、私だけじゃなく、皆で直した」
『Yu-jo!』
と、白石が叫ぶ。
そこは恋情や愛情じゃないんだな、って少しだけ思いつつ、おれは微笑む。
こうやって、誰かとアイリスが深く関わってくれるのは素直に嬉しい。ガイストもだが……引きこもりがちで、原作と違って他人への興味が薄く内向的になっている妹を変えていって欲しい。
余計な兄心かもしれないが、おれだって妹の将来くらい心配するのだ。
というか、原作ゲームだともっと積極的に人と関わろうとしてたろアイリス!?
加入はちょっと遅いというか聖女/勇者が二年に上がったタイミングなんだけど、それ以前からスポット参戦してくれるし寄ってくるし交流も出来る女の子の筈。
それを考えるとアナとは昔の縁かちょっと仲良しっぽいけれど、それ以外の関係性が変。というか、原作では普通に仲良くなれるリリーナ嬢を見るやふしゃーっと鳴く猫ゴーレムって明らかに可笑しい。
アイリス?彼女は主人公だぞ?何で初対面から嫌ってるんだ。しかも一応おれと婚約してるから、名目上は未来の義姉と更に仲良くすべき相手だ。
まあ、確実にそのうちおれから破棄して彼女の恋を完全に自由にする事が前提の婚約、義姉になるなんて有り得ないってことは分かってるのかもしれないが……
閑話休題。
「そっか」
「ただ」
と、真剣な顔で青年は続ける。
「形は直した。ああでもないこうでもないと皆で壊れた回路も修復した……と思う。
それでも、ブラックボックスは手を付けられない。そもそも、皇子から聞いていた冷たく青い結晶の刃というものが何で出来ていて、どういう理屈で構成されているのか、皆目検討が付かない」
青年は重苦しく告げ、左手に目線を落とす。
「父である貞蔵……いやレリックハートの性質が何か近いものな気はするが、魂を物質化した今の父に、確証もなくただの実験で無理をさせたくない」
そりゃそうだとおれは深く頷く。
例えばだが、成功する確証も何もないし失敗したら昏睡しかねないゴーレム関係の実験にアイリスを参加させろと言われたらおれだってぶちギレて帰るだろう。下手したら一発くらい殴るかもしれない。
おれが実験材料になるならまあまだ良いが、妹に無理させたくはない。
ATLUS相手に一ヶ月眠り続ける程に無理させておいてどの口がとなるが、それがおれの本心だ。
「だから、オーウェン。君のその時計の中身が力を貸せるようなものなら、おれ達じゃ分からない部分を同じ技術で解決して欲しい」
真剣に相手の目を見て頼み込む。
行けるって確信はあった。始水と共に見た異世界の存在の影。その中には……AGXっぽいものもあった。
といっても、巨大なATLUSみたいなものはほぼ無くて、人間が着込むくらいの大きさ。あれは始水によれば型式番号としては11に分類される機体……ほぼ確実に彼が持つという11H2Dの前段階だ それが影の癖に色の付いたエクスカリバーの前身みたいな武器を振り回してくるのは確認したし、直せなくもないだろうな。
確かエクスカリバー自体、正式には……
「E-C……何とかVⅥだったから、こいつはver6みたいなものだろう?
なら、同じようなものは君の機体にも搭載されていたんじゃないか?」
こくりと、少年は頷く。
「E-C-B-StV=ⅥS……って言うんだ、それ」
「む、難しいな……」
聞き覚えの無い単語の羅列に、青年が苦笑する。
「蒼輝霊剣ⅥSとも言うんだけど……
うん、僕もこの力はカッコいいから貰っただけで別に内部構造とか全く知らないから、もしも修繕が間違っててとかあったとしても手助け出来るかは怪しいんだけど」
強い意思を込めた瞳で、少年はぐっと手を握る。
「やってみる。僕に出来ることを。
僕にしか出来ないことって言ってくれたなら、それに応えたいから」
「……ああ、頼む」
「私からもお願いする」
『にゃにゃあっ』
と、ぴょんとおれの肩に突然乗ってきた猫が鳴いて。
「……何やってんだアイリス?」
『猫の……真似』
一気に空気は弛緩した。




