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オリエンテーリング、或いは黒鉄の時計

「……はい、ということでオリエンテーリングの日よ」

 二日後、何時ものようにノア姫がどこか興味なさそうに告げる。

 

 ……いや、真面目に教員やってたんだなノア姫……

 「何かしら、生徒な灰かぶり(サンドリヨン)?ワタシが居たら問題ある?」

 「いや、人間に教えてくれるのかって」

 「ええ、アナタも取りなさい、エルフの聖女史担当、ノア・ミュルクヴィズよ。

 週一コマだけれどもね」

 少しだけ茶化すように微笑んで、おれより……というか背が低めなアナよりも更に背の低いエルフは周囲を見回した。

 

 「なあゼノ、お前あの子と知り合いだっけ?」

 「エッケハルト。5年前から知り合いだぞどうしたんだ」

 「ああ、それ?ワタシ、あまり人間と関わる気が無かったから人前に出なかっただけよ。それで印象に残るほど出会わなかった。

 アナタも妹の為だってあの狼と引きこもってたでしょう?そのせいよ」

 事も無げに告げるノア姫。いや、そういうものか。

 

 「ってか、何でゼノ居るわけ?」

 と、どこか不満げに青年は呟いた。


 「悪いのか?」

 「アナちゃん達女の子で固めればハーレムだったのに!」

 「おれか竪神が同行必須の時点でハーレムは無理だ」

 「サイテーですエッケハルト様」

 と、茶髪の少女アレットがぼそりと呟く。

 

 「そもそも無理よ」

 と、ノア姫が何かを促した。

 おずおずと建物の影から出てくるのは一人の少年。

 見覚えはある。黒鉄の腕時計を持っていた少年だ。ユーゴでもシャーフヴォルでもなく、母親の目の件で来たあの少年。

 

 ああ、何となく感じた気配は彼か、と思う。

 いや、本当にそうか?

 悩みは無視して、彼を見る。オリエンテーリングだというのに武装はロクなものが無いな。元々前衛でないアナはそこまで武装してなくて当然だが、アレットはちゃんと特徴とも言える大盾を構えているし、エッケハルトは剣と刀を携えているのに、ナイフ一本だ。


 あ、そうだ忘れてた。

 

 「エッケハルト、月花迅雷返せ」

 「あれ?アナちゃんと共に俺にくれたんじゃなかったのか」

 「誰が。あとアナをおれのもの扱いするな。人のものじゃなくて一人の女の子だろ本人の気持ちを尊重しろ」

 ……何だろう、女子勢からどの口が言うんですか?みたいな冷たい視線が向けられている気がする。


 「まあ知ってたけど」

 そう残念そうでもなく、ほいとおれに投げ返されるオリハルコンの鞘に納められた力。

 

 それを腰に据え一息吐く。

 「そういえば、君の名は?」

 ナイフしか持っていない少年に尋ねる。名前すら知らないからな、おれ。

 一応何度か交流はしたんだが、名前を知らなくても良かった。だが、今はもう違う。

 だから精一杯怖くなさそうな顔を作り、問い掛ける。

 

 「オーウェン」

 「オーウェンか。そんな武器で良いのか?

 今日はオリエンテーリング。これから……」

 と、おれはすぐ近くの学園の裏門を見る。

 

 「暫く行って、近くの森で教師や他の人々が仕込んだ仕掛けと怪物の居る森でものを探してゴールを目指すんだぞ?

 武器が若しもないなら買うけれど、ナイフが良いのか?」

 「う、うん……」

 どこか怯えたように、少年は頷いた。

 

 「というかゼノ、このメンバー何なの?」

 「あ、それは基本的にわたしが選んだんですけど……」

 「アナちゃん!ならゼノ外してくれ」

 「だめです。そうしたら竪神さんですし、リリーナちゃんには気になる方と組ませてあげたいですし」

 「くっ……」

 アナに言われて、しぶしぶといった感じで引き下がるエッケハルト。

 

 それを見て、少年オーウェンは何だかぽかーんとしていた。

 「というかだノア姫」

 「ノア先生よ、礼儀を弁えなさい」

 「ノア先生。家には元々シロノワールが居るんで人数狂ってるんだが、何で更に5人目が入るんだ?」

 ふわりと背に引っ掛けたマントから現れるのはヤタガラス(擬人化モード)。すっかり見慣れた金髪の魔神王だ。

 

 「だからよ。数名欠けたことで、元々チームに分けきれた人間が余ってしまったの。

 ならどこかに入れてあげるのが筋。そうでしょう?」

 「いや、バランスとか」

 「そんなのとっくの昔に壊れてるじゃない。だから、アナタの所なのよ。今さら一人増えたところで戦力が突出しすぎなのは変わらないわ」

 「そ、そういうものか……」

 まあ、言われてみればそれはそうかもしれない。釈然としないながらもおれは頷いて

 「じゃあ、行くかオーウェン」

 銀の聖女から逃げるように、追加メンバーたる少年に声を掛けたのだった。

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