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食堂、或いは資料

「リリーナ嬢」

 どうかとは思いつつも、おれはというと、色々とバイキング形式な女子寮の食事を皿に盛っていく桃色髪の少女に声をかける。

 初等部の頃は寮に入るなんてよっぽどの存在のみ。だからこそメイドだ執事だシェフだは連れてて当然という扱いで、食事などは付いていなかった。故に、アナが頑張ってくれていた訳だが……高等部はもっと門戸が広い。貴族ばかりではなく、一般の庶民だって枠がある。

 そんな彼等彼女等の為にも、ちゃんと朝晩の食事が出るのだ。当然無料。

 

 おれの声を聞いて「あっ!ゼノ君!」と返してくれるリリーナ嬢が中々に頼もしい。反応してくれなきゃ女子寮に入り込んでるおれ、単なる不審者だからな。

 

 アナ?おれを見るなりなんか変な顔をして、食事もとりあえずに居なくなってしまったな。とりあえず、嫌われてるのは良く分かった。

 

 「でもゼノ君、ここ女子寮だよ?」

 「ああ、すまない。直ぐに帰る」

 実際問題、結構な問題行動だとは思う。

 周囲の目も冷たいし、乞食?なんて言葉まで聞こえてくる始末だ。

 

 いや、一応これでもおれも学生の一人な訳で、男子寮の晩御飯なら食べる権利くらいあるぞ?それなのに乞食説が出るってどんだけ信用無いんだよおれは。

 

 「皆、あまりおれを歓迎してくれないみたいだからな」

 と、苦笑してみせると……

 「それはそう。初めての寮での晩御飯!って時に、居ちゃいけない男の人が来たんだもん。ゼノ君じゃなくて頼勇様でも微妙な空気になると想うよ?」

 ……ん?あいつだったらキャーキャー言われてる気がするんだが……

 いや、どうなんだろうな?

 

 とりあえず思考を打ち切り、次に座る相手が一生懸命拭き取るなんて労力をしなくて良いように椅子は借りず。

 美味しそう!って積みすぎたリリーナ嬢のお盆からこぼれ落ちかけたサラダの器を手に持って、おれは少女の前に立つ……のは無礼か。

 膝を折って目線を合わせた。

 

 「いただきまーす!」

 手を合わせてニコニコと叫ぶ少女を見ながら、おれは持ってきた二冊の冊子を差し出した。

 

 「ん?」

 ごくりと喉を鳴らしてふかふかのパンの切れ端を呑み込むと、桃色髪の少女は渡された冊子を見る。

 「ゼノ君?」

 「リリーナ嬢。早めに渡さなければならないものだから、こうして多少問題のあるタイミングに来させて貰った。

 すまないが、それだけ緊急のものだと思って勘弁して欲しい」

 「うんうん、それは良いけどさ、これ、何?」

 こてんと倒される首。

 

 「これは……」

 周囲の女子生徒が冷たい視線を向けているのを確認して、弁明のために少しだけ声を大きくする。

 「他の皆にもそのうち配られる筈だが、これから半年……新年に一旦授業が終わるまで、つまり前期範囲の授業の一覧表と、どの授業を受けたいかの希望表だ」

 「え?ゼノ君ゼノ君、それ、配られるのに今渡す必要あったの?」

 と、意外そうな顔をしてリリーナ嬢にフォークで掌を突っつかれる。

 

 うん。一見するとそうなんだよな。だから白い目で見られる。ただ、必要なことだから折れはしない。

 「本来はそうなんだけれど、リリーナ嬢とシエル様……つまり聖女様方だけは特別なんだ」

 「どうして?あ、お野菜美味しい!」

 食べ続けながら、けれども口を一杯にはしないように量を抑えて少女が問いかける。

 

 帝国自慢の野菜を食べる少女に少しだけほっこりしながら、おれは続ける。

 「聖女様は、何らかの不測の事態がないように機虹騎士団が護衛する事については、理解してくれているだろうか?」

 「知ってる!」

 ニコニコ笑顔に、おれは頷く。

 

 「当然なんだが、授業中においても、それは続く。貴女方の受ける授業には、竪神、おれ、そしてガイスト副団長の何れかが必ず同行することになる」

 「あ、そうなんだ」

 えー、男の人と一緒強要なのー?と言われたら困ったところだが、ふーんと特に問題無さげに納得された。

 いや、言葉の端から原作では頼勇推しって分かるし、一緒の授業が増えるのは寧ろ願ったり叶ったりなんだろうか。

 

 「ん?ゼノ君だけじゃないんだ」

 「ずっとおれだと、気が詰まるだろう?それに、君の恋路の邪魔にもなる」

 ざわりと揺れる周囲の女子達。

 聖女様、良かった……とかそんな声が聞こえる。やはりというか、おれとの婚約って可哀想……されてたのかリリーナ嬢。

 

 「うん、そうだね?」

 「だから、調整の為に聖女様方には希望を他よりも早くに提出して貰わなければ困る。そして、今を逃すと入浴と就寝の時間。その時に訪れる方が更なる問題だと思い、こうして今時間を取らせてしまった」

 「オッケー!」 

 言いつつ、ぽんと資料を叩いたリリーナ嬢は美味しい!とサラダを更に一口。

 

 「あと、リリーナ嬢。その資料には最初のオリエンテーリングの希望人員表も入っている。

 本来、教員の側がメンバーを決めるが、派閥が煩くて面倒なんだ。当人の希望ばかりは何も文句を出せないから、直接希望を出してくれ」

 一息切って、真剣な眼で少女の緑の瞳を見据える。

 

 「ただ、一つだけ。オリエンテーリングについては、ガイストはアイリスのところに居るから不参加になる。

 だから……おれか竪神のうち片方を必ず希望班員3人の中に入れる事と、もう片方を絶対に入れないこと。それだけを徹底してくれ。他は好きに選んでくれて良い」 

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