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炎の公子と一世一代の賭け(side:エッケハルト・アルトマン)

「アナちゃん」

 ベッドの上に起き上がりペタンと女の子らしい足を折った座りかたをする女の子を前に……流石にベッドの横に座るのは距離近すぎて駄目だよなーって思って椅子を持ってこようかと考えて。

 でも、これからの事は俺にとって割と一世一代の賭け。なんとなーく告白されないかなーと生きてきて、そこそこ仲良くなれた後輩の女の子は居たし妹とも仲は良かったけど、結局受け身で誰とも付き合わずに死んだ『俺』から変わる決意。

 それを、座ったままというのも違和感が強くて。

 

 「あっ、立たせてちゃ悪いですよね」

 って、自分がちょっと自身の為のふかふかベッドの端によってスペースを作ってくれる彼女が無防備にも思えて、胸が熱くなる。

 

 「いや、立ってた方が多分良いんだ」 

 そう告げて、キリッとした眼になるように一度眼を閉じてから……膝を折ってふかふかのカーペットが敷かれた床(ちなみに違和感あるので靴を脱いでしまっているが脱がなくて良いらしい)に片膝をつく。

 そして銀の髪の女の子、妹の部屋で見た小説の表紙で一目惚れした乙女ゲーヒロインそのままの姿の少女と目線を合わせ、ふわりと薫る爽やかな香りを吸い込みながら、決意の一言を切り出した。

 

 「アナちゃん。アナスタシア・アルカンシエル。

 俺は、君の事が好きだ。炎の色のこの髪のように、消えない想いがずっと心で燃え続けているんだ。君に出会って、ゴーレムと戦って……その辺りから、ずっと」

 

 少女のアイスブルーの愛らしい瞳がほんの少し見開かれる。

 「エッケハルトさん」

 「だから、アナちゃん。俺と付き合ってくれ」

 淡雪のようで、儚くて。けれどもそうではないことを知っている少女の瞳を見て、俺は心の底から、空気と共に言葉を絞り出す。

 

 「でも、エッケハルトさんには好いてくれる女の子が居ますよ?

 わたしじゃなくても、良いんじゃないんですか?」

 最初に来るのはそんな言葉。優しさからか、残酷なそれ。

 

 「アレットちゃんや、ヴィルジニーちゃん?

 いや、後者は良く分からないけど……確かにアレットちゃんとの手紙での交流はずっとしてた」

 でも!って拳を握りこんで力説する。

 

 「確かにあの娘達は可愛いし、俺を憎からず想ってくれてるのかもしれない。

 嫌いじゃないし、寧ろ好きだけど!

 

 俺が一番好きなのは、君なんだ!何より、誰より、君を幸せにしたいんだ!」

 素直な気持ちを叩き付ける。

 

 「勿論、君や皆が許してくれるなら重婚とか、考えたりもするんだけど……君が嫌がるなら、そんな事考えない。俺にとって、一番大事なのは君の笑顔なんだ」

 重婚は可能だし、実際ゲームでもエンディングが矛盾しない範囲でなら重婚させられた。あんまりやってる人居なかったらしいし、ルートヒーローはロック掛かるんだけど……

 

 ハーレムとか憧れはする。でも、愛しいこの娘が泣くならその方が問題だ。

 「あはは……そう、なんですね」

 って、少しだけ淋しそうな微笑みを少女は返してくれる。

 

 「でも、わたしは……皇子さまが」

 「あいつは!君を幸せに出来ない!」

 思わず叫んでいた。

 

 フラッシュバックするのは、小説版での内容

 流石に乙女ゲーだから、最後の方はイチャイチャしてたし幸せそうだった。それは良い。ハッピーエンドが一番だ。

 でも、

 

 「あいつは、ゼノは!君を幸せにする気なんて欠片もないんだよ!」

 すまん、ゼノ。でも……言わせてくれ。これだって俺の本心なんだから。

 

 「アナちゃん!あいつは応えてくれない。傷付くだけだ」

 「そんな事ありませんっ!」

 思わず伸ばした俺の手を優しく触れて下げさせて、雪の少女はきゅっと唇を結んで此方を見据えてくる。

 

 「確かに、皇子さまは自分勝手で、わたしが()めてって思っても止まってくれなくて、誰も信じずに一人で行っちゃいますけど!」

 ……うん、否定できない。

 

 ゲーム内でも言われてたけど、ゼノってああ見えてとんでもなく唯我独悪、自己中で俺様系キャラなんだよな。

 護るべきもの、救うべき民。誰とも知れないというか多分誰でもない彼自身の脳内で決めた妄想の為に突っ走る。単にその基準というか、妄想の中の民像に割と恵まれない子や国民合致するから英雄でイケメン皇子のように見えるだけ。

 その実、あいつは他人を見ていない。

 

 その性格が、ゲームでは確かにヒロインによって変わっていくのだが……それまでに、彼女は何度も傷付く。

 俺は、それを見てられない。ゲームなら、小説なら。ハッピーエンドが約束された『物語の中ならば』、まだ許せる。

 

 でも、始まりはゲームでの推しというところから始まった恋でも。

 惚れ直した。その容姿も、優しさも、頑張るところも……全てをまた好きになった。俺にとって妄想ではなく現実になったこの娘が傷付く所を見たくない。

 

 ゲーム通りに進むならまだ良いけれど。ユーゴみたいな奴が居るのに、そんな保証はない。どんな傷を負うかも、死んでしまうかも分からない。

 それでも、ゼノは止まらない。あいつが止まる筈がない。

 

 なら、そんなの……そんなのを追いかけ続けて傷付く不幸、俺が嫌だ。

 「そうだよ、あいつを想っても、君は不幸になるだけだ!君を見てすら居ないんだよ!」

 その言葉に、少し離れた位置から見守るノア先生がそうね、と頷いていて。

 

 「だから!俺が君を幸せにするから!」

 「でもっ!わたしは、皇子さまを助けてあげたくて」

 揺れる瞳の光。スカートの裾を握り、目線が少し下がりながら少女は呟く。

 

 「それが何なんだよ、アナちゃん!」

 ……言ってくれた。助けてあげたい、と。

 それが本心だからこそ、俺は諦めずに前に行ける。ゲームでだって、設定からして小説版を見るにゼノの事を大事に思ってても、別ルートがある理由はこれだ。

 「君のそれは恋じゃない。ただの憧れだ」

 「でもっ!」

 泣きそうな顔の涙を拭いたくて、でも触れるのはまだ早くて。

 精一杯微笑んで、続ける。

 

 「助けたい気持ちは俺だって分かるよ。でも、それとこれとは全く関係ない」

 噛まないように、とちらないように。深呼吸して精一杯キリッとして。

 「だってそうだろう、アナちゃん。

 君はゼノを助けてあげたいだけ。別にそれは……あいつを想って苦しまなくても出来る。誰かと恋をしながらだって!」

 その言葉に、少女は小さく眼を伏せた。

 

 「そうかも、しれないですけど」

 「あいつは君を見てくれない。不幸になるだけだ。

 その苦しみは、君をずっと好きだった俺が一番知ってる。だからもう、君が不幸になるのを見てられないんだ」

 

 戸惑う少女の手を握り、キレイな瞳を覗き込む。

 「だから、俺と付き合ってくれ。俺と幸せになって、未来を見て、おれとゼノを助けるように頑張ろう」

 それでも、少女の瞳は迷う。

 

 ……あと一個、押せるものがある。

 やるか?って少し悩む。これは卑怯じゃないか?

 

 でも、良い。どうせどこかでばらさないと不公平。この娘に嘘はつきたくない。

 

 「それに、アナちゃん。俺……とゼノは、実は別の自分の記憶があるんだ」

 その言葉にちょっとだけ口を開けて、少女は驚きを返す。

 

 ん?案外驚いてないな。

 「あれ?アナちゃん知ってたの?」

 その言葉に、少女はこくりと頷いた。

 「皇子さまが、わたしの知らない人の名前を懐かしそうに、苦しそうに呼んでたのは聞いたことがあって……でも、わたし、アイリスちゃん達から聞いてもその人の事、何にも分からなくて」

 

 だから、と銀の髪の少女ははにかむ。

 「きっと、皇子さまじゃない皇子さまにとって大事な人なんだって事は、分かってたんです」

 「なら、俺の言うこと、分かる?」

 「はい、分かります」

 意を決して、ちょっとの後ろめたさを舌に載せて、おれは語る。

 

 「俺もゼノも、実は君の事を知ってるんだ。未来にありそうなものを描いた物語の登場人物として」

 「アステール様から、神様がそういう人の事を真性異言(ゼノグラシア)って呼ぶんだーって教えてもらいました。

 何だか、皇子さまの為にあるような言葉です」

 うん、ゼノの名前の由来って未知(ゼノ)だし、語源が同じだから当然だ。

 

 「その物語の中で、ゼノと君が恋仲になる可能性があった。俺とアナちゃんもまた」

 「そうなんですか?」

 ちょっとだけ少女の表情が和らぐ。

 「その事は、ゼノだって知ってた」

 

 まあ、君だと気が付いてなかったんだけど……って何で気が付かないんだよあいつ!?

 確かに小説版容姿だし、出身も当時は違ったけどさ!?ゼノからして何か過去にあったのは確実だろ!?

 いや、それで孤児院潰される気がするってアナちゃん達を任せられてたのに領地にいってる間にさくっと潰された奴の言うことじゃないけど!

 

 「その上で、あいつはああした態度を変えず……リリーナちゃんと婚約までした」

 ここからひとつだけ、嘘を混ぜる。

 「そう。あいつは、君との未来を描けることを知りながら、リリーナちゃんを選んだんだよ」

 「そう、なんですか……?」

 アイスブルーの瞳が揺れる。目尻に涙が滲む。

 

 「ああ。分かってて君を捨てたんだ。

 だから、俺が必ず君を幸せにするから……」

 少女は眼を伏せて、

 

 「悪魔の哄笑……」

 不意に、横から声が響く。

 「ガイスト……公爵?」

 「血の縁を結ぶにしても、年を廻らせ……」

 何と言うべきか悩むように、仔犬系の攻略対象は何かを言おうとして、

 「つまりだ。私達はアイリス殿下と共に、苦手な舌戦を繰り広げて何とかこうして聖女等の守護の役を勝ち取った。

 それを、恋仲で婚約者でとされては……守護の役は恋人に取って変わられてしまう。せめて一年くらい後ならば問題はないが……」

 フォローするように姿を現した青髪の青年、竪神頼勇は小さく苦笑する。

 

 「昨日の今日では、お兄ちゃんの為って守護の役を無理矢理もぎ取ったアイリス殿下含めて良い笑い者だ」

 あ、確かに。

 「アイリス派ならばまだ言い訳は効くが、アルトマン辺境伯はそうでもない。

 付き合うにしても、一年ほど、私達が馬鹿と笑い者にされないだけの時間が欲しい」

 「然り」

 と、ガイスト。

 

 「そ、そうですよね」

 良かったって顔に浮かぶアナちゃん。

 「エッケハルトさん」

 と、何かを決めたように、強く強く手を握り込んだ少女の瞳が俺を見返す。

 

 「有り難う御座います。

 わたしの事を、そんなに考えてくれて。わたしの幸せを、優しいものだけじゃなく優しくない嘘までついて傷付いてでも、わたしよりも想ってくれて。

 そこまで、貴方みたいな素敵な人にこんなに想って貰えて、とっても嬉しいです」

 でも、と少女はぱたぱたと手を振った。合わせて流れるようにサイドテールが揺れる。

 

 「確かに、わたしが皇子さまとは関係なく幸せを求めても良いのかもしれないです。けど、すぐには気持ちを切り替えられないです」

 きゅっと、髪から外した雪の髪飾りを少女は胸元に当てた。

 「待つよ。すぐにゼノより好きになって貰えるとまでは自惚れてないから」

 「はい。すみません。

 だから……暫く待って下さい」

 ワンチャンあるその言葉に、俺はしっかりと頷いた。

注意書:NTR好きには申し訳ありませんが、ワンチャンはありません。アナちゃんはあんなこと言ってますが、優しくない嘘と発言する辺り裏で怒ってます。

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